COP26の結果と世界・日本の現状
資本の政府や体制では温暖化問題も迷走するのみ
COP26(気候変動枠組条約第26回締約国会議)がイギリス・グラスゴーで開催されてから既に一か月になる。やや遅くなったが、先日長野で温暖化問題学習会を開催したので、そこでの報告などを元に、この会議の結果や各国の取り組み、とりわけ日本政府の取組みや政党、労組などの対応も含めて現状をまとめてみた。
<COP26の結果>
COP26の会議は10月31日から11月12日の予定だったが、脱石炭火力などをめぐりインドなどの途上国と先進国の協議がもつれ、一日延びて11月13日に終了した。世界から190の国と組織が集まり交渉やイベントが行われ、また、世界の環境団体からも多くの若者が集まりデモや集会などを行った。結果的には、パリ協定の「2℃未満、できれば1.5℃未満」目標から「1.5℃をめざす」と、形としては一歩前進することになった。
しかし、石炭火力をめぐり、議長国イギリスや欧米諸国の「段階的廃止」案に対して、インドなどが最後まで抵抗し中国の加勢もあって「段階的削減」に落ち着くなど交渉は最後までもつれた。また、温暖化対策のための途上国への先進国の援助1000億ドル/年の目標が達成されていないとして途上国から不満が出され、2025年までに改善することになるなど先進国と途上国との軋轢がめだった。
ちなみに日本は、CO2排出量が最も多い発電方式の石炭火力に大きく頼り(現在発電量の約3割は石炭火力)、2030年の目標でも19%までしか減らそうとしていないとして国際NGOのCAN(気候行動ネットワーク)から「化石賞」を賜るという不名誉を被ったのだが、石炭火力をめぐる会議での攻防にも日本はダンマリを決め込み、会議終了後の環境省の報告にも当初は石炭火力のことは一切触れておらずネット上などで批判が噴出するありさまであった。
国連によれば、1.5℃目標を実現するためには「世界全体で2030年までにCO2の排出量を45%削減(2010年比)しなければならない」とされている。この目標からみたとき、先進国では2030年までにおおむね50%前後の削減目標を出している。例えば、EUは55%削減(1990年比)、アメリカは50~55%削減(2005年比)、日本は46%削減(2013年比)し、2050年までにゼロエミッション(排出ゼロ)を達成する、等々。
しかし、途上国では、最も排出量の多い中国は「2030年までにピークアウトし、2060年にゼロエミッション」達成、インドやロシアは2070年ゼロエミッション、等々の目標となっており、世界全体としてみたときには到底1.5℃目標を実現できる状況にはなっていないのだ。しかも、最近の米中対立の先鋭化に見られるように、お互いに協力して(もちろん、そんなことは期待できないが)地球規模の環境問題にも対処すべき時に経済的覇権をめぐって熾烈に対立し少しでも出し抜こうと画策し合っているのが世界の現実なのである。
この点では先進国間においても同様である。先進国同士でも少しでも自国の負担を減らそうとし、他方、特定の分野ではできれば出し抜いて指導権を握ろうとお互いに腹の探り合いをしている始末なのである。
例えば、日米欧とも削減の基準年が異なるが、日本の場合には震災により原発が停止し火力発電に頼り切っていた2013年が基準であり、EUは東欧諸国の“社会主義体制”が崩壊しEU加盟に向けて動き始めた1990年が基準年になっているが、旧来の非効率な火力発電などがEUの援助等で改善したことの底上げ効果をあてにしている、アメリカはリーマンショック前のある意味バブル景気に沸いていた2005年を基準としている、等々。
ドイツのポツダム気候影響研究所などの支援で各国の気候対策を追跡しているクライメート・アクション・トラッカー(CAT)によれば、各国提出済みの計画(目標)を集計した結果では2100年までに全球平均気温は2.4℃上昇し、名目的な目標ではなく実際の政策の実態分析では2.7℃上昇するという予測も示されている。
これは、今年8月に出されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第6次評価報告書の五つのシナリオで言えば中間的なシナリオ(SSP-2-4.5)の「CO2排出が今世紀半ばまで現在の水準で推移」にほぼ該当する水準である。
1.5℃目標を達成するためには2050年ゼロエミッションを実現するCO2排出が最も少ないシナリオ(SSP1-1.9)に沿う必要があるのだが、到底そこに達する見通しはないということである。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリらが「ブラ、ブラ、ブラ」(無意味なおしゃべり)等と叫び怒りを露わにしていた所以である。
今回のCOP26の会議では原発のことにはほとんど触れられていないのも特徴的である。ドイツなどを除けばEU、アメリカ、日本とも脱炭素実現のために再エネだけではなく原発(既存原発だけではなく、特に小型モジュール炉といわれる20~30万KW級のもの)の使用を当然のごとく前提にしているのだ。
フランスでは原発比率が7割にも達しているが、これまで新規建設を停止していたのを最近になって方針転換し、日本では過日の自民党総裁選で高市がこの小型モジュール炉をさも新しい“夢の”原子炉であるかのように持ち上げていたのを記憶している方も多いのではないかと思う(資源エネルギー庁もこれを将来性のある原子炉として紹介している)。
しかし、自然エネルギー財団などによれば、この小型モジュール炉は原発開発の当初から研究・開発が進められてきているものであり、それが実際の発電に使われてこなかったのは危険性や高濃度廃棄物などでは既存原発と変わりないのに、スケールメリットがなく建設工期の短縮などにもつながらないため経済的に合わなかったからだという。
実際、再エネのコストはここ十数年で飛躍的に低下してきているのだから、既存原発だろうと小型モジュール炉だろうと経済的にも無用な長物なのである。だから、あえてそれに拘るのは既存電力資本や開発会社の利益を考慮したものか、核兵器技術の温存や製造のための原料(ウラン、プルトニウム、等)確保を狙ったものとしか言いようがないのだ。
<日本政府や関連企業、労組、政党、NGO、等の対応>
日本政府の取り組みについては既に上でも触れたが、菅前政権は今年4月にバイデン大統領が呼びかけた気候サミットに合わせて2030年46%削減を表明し(パリ協定以後これまでは26%削減としていたのを前倒し)、今年10月には岸田政権はエネルギー基本計画を閣議決定し2030年の電源構成目標を石油2%、石炭19%、天然ガス20%、アンモニア1%、原発20~22%、再エネ22~24%とした(アンモニアは石炭火力で混焼するなどの分)。
石炭火力について言えば、従前の目標の26%から19%に前倒しされたものの依然として重要な電源として位置づけられ、CCS・CCUS(CO2の回収・貯留・利用)技術の開発などでお茶を濁そうとしているのであり、また、原発は従前と同じままの20~22%としていて既存原発の再稼働や上に見た小型モジュール炉の導入などを目論んでいるのである。
環境省のホームページを見ると、COP26の成果として「市場メカニズム(排出権取引)のルールブックが決定」したということを大々的に掲げているのだが、つまり政府のもう一つの頼みは途上国の排出削減援助などによる排出権取引によって日本の削減分を稼ごうという魂胆なのだ。
しかし、これではかつての京都議定書第一約束期間(2008~2012年)の取り組みと似たり寄ったりの代物になるほかない(日本は、1990年比で8.7%減を約束したが、その内の6.2%を排出権取引でまかなった)。
1.5℃目標が実現できるようなエネルギー転換とそれにともなう産業構造の転換を進めていくには、よほど大胆な計画とリーダーシップを持って産業の再編と労働力移動を行っていかなければならないのだが、政府の現在の取り組みは新技術の研究開発に多少の基金の上澄みをする程度であり、あとは民間企業や自治体まかせの“成り行き路線“、惰性路線としかいいようのないものである。
では、民間企業や当該の労働組合等はどうかといえば、これまた、自産業や自分たちの地位の現状維持等に汲々としているといった状態で、とても率先して新しい産業社会を実現していくといった気概は感じられない。
電力資本に至っては以前から「原子力村」等々とも言われてきたように政府やエネルギー庁、等と癒着し甘い蜜を吸ってきたのであり、原発に限らず火力発電や配電網等も含めて到底その利権を手放す気はなく、その点では政府と一心同体なのである。
また、電力労連等も率先して温暖化問題に寄与しようなどという気概は毛頭ないばかりか、この問題について表面上はダンマリを決め込みながら裏では上部団体の連合を通じて原発や石炭火力の温存に奔走しているのである(今年4月の参院補選などで見られた連合の反原発アレルギーを見よ)。
CO2排出削減との関係では自動車産業のEV化の問題があるが、他メーカとの「生きるか死ぬかの闘い」を呼号し社員にハッパをかけるトヨタにあってもハイブリッド(HV)と純粋の電気自動車(EVまたはBEV)との二股路線であり成り行きを見ながらのEV化路線でしかない。
自動車労連等にしても政府に支援を要請し何とか自分たちの現状を維持したいといったお願い路線しか取り得ていない(今衆院選においてトヨタ労組が愛知での組織内候補を取り下げ、自民に平身低頭のへつらいを見せたことを想起せよ)。
次に、主に原発や石炭火力に焦点を当てて野党の対応を見てみる。先ず、国・民であるがその政策集で「原子力に代わるエネルギー源が確立されるまでは……重要な選択肢」としているのだから、「2050年カーボンニュートラル社会の実現……をめざします」といっても原発温存を前提にしているのであり、連合などの路線と符合しているのだ。
「原子力に代わるエネルギー源」が既にさまざまな再エネ発電として確立しているのだということを彼らは都合よく”忘れている”のだ。立・民については、同じく政策集で「2050年までのできる限り早い時期に原子力エネルギーに依存しないカーボンニュートラルを達成」すると書かれている。
これも裏を返せば、2050年までは原発を温存させ再稼働も認めるとも読める。つまり、表向きは原発フェードアウトを謳いながら連合などにも配慮し温存の余地を残しているのである。共産党はこの点では徹底している。9月に発表された「気候危機を打開する日本共産党の2030戦略」で、「2030年に、石炭火力、原発の発電量はゼロとする」と石炭火力と原発の廃止を明確に打ち出している。
また、発電と送配電事業を分離する発送電分離を進め新規参入を容易にし、再エネ発電のコスト上昇を抑えること、再エネ施設設置に伴う乱開発の防止についても言及するなど、かなり詳細な「戦略」を示している。しかし、共産党はこうした「戦略」を示しながらも、他方では立・民、等との野党共闘を進めようとしているのだから矛盾している。もちろん単独で政権を樹立してこうした政策を推し進める見通しもないのだから自家撞着するしかないのだが。
政府や与野党に共通しているのは、これらの政策はいずれも補助金や税制等を通じた誘導政策であり(もちろん、部分的には開発規制のような制度的枠組みの変更もあるが)、しかも政策が大規模であればあるほど財政負担等も大きくならざるを得ず、借金財政に頼らざるを得ないということである。欧米諸国でもその点は同様であり、「グリーン・ニューディール」とか「グリーン・リカバリー」とか言われている所以である。
アメリカでは若者を中心とした温暖化問題運動体としてサンシャイン・ムーブメントが脚光を浴びている。彼らは民主党最左派といわれているバニー・サンダースやオカシオ・コルテスなどとも連携して気候変動問題を中心としながら格差の是正、人種差別やLGBT問題の解決、労働組合の復権、等々も含めた大規模なグリンーン・ニューディール政策の実現を求め、バイデン大統領の政策等にも大きな影響を与えている。
彼らは、現在の差し迫った危機を1930年代の大恐慌とそれに対処したニューディール政策になぞらえて政府主導の大規模な財政出動と強力なリーダーシップによる社会・経済の再編をめざしているのである。しかし、全国労働関係法(ワグナー法)や社会保障法等を含むローズベルトの元祖ニューディール政策は、当時全米で吹き荒れた労働争議やゼネスト等に押されてやむなく採用された資本主義の救済・延命策の一種でしかなかったことを彼らは忘れている。
彼らは、1930年代に始まり戦後1960年代まで続いたアメリカの体制を「長いニューディール」として美化し、1980年代からのレーガン体制(新自由主義)と対比してその転換を訴えているのであるが、資本主義の下でも何か調和的で全ての階級にとってハッピーな状態(彼らは、単なる格差の縮小をハッピーな状態と理解する)が実現できるかに夢想しているにすぎない。
しかも、彼らの主要な手段はMMT(現代貨幣理論)等を含む“積極財政”なのだから始末に負えない。こんな解決策では、温暖化問題や格差の是正が多少なりとも進展する前に財政崩壊や金融パニック等が世界的に勃発しないとも限らないし、たとえ首尾よく暫定的な解決に辿り着いたとしても、また別の形での乱開発や資本の横暴が起こってこないとは言えないのだ。
日本でサンシャイン・ムーヴメントと最も近い立場をとっているのは東北大学の明日香壽川らを中心とした「未来のためのエネルギー転換研究グループ」である。彼らは今年2月「リポート2030」(2050年までにカーボン・ニュートラルを実現するための、2030年までのロードマップ――日本のグリーン・ニューディールであり、コロナ禍からのグリーン・リカバリー〔緑の復興〕を実現するための具体的提案)を発表した。
また、6月には彼らが中心となって、各政党に温暖化政策を問いただすウェブ・セミナーを実施してYouTubeで公開し、7月には「グリーン・ニューディール政策研究会」を設立するなど活発に活動している。
政党で彼らから最も大きな影響を受けているのは共産党である。先に見た共産党の「2030戦略」は、もちろん他の諸団体のロードマップ等も参考にしてはいるが、基本的に明日香らの「リポート2030」をベースにしているように見受けられる。
つまり、共産党も明日香らと同じく気候変動問題等への対処を「新自由主義の転換」と「グリーン・ニューディール」の実現として考えているのであり、これが彼らが以前から主張している「ルールある資本主義」の現実的・実際的な適用だというわけである。
MMT等の”積極財政”で問題を解決するという点では最も”過激な”形で(つまり、最も馬鹿げた仕方で)気候問題にも対処しようとしているのは「れいわ新選組」である。今回の衆院選で兵庫・比例から初当選した大石あき子も上記「グリーン・ニューディール政策研究会」のメンバーになっており、今後具体的な政策を詰めていくのであろうと思われる。
以上、気候変動問題に対する世界と日本の状況を簡単に見てきたが、いずれにしても、今日の世界や日本は気候変動問題プロパーはおろか、“気候正義”にもとづく格差・差別の解消や南北対立等も解決できる状況にないことが分かる。そもそもこれらの問題は、資本主義の下での労働の搾取や様々な差別の温存・創出、途上国からの収奪、「我亡き後に洪水は来たれ」式の利潤優先の生産、等々に由来している。
だから、資本主義の存在を前提としていたのではいかなる方策をとってもまともな解決はできないのである。われわれは、日本のみならず全世界の労働者と団結し、われわれ自身による生産や排出のコントロールをめざして闘っていかなければならない。 (長野、Y・S)