神奈川県で『資本論』の学習会を行っている「横浜労働者くらぶ」が発行した「労働者くらぶ第21号」(2022年9月21日発行)から、紹介します。
“保育の社会化”の完全破綻
―― 通園女児置き去り死事件
静岡県牧之原市で、保育施設(「認定子ども園」)の3歳の通園女児が送迎バス車中に置き去りにされ死亡する事件があった。施設側の釈明では素人じみた杜撰な安全管理が露呈した。
事件は波紋を呼んで、一週間しても慰霊の献花台を訪れる人々が絶えない。同じ通園児を持つ親たちが怒りと悲しみに暮れて慰霊に訪れる。献花台の前には飲料のペットボトルの山ができている。遺児を悼む全国の親たちのやるせない想いが伝わる。
◆ 保育の営利市場化を拡大推進したアベノミクス
元自民党衆院議員の金子恵美という人が、情報番組でコメントしている。金子元議員は安倍内閣の高官、総務大臣政務官だった。日本会議議連・神道政治連盟議連・靖国参拝議連に所属していた。
『金子氏は「まず、お父様がその時の様子をお話しされているのを聞いて、3歳児が本能的に暑くて苦しくて取った行動かと思うと本当に涙が出てきますよね」と声を震わせ、会見については「運転を普段していないとはいえ、この期に及んで不慣れだったっていう言葉が出て…。園長というのは、ヒューマンエラーが起こりにくい仕組みだとかマニュアルだとかを整備して、それを職員に対して徹底して教育する立場の人が、それを任せていたとか。むしろ率先して子供をみて、子供に配慮してもらわなければいけない立場の人がこうした意識だったってことが判明して、まさにこの園の体質、経営者のスタンスがそのまま現れた」と怒りをにじませながら話した。
そして「今、保育の現場、保育事業は、保育の受け皿としてこうした認定こども園とか多様な保育施設を受け皿としてつくって、先般、過去最少に待機児童がなったと、保育の量は増えてきてるけど同時に質を見ていかないといけないという議論が今されている中で、保育内容の質はもちろんなんですけど、子供が質の高い保育を受けられる前提にあるのは安全な保育環境だということを多くの保育士さんは考えていらっしゃる」としつつ、「今回はレアな例だとは言っても、今一度すべての保育者の方々にそのことを再認識していただきたいなと、親の一人として思います」と自身の思いを話した』(スポニチ・アネックス、9/7)
「今、保育の現場、保育事業は、保育の受け皿としてこうした認定こども園とか多様な保育施設を受け皿としてつくって、先般、過去最少に待機児童がなった」と金子は言う。だが、介護子育ての社会化を名目に民間介護保育事業を成長産業分野とし、介護保育の営利市場化を拡大・推進してきたのは、金子も政府高官として加担したアベノミクスである。観光も同じだが、市場開放により、投機的な営利市場主義の胡散臭い業者や起業家たちも、介護保育市場にどっと参入している。その歪みが、今回のような事件に顕れているのだ。
保育の質や安全を軽視するような「園の質、経営者のスタンス」が疑われる事例も発生したとは、それがそもそも営利市場に保育事業の受け皿を国家規模で丸投げすることの、赤裸々な結果と実態だ。保育を市場原理の盲目の手に委ねておきながら、何を今さら「怒り」だ!
このブルジョワ市民社会は、自分たちの家族・血縁・地域コミュニティの担い切れなくなった介護保育を、偏に民間介護事業者や介護保育労働者の労苦に丸投げして恥じない。「親の一人として」、保育事業従事者に対し、質と安全を高めろ、意識を持てなんぞと金子はクレームしているが、保育従事者は召し使いではない。
◆ 保育を金儲けの対象にしていいのか!
タイでも同様の通園通学バス置き去り事件が多発しているそうだ。中部チョンブリ県で7歳女児が亡くなる事件が先月あったばかりだ。2014年以降120件、6人が亡くなっているという。
メディアが現地市民たちの対処法の様子を伝えていた。それは通園児自らが、自己防衛の手立てを大人から躾られるということだった。置き去りになりバスに閉じ込められた場合の救援の求め方などを、実地訓練や児童向けの絵本で啓発している。
高みから、保育者よ、意識を持てと他人にクレームするだけの、どこかの国の誰かさんとは大違いではある。それ以前に、自分の子供に自分を守る手だてを自助と躾によって身につけさせるのが、タイ流である。
スクールバス大国の米国や韓国でも対策が取られているが、どちらかというと検知器や警報器頼みのようである。タイではそんなハイテク・インフラにあまりコストをかけられないのか、逆に児童と親の側の手弁当の自衛策に着目したようである。子供や親の自助が注目されるのは、大家族社会のタイでは、日本ほど徹底的に血縁共同体や地域コミュニティが解体され尽くしていないからだろう。
日本の市民社会は大きな勘違いをしている。営利目的の保育業界資本(ほとんどが中小零細である)と、私的な経済的利得を直接の動機とした、賃仕事としての保育労働が、保育の安全の質を完全に保てるなどという観念は、ふやけたお花畑の幻想である。
保育従事者の意識を変える前に、保育労働者の労苦に一切を甘える市民社会の意識を変える方が先だろう。
【追記①】9/13
◆ 保育労働者への責任擦り付けを許さない!
TBS系情報番組「ひるおび」に出演した芸人の立川志らくというのが、保育従事者へのストレスと憎悪をぶちまけている。
「幼稚園の先生は忙しいですよ。給料も安い。でも見りゃいいだけの話。そんなことは別に大変なことじゃない」「そんなことができないような人たちに子どもの命を守らせたら、そんな仕事に就かせたらいけない」「どうしてもやっぱり納得できないのは…先生たちの訓練をすべきなんですよ」「先生うんぬんじゃない人間として最低限のこと。人様の子どもの命を預かって、『誰も残ってない』って見るだけのこと」「先生しっかりしてくれよ」「すぐお辞めになっていただきたい」「人としてあり得ない」
毎度の“長屋の熊八”の床屋談義レベルだが、このコメントは当然ながらネットでも保育従事者から反発を呼んでいる。保育労働者の仕事を「別に大変なことじゃない」と見くびり、「そんなことができないような」保育労働者に退職まで促している。社会的保育を保育労働者の労苦に一方的に甘えながら、いけしゃあしゃあと問題の所在を保育労働者の責任に不当に還元し擦り付けている。不埒だ。
保育労働者はこのような労働者攻撃に反撃すべきだ。
【追記②】9/14
◆ アベノミクスの歪み噴出
『全日本私立幼稚園連合会を巡る業務上横領事件で、逮捕された前事務局長が、連合会の口座からおよそ3500万円を着服したとして再逮捕されました。カネは愛人関係にあった女性とのフランス旅行などに使ったということです』(日テレnews.9/14)
業界団体の事務局トップがこの有り様。幼稚園保育業界といい、施設虐待蔓延の介護業界といい、知床事件の観光業界といい、アベノミクスの成長基幹産業は揃いも揃って歪みが噴き出している。
(七鴉子 https://hushicho.fc2.net)
横浜労働者くらぶ学習会 10月予定
連絡先 TEL:080-4406-1941(菊池)
◆「資本論」1巻学習会
・10月12日(水)18時30分~20時30分
・県民センター703号室
・絶対的剰余価値の生産(続き)
◆マルクス主義文献学習会
・10月19日(水)18時30分~20時30分
・県民センター703号室
・新テキストについてはお問合せください。
◆「経済学批判」学習会
・10月26日(水)18時30分~20時30分
・県民センター704号室
・貨幣論(続き)
◆「資本論」3巻学習会
・10月26日(水)18時10分~20時30分
・県民センター707号室
・地代論(続き)