上野千鶴子のセックスワーク論にとらわれた人生相談
朝日新聞などの「リベラル派」の腐敗、頽廃、堕落も顕わにーーAV、「風俗」にみる
朝日新聞、土曜日に別刷「Be」がある。ここに「悩みのるつぼ」なる人生相談のコーナがある。朝日、10月1日、ここで「フェミニスト」、「女性学の泰斗」(朝日、10月3日、夕刊での言葉)の上野千鶴子が、相談者の夫が女子大生もいる「風俗」に通うことの妻の悩みに回答している。上野は「世の中」にはAVなどの「ヌクためのおかず」があふれていると言ったうえで相談に乗っている。果たして上野は「風俗」やAVについて正しく評価しているであろうか。
暴力拷問AVを「表現の自由」として是認してきた上野千鶴子
――AV新法をめぐって
AV(アダルトビデオ)は女性を蔑視的に、物扱いにし、性的対象としてのみ取り扱い、差別的、被虐的に扱っているものが多い。まさしく性暴力の世界である。そこには女性の人格の尊重などはない。実際に行えば犯罪かセクハラである。
上野が指摘しているAVなどのポルノ、エロコンテンツの社会への蔓延は、ネットの普及とあいまって、女性の性的安全性を脅かし、性的不平等の深刻化、女性の社会的地位の低下をもたらしている。AVによるポルノ被害は、ますます低年齢化、深刻化し、現在インターネットによって「性暴力の商品化」が世界規模の産業となり被害がとどまることなく拡散している。
2022年6月15日に国会で可決されたAV新法についてウルトラ右派反動派の月刊誌「Will」安倍国葬特集号11月号に月島さくらが「女性の権利を侵害するAV新法」と題して書いている。
このAV法案に対してはColabo代表の仁藤夢乃氏は、この法案はAV購買者、AV業界に有利で「契約に基づいて性交を金銭取引の対象とすることを合法化し、性売買を合法化する」として反対してきた。この法案は「日本で初めて金銭取引による性交を合法化する」法律になるとして仁藤氏は批判している。
月島は「Will」の中での文で、「ぱっぷす」などのAV出演被害者支援団体への憎しみ、敵対心を隠していない。月島は、AVは「成人した女性が自らの意思で活動している」。AV業界の規制が強まれば、「経済的困窮している女性たちは地下売春に逃げたりする」、「AV女優は若い子も多く、政治に疎い女優も多い」、このままでは「世界に誇る日本のAV業界は」、外国に乗っ取られる。こう語り、「保守的な自民党」に支援を求めている。
この月島の「自らの意思」などの言葉は、上野が語ってきた「セックスというお仕事」が「選択の結果」だとする言葉と瓜二つである。月島にあってはAVには女性の「経済的困窮」、世情に疎い「若い子」は前提されている。
仁藤夢乃氏はAV業者が女性に「自由意志」だと言わせるのは容易だと語っている。仁藤氏の最近の編著『当たり前の日常を手にいれるためにー性搾取社会を生きる私たちの闘い』(影書房)で言う。
「『自由意思に基づいている』と業者が主張するのは簡単だからです。アイドルや役者や配信者になってみたいという女性の夢を利用して、AV撮影へと誘導する」。
月島が言うように背景に女性の「経済的困窮」も潜んでいる。月島、上野が語る「自由意思」とは現実にはこのようなものである。
朝日新聞は、週刊誌「AERA」、月刊誌「論座」を含めて、昔から、「風俗」、暴力ポルノを含むAVなどに対しても、きわめて寛容で、「セックスワーク論」に囚われてきた。上野を含むフェミニストは1990年代の暴力拷問レイプポルノAVの被害女性に対してきわめて冷淡であった。
この暴力拷問ポルノに対して、「フェミニストの反応も冷ややかで、上野千鶴子氏は『私は日本のフェミニズムに珍しい表現の自由派』として『女犯』をはじめAVに関しては表現の自由の問題として距離を置」いてきた。上野はこの暴力拷問AVを是認してきたのである(「ぱっぷす」編『ポルノ被害の声を聞く』岩波書店刊による)。
この本の中で、上野は2017年のAV強要問題では、AV出演者の人権を守ることを称してAV業界を守るための団体を設立したとして告発されている。
女性を性的搾取の「風俗」「売春」へ誘う朝日
性的搾取業者を擁護し、「風俗」、「売春」を「セックスワーク」「セックスワーカー」と美化して女性を勧誘する朝日新聞は、10月7日、全一面、紙面を使っての「耕論」欄で、「『不健全』の理屈」と題して、裁判で性風俗事業者がコロナ対策の持続化給付金の支給対象外とされたことへ三人の論者を使って批判、反論している。
朝日新聞は7月1日に、この裁判の訴訟の報道でこの判決に批判的で、性風俗業者、「セックスワーカー」を擁護し「判決で差別が広がる」との記事を掲載していた。朝日は「耕論」欄の前文で言う。「コロナ対策の給付金をめぐる裁判で、国は性風俗業について『本質的に不健全』と主張した。健全か不健全かは、公が決めることなのか。なぜ社会に『不健全』は存在するのか」。
だが、そもそもこの訴訟を起こしたのは当該女性ではなく、昔は「ポン引き」「女衒」と呼ばれたピンプ、性的搾取業者であり、今回の訴訟はデリバリーヘルス、派遣型風俗店の運営会社がおこしている。「風俗」においては女性は性的なモノ、性的な商品として取り扱われている。
三人の論者とも「性」が「カネ」でやりとりされることへの批判は一切ない。むしろ擁護してる。この記事の中で「ジェンダー史研究者」という田中亜衣子は、「性風俗を合法としつつ、職業として尊重する事もなく『不健全』と烙印を押す国の姿勢」を批判している。田中には、「国」がデリバリーヘルスなど「売春」「性風俗」を半ば合法化していることへの批判、問題意識すら全くない。
性を買うのはカネを持っている男性である。三人の論者は「反差別」「人権論」「反国家主義」「反権力」の体裁をとって、「左翼的」なレトリックを使って「学問的」に昇華し、何か高尚な言葉でもっともらしく、なにか正しいことを語っているかのようであるが、「売春」や「風俗」の肥大化、横行などの資本主義の頽廃現象を擁護し、人身売買、人身取引ともいえる人権侵害の性売買を容認しており、その語っている内容は反動的である。
この朝日新聞の紙面、全一面を使っての記事は、今の社会でますます進む「性」の「商品化」を賛美しており、「風俗」は「不健全」ではない、つまり「健全」だとして、他の職業と同じく「職業として尊重」(田中亜衣子)という、普通の「健全」な職業として女性の「風俗」への勧誘、勧めでもあり「風俗」の参入を促すものにさえなっている。
事実、近年、加速する女性の貧困なども背景に「一般女性」、「普通の女の子」が「風俗」市場へ参入することが増えており、「性」の価格は値崩れして「売春」しても、上野が言ってきた「選択の結果」として「セックスワーク」「性労働」を自由意思でしても、多くの収入は得られなくなっている。
そして女性が「風俗」、「性産業」に入っても、上野が言うとおり女性が「自由な意思」で「売春」、「風俗」を選択したとしても、本当の意味で貧困から抜け出せることはほとんどないという現実、事実がある(森田成也『マルクス主義、フェミニズム、セックスワーク論―搾取と暴力に抗うために』慶応義塾大学出版会刊参照)。
「売春」を「性労働」、「風俗」、AVを「セックスワーク」とする上野千鶴子――AVポルノ産業、「風俗」性的搾取業者の理論的代弁者としてのフェミニスト
上野は「セックスワーク論」を唱え、ポルノ産業、AV業者の理論的代弁者でもあったが、「ジェンダー史研究者」という田中亜衣子も上野と同じく、「風俗」、「売春」の性的搾取業者の理論的代弁者としてあらわれている。女性を性産業に導く最大の理由は貧困である。現在の「風俗」の横行も資本主義の矛盾、頽廃と深く結びついているのである。
Colabo代表の仁藤夢乃氏は。「性売買が女性に対する暴力で性搾取である」、「性売買に行き着く女性たちの背景には、生活に困ったり、生きづらさを感じたりするときに、頼れる場所が社会にないことがあります」と言う(『当たり前の日常を手に入れるために』)。
また、仁藤氏のツイッターの中で性売買の経験当事者の声が紹介されている。「安全に働けるようにすることが、暴力をなくす道だというフェミニストも多くいますが、現実を全くわかっていません」、「起こっているのは暴力です」。「性売買」の現場、現実は上野が夢想するような生やさしいものではない。
だが、上野は「性労働を労働として認めなければならない」、「性労働者はマッサージ師とかわらない一専門職」といい、「売春」を「セックスワーク」と語り、擁護してきた。また、上野は「セックスワークは女性にとっての経済行為です」とも語ってきた。そもそも、上野は「売春」を「性労動」というが、「売春」が経営者に利潤をもたらすとは言え、本源的な「生産的労働」でないことはあまりに明らかである。
朝日新聞、上野もそうだが、近年、女性のシングルマザーなどのますます加速する貧困の拡大、学費の高騰、家庭が仕送り余力を無くしたことなどによる収入減の女子大生、こうしたシングルマザー、女子大生などを食い物にして、その性的搾取によって肥大化した「風俗」など対しては批判的な言説はほとんどなく、「セックスワーク」、「セックスワーカー」として擁護、美化すらしてきた。
性的搾取の被害にあう若い女性、少女の多くは虐待、貧困などで、家など、どこにも居場所がない。「性」を売らされた若い女性、少女に問題があるのではなく、若い女性、少女を孤立に追いやる社会、そして買春者、性的搾取業者、買う側の存在と性暴力にこそ問題がある。(『当たり前の日常を手に入れるために』参照) 。
AV被害者、性売買の当事者が「被害の声をあげれば『表現の自由だ』『職業差別だ』『女性の自由意志だ』『自己決定だ』『男の文化だ』などと個を離れた大きな言葉で口を塞がれてきた。」(『ポルノ被害を聞く』)。これは、性的搾取業者、そして、「リベラル派」、フェミニストも語ってきた言葉でもある。これらの言葉を発するのは当事者の女性ではなく、多くは性的搾取業者である。
上野らのフェミニスト、朝日新聞などの「リベラル派」は業者、買春者の方が問題であるのに、女性のみを問題にして「セックスワーク」とかして語り、「風俗」の経営者、性的搾取業者、そして買春者の方の問題が語られることはほとんどなく、「風俗」などの性的搾取業者を擁護、美化しこそすれ、買春者を問題ともせず、咎めることは全くない。
「風俗」や「売春」はカネを持っている男性によるカネの権力、カネの力による女性の性支配であり、性暴力である。ここには対等な関係などはない。これを上野、田中などのフェミニストは、「性労働」、「セックスワーク」、「健全」だとか言って擁護し、美化さえしている。そして、朝日新聞などの「リベラル派」もこれに追随、同調、賛意すら表しているのである。現在の「風俗」蔓延の一端の責任は彼女、彼らにもある。
朝日新聞、上野らは、今、世界での運動、「性売買」において、女性を処罰せず、非犯罪化して支援の対象とし、他方で性購買者や業者を処罰し取締まる、「北欧モデル」と呼ばれる大きな流れがあることをほとんど伝えていない。(スウェーデン、ノルウェー、アイスランド、カナダ、北アイルランド、フランス、アイルランド共和国など)
安倍の国葬には、大阪の売春地の「飛田新地」、業者の「飛田新地料理組合」が、国葬の27日に休業し、「安倍晋三元首相追悼記帳所」を設けている。女子大生も多くいる昔のオランダの「飾り窓」のような「飛田新地」。ここでは性的搾取業者による安倍への謝意が示されていた。
慰安婦問題を「虚構」とする月刊誌「Will」などのウルトラ右派反動派はAVに親近感を持ち、「飛田新地」の業者にとっても若い女性の性的搾取を放置してきた安倍は、悼み称えられる存在であったのである。
性の問題を商業化し、卑俗に低俗に扱う
――資本主義の頽廃を示す「風俗」、AVの横行
元労働者党代表の亡き林紘義さんはその著「レーニンの言葉」の中で書いている(「栗木伸一」筆名、1969年)。「このブルジョア社会が,『性の解放』という名のもとに、性の問題を一面的に誇張してとりあげていること、性の問題を本当に健全な水準でとりあげるのではなくて、それをますます神秘化して、もったいぶってこそこそと論じていること、そして、もっと悪いことには、性の問題を商業化し、卑俗に低俗に扱うことによって、特に青少年の健全な精神をゆがめ、むしばみ、異常な、かたよったものにつくりかえていることーーこれらのことは、すべて、われわれが日々見ていることである。レーニンは、このようなゆがめられた形での性の一面的誇張が、ブルジョワジーの支配と不可分に結びついていること、ブルジョア社会の利益となっていることを認めていた。」
性の問題の商業化、卑俗化・低俗化は現在「風俗」やAVなどとしてあらわれている。これはブルジョア支配、資本主義の矛盾と深く結びついている。そして、これらを持ち上げる、朝日新聞、上野などに(ブルジョア右派反動派も含まれる)このブルジョア社会は事欠かないのである。
朝日新聞などの「リベラル派」、上野千鶴子ら「フェミニスト」のますます深まる頽廃、腐敗、堕落はまた再び明らかになっている。(M)
*上野千鶴子へのより詳しい批判はこの労働者党プログ2022年5月21日の「上野千鶴子著『これからの時代を生きるあなたへ』」を参照してください。ネットで「これからの時代を生きるあなたへ セックスワーク論 上野千鶴子」で検索すればでてきます。