4月22日~23日、東京の会場で、労働の解放をめざす労働者党第7回大会を開催しました。国際情勢・国内情勢、組織活動、方針各議案を討議し全員一致で採択しました。機関紙誌の普及、学習会の充実、宣伝、HPをスマホでも見やすくするなどの改善、ネットの有効利用など、若者を引き付けられるような魅力ある活動を進めて、労働者の闘う党の建設を推し進めていきます。

大会決議の情勢部分を紹介します。情勢認識を一致させ労働者党と共に闘いましょう。

 

 労働の解放をめざす労働者党第7回大会決議

 

         2023//23(日)

 

Ⅰ、国際情勢

 

分断と抗争の時代へ

 

1、世界は分断と抗争の激動の時代を迎えている。その一つの現れは、プーチン・ロシアのウクライナへの軍事侵攻である。

 

1)昨年2月、ロシアは突如として旧ソ連邦でロシアに次ぐ2番目の4159万の人口をもつウクライナへの軍事侵攻を開始した。プーチンは、戦争ではなくて「特別軍事作戦」だと言っているが、これはロシアによって仕掛けられた侵略「戦争」である。

 

 プーチンは、ウクライナのゼレンスキー政権はネオ・ナチ政権であり、ウクライナ在住のロシア系住民を弾圧する一方、米国を中心とするNATO加盟を目指し、ロシアへの軍事的圧迫を図ろうとしていると非難し、ロシアの介入はロシア系住民の「保護」、政権の「非ナチ化」、ウクライナの「中立化」のためと軍事侵攻を正当化した。

 

 しかし、ゼレンスキー政権=ネオ・ナチ政権というのは、まったくの偽りである。ロシア傀儡派を追放した2014年のマイダン革命の主体となったのはロシアの影響から脱し、自律的な国家を求める市民、学生であって、ナチを信奉する右翼勢力も活躍したが一部でしかなかった。ネオ・ナチ勢力を代表するビレツキー率いる政党「国民軍団」は2019年の選挙で大敗し、ビレツキー自身も落選したことから明らかである。

 

 ウクライナは1991年ソ連邦解体の時にロシアからブルジョア国家として独立したが、ロシアとウクライナの紛争は、ウクライナの民族自決を否定し、暴力的にロシアに繋ぎとめておこうとするプーチンの汎スラブ主義、大国主義によって引き起こされたのである。

 

2021年7月の「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」と題する論文で、プーチンは次のように述べた。1917年のロシア革命によって民族別共和制度が導入され、ウクライナはロシアと対等のソビエト連邦の構成共和国とされたが、ロシアと一体であるウクライナの独立の試みは、ウクライナをロシアと別の民族として国家組織を認めたレーニンの誤った政策に遠因があるのであって、なんら正当性を持たない。ロシアと同じ民族であり、ロシア国家の一員であったウクライナは、ロシアと一体となるべきだ、と。

 

プーチンは、ウクライナはロシアの一部であり、ロシアから独立し別の国家を名乗ることは、ロシアの解体を目論む反動的な分離主義、ネオ・ナチなど反ロシアを掲げる勢力の策動だと言うのである。

 

プーチンは、ウクライナの独立はネオ・ナチ勢力による反ロシア的策動だとデマを振りまき、軍事侵攻を正当化している。だが、ブチャでの虐殺、電気、水道、道路などのインフラ、教育、病院、住宅などを標的とする無差別破壊攻撃、殺人と破壊専門の民間軍事会社の戦争への動員、占領した地域のウクライナ住民のロシアへの強制連行、連れ去った子どものロシア人化教育等々、ナチスばりの蛮行を行っているのはプーチンである。

 

そしてプーチンは国内では、ウクライナに対する欧米の支援を、第二次大戦のナチスドイツの攻撃になぞらえ、「我が国の存続がかかっている」「祖国防衛戦争」だと民族主義、愛国主義を振りまき、言論、行動の統制を強め、ウクライナ軍事侵攻に反対する発言や行動を国家への犯罪として弾圧し、国民を戦争へ動員している。

 

プーチン政権は、ウクライナ労働者・人民にとっても、またロシア労働者・人民にとっても共通の敵である。ロシアは侵略戦争を止め、ロシア軍はウクライナから即時、無条件に撤退すべきである。

 

また、ウクライナの労働者にとってゼレンスキー政権やこれを支援している欧米・NATO諸国を信頼することは出来ない。ゼレンスキー政権はブルジョア政権であり、NATO加盟によって、ブルジョア支配の維持、安定を目指している。ウクライナのNATO加盟は、欧米の帝国主義とロシア帝国主義との緊張・対立を激化させることである。資本からの解放をめざすウクライナの労働者は欧米帝国主義に与すことは出来ないし、反対である。労働者がロシアの侵略・併合に反対して闘うのは、ウクライナの独立は資本からの解放をめざす労働者の闘いにとって前進だからである。

 

2)ウクライナ戦争は、国連の無力さを暴露した。第二次大戦の経験を踏まえ、国際平和維持のために組織された国連は、ウクライナに対するロシアの侵攻、蛮行を止めさせるための実際的な行動をとることは出来なかった。

 

国連はロシアのウクライナに対する軍事侵攻に対する非難の決議は行ったが、それを止めさせるための行動はロシアの「拒否権」によってことごとく葬られた。かつて米国が「大量殺人兵器を持っている」との偽の情報を流し、多国籍軍を組織し、イラクへの一方的軍事侵攻を行ったのを阻止しえなかったのと同様に、国連は米国、ロシア、中国など拒否権という特権を持つ帝国主義的大国に牛耳られ、その意志を世界に押し付ける道具であることをあらためて明らかにした。

 

国際的な協定・法律にもとづく平和を唱える市民主義的、ブルジョア的平和主義者は国連の平和憲章を守れとか、国連の積極的な平和のための介入、行動とか、大国の拒否権の制限など国連改革を訴えるが、大国の特権を制限する改革そのものも大国によって拒否されてきたのであり、国連に依存した「反戦」の闘いは無力である。

 

ウクライナとロシアの戦争が長期化、泥沼化する中で中国は今年2月、早期の停戦や和平交渉の再開を促す12項目からなる調停案を公表した。

 

 内容は、ロシアのウクライナへの侵攻についての責任には一言も触れず、ウクライナとロシアは戦争を止めて和平のための交渉を行うこと、西側諸国についてはウクライナへの武器援助及びロシアへの制裁を止めることを求め、その他、核兵器による威嚇及び使用、民間人への攻撃、電力施設への攻撃を禁じること等である。核兵器の使用をほのめかして威嚇したり、無差別攻撃で多くの民間人を殺戮し、また電力施設を狙い撃ちにし、ウクライナの戦意を挫こうとしてきたのはロシアであるが、その責任は不問に付している。

 

 中国はこれまでロシアの侵攻については反対も賛成もせず、国連でのロシアの非難決議には棄権の態度をとってきた。ロシアを非難することは欧米を利することであったし、逆に非難決議に反対することは、国際的な反感を買うし、また経済的に深い関係のあるウクライナとの関係も失うからである。

 

 和平案は、中国が泥沼化した戦争に終止符を打ち、和平に導く調停者としての役割を担い、中国の指導力を世界、とりわけ「グローバルサウス」諸国に広めようとするものであって、今後の平和を保証するものではない。

 

 国連に依存したり、ブルジョア大国のあれこれの和平工作に依存したりする「平和」のための運動は無力である。戦争のない平和な世界を実現するためには、世界の労働者を搾取し、収奪する帝国主義国家、反動国家を一掃するために世界の労働者が国際的に連帯し、闘う必要がある。

 

2、中国の帝国主義的膨張

ヨーロッパではウクライナをめぐってNATO諸国とロシアの対立が激化しているが、アジア地域では米国と中国の対立が強まっている。

米・中対立が強まったのは、米国の軍事的、経済的な後退と中国の帝国主義的な発展が背景にある。

 

1)中国の急速な経済的発展

 

中国は、国内総生産では10年には日本を追い抜き米国に次ぐ世界第2位となった。20年の国内総生産は17・5兆ドルと米国の23・3兆ドルの75%となり、40年代には米国を追い越すともいわれている。中国は対外経済関係を見ても米国に比肩する存在となっている。輸出と輸入を合わせた貿易額は12年には米国を上回った。

 

中国は2001年のWTO加盟以来、欧米など先進資本主義国から資本、技術の導入を促進し、急速な資本主義的な発展を遂げ、帝国主義大国にまで成長した。それを象徴するのは、習近平政権の下で開かれた17年の第19回共産党大会である。習は大会報告で、「新時代の中国の特色ある社会主義の勝利を勝ち取って、中華民族の偉大な復興という夢を目指す」と訴えた。

 

「中華民族の偉大な復興」とは、かつて唐から西はローマ帝国に及ぶシルクロードを勢力下におき、アフリカ東部まで進出し、文化、経済、科学・技術をリードした中国の栄光を取り戻す「強国」を建設するということである。

 

 15年に策定された「中国製造2025」は「強国」建設の中核的政策の一つである。中国は「世界の工場」といわれるほど、製造業は世界最大の規模であるが、中間財や部品の多くを輸入に依存しているという弱点を持っている。そのため次世代情報技術、人工知能、新エネルギーシステムなどの最先端技術の高度化を図り、49年(建国100周年)までに「世界の製造強国の先頭グループ入り」を目指すという計画である。

 

 第1段階である25年までに「世界の製造強国の仲間入り」を実現する。例えば次世代通信規格「5G」のカギを握る移動通信システム設備では中国市場で80%、世界市場で40%とする計画である。中国政府は、計画実現のため、関連産業に対する金融支援や、技術向上支援などを矢継ぎ早に行ってきた。

 

20年4月に開催された共産党中央財政委員会で、習は「産業安全保障と国家安全保障を確保するために、独立した制御可能で、安全かつ信頼できるサプライチェーンを構築し、重要な製品と供給チャンネルについては少なくとも一つの代替ソースを確立する」とし、サプライチェーンの独立性強化と複線化を訴えた。さらに優良産業の国際的リーダーシップを強化するとともに、いくつかの〝キラー技術〟を確立し、「外部からの人為的供給遮断に対し、供給遮断に対する強力な反撃力と抑止力を形成する」とした。重要産業による〝キラー技術〟を持てば、各国の中国依存は深まり、中国と対立する国によるサプライチェーンの遮断攻撃に対して、反撃力を持つことが出来るというのである。

 

〝キラー技術〟とは特許など知的財産権が取得できる独自の技術のことであり、この技術を独占することで、この技術を搭載する生産分野での支配的な地位を獲得できる。その代表的な例は、通信規格5Gに関わる技術であり、中国は標準特許の22・8%を保有し、世界最大である。米国トランプ政権およびバイデン政権は中国への情報漏洩の疑いがあるという理由で通信機器メーカー・ファーウエイ(華為技術)の国内市場からの追放を決め、同盟国にも協力を要請したが、安価であることなどで発展途上国に多く採用されている。

 

このように中国は経済規模だけではなく、市場における競争力を左右する技術力でも米国の優位を揺るがす存在となってきている。

 

2)強大化する軍事力

 

 中国はコロナ禍でも一貫して軍事費を増加させており、21年の軍事費は17年の2104億ドルに比べて1・4倍の2934億ドルとなっている。世界の軍事費のシェアでは米国の38・5%に次いで14・1%である。21年10月、習は35年までに軍を現代化し、49年までに「世界有数の」軍事力を持ち、「戦争で闘い、勝利できる」能力を身につけるべきだとの方針を明らかにしたが、この方針に従って、現在人工知能(AI)などの技術を基礎とした軍事開発に取り組んでいる。

 

 米国に比べるとまだ軍事力の差は大きい。しかし、台湾を含むインド、太平洋地域では軍事的にも米国に対して優勢な軍事力を保有し、米国に対峙している。中国は射程500~5500キロの中距離弾頭ミサイルを1250発以上保有しているのに対して、米国はロシアとの締結してきた中距離核戦力(INF)破棄条約によってゼロとなっている。また、海軍力に関しては、米国が水上艦、潜水艦293隻に対して、中国は350隻保有しており、「世界最大」と言われている。さらに21年現在、中国が保有する核弾頭数は米国の予想によれば約370発だが、30年には約1000発になるだろうとされている。

 

 中国は軍事的威嚇を周辺海域で行っている。その典型は南シナにおける中国の行動である。南シナ海では、中国が「九段線」と呼ぶ海上国境線を領海あるいは排他的経済水域・大陸棚と称して、同じ海域に属するベトナム、フィリピン、マレーシア、インドネシアら東南アジア諸国を排除しようとしている。また14年頃から中国は、岩礁の埋め立てを強行し、港湾、滑走路、レーダー施設などの軍事施設を建設してきた。

 

3)進む対外膨張

 

 習が国家主席に就任した13年、「太平洋には中国と米国を受け入れる十分な空間がある」と当時大統領であったオバマに語った。これは、中・米の二大大国が太平洋を二分し、ハワイを境に東太平洋を米国が、西太平洋を中国が統治する、というあからさまな帝国主義的野望の発露であった。

 

 中国の対外進出は、海と陸に現代シルクロード政策=「一帯一路」政策として実施されている。その中には中国が主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立も含まれ、鉄道、道路、港湾をはじめ病院、学校などインフラ建設や資源開発の融資をテコとして資本を進出させ、中国を中心とする経済圏を構築していくという計画である。

 

「一帯一路」は発展途上国を中心にアジア、ヨーロッパ、アフリカ、ラテンアメリカ、南太平洋地域にも広がっており、21年6月時点では140ヵ国、32の国際組織と計206件の協力文書を調印しているとされている。低所得国68カ国の20年末の中国向けの公的債務残高は101Ⅰ億ドルと2国間公的債務残高の54・0%を占め、先進7カ国向け債務残高(488億ドル)の2倍超、債務残高では世界銀行と肩をならべている。

 

 しかし、〝支援〟といっても「ひも付き」であり、金利も高く、債務返済に行き詰まれば、融資を受けて建設したインフラ権益を譲渡したり、軍事施設建設に協力が条件だったりするなど、中国の影響力を拡大しようとする政策である。

 

4)台湾をめぐる中・米対立の激化

 

 台湾の帰属問題は、米・中対立激化の焦点となっている。

 

中国共産党にとって台湾は、内戦で闘った国民党に撤退を許したまま「解放」されていない地であり、さらに米国の介入によって長期にわたって統一が困難になっている地である。共産党は台湾の本土との統一を国家目標として掲げてきた。

 

 1979年、米国と中国とが国交回復するにあたって、米国は台湾を中国の一部として認めつつも、台湾問題の「平和的解決」を期待するとの政府声明を出した。しかし、中国は、「台湾の祖国復帰を解決し、国家統一を完成する方式については、これは全く中国の内政問題である」として、武力行使の可能性を否定しなかった。実際中国は、台湾で独立志向の動きが強まるたびに、台湾に対する軍事的な圧力をかけ、米軍との軍事的緊張が高まった。

 

 1995年には、独立志向の強い李登輝総裁の米国での講演をめぐって、台湾近海での大規模な軍事演習を行い、台湾に圧力をかけた。

 

 また2000年に独立を党是とする民進党陳水扁政権が誕生すると、2005年、中国は反国家分裂法を制定し、平和的な統一の可能性が失われた時には「非平和的方法」をとることを定めた。同時に統一が行われた後には本土と異なる高度な自治=「一国二制度」が与えられることが定められた。

 

米国は台湾について中国の一部であることを認めつつも、実際には独立した〝国家〟であるかのような関係を継続し、武器援助も行ってきた。米国にとって台湾は、アジア環太平洋全体の覇権のための要石となっているからである。

 

中国が米国の「最大の競争相手国」となり、両国の対立が深まる中で、22年3月には、台湾を訪問したポンペオ前国務長官は、台湾は「自由で主権国家である」とし、「米国は外交的に承認すべきである」と述べた。また同年8月には、米下院議長のペロシも台湾を訪問、「台湾の活力ある民主主義を支援するというアメリカの揺るぎない関与を示すものだ」、「世界が専制主義か民主主義かの選択を迫られる中で、2300万人の台湾の人々とアメリカの連帯はこれまでになく重要だ」と語った。

 

現在、台湾の蔡民進党政権は、「一国二制度」は信頼できないとして、米国と協調路線を取っている。これに対して中国政府は、「内政干渉」だと猛反発し、台湾周辺での軍備を増強し、軍事演習や台湾海峡中間線を越える戦闘機、ドローンの侵入の常態化など軍事的威嚇を強めるなど、台湾をめぐっての米・中の軍事的な緊張が高まっている。

 

習は20回共産党大会報告で、「台湾問題の解決は中国人自身が決める」、平和的統一の未来を勝ち取ることを目指すが、「外部勢力の干渉と、ごく少数の“台独”分裂勢力に対しては、武力行使の放棄を約束しない」と武力統一もありうると述べた。台湾問題の「解決は中国人自身の決める」とは、台湾が中国の一部である以上、中国政府が決めるということである。

 

しかし、今年3月の全国人民代表者会議における政治活動報告では、「両岸(中台)の経済と文化の交流、協力を促進し、台湾同胞の福祉増進のための制度と政策を充実させる」として「平和的統一」が強調された。これは、地方選挙で対中宥和を唱える野党国民党が民進党に勝利したこと、来年には蔡英文の後継を決める総裁選があり、国民党に配慮したためであろう。

 

 だが政治活動報告に「武力統一」がなかったからといって、習政権がそれを捨てたわけではないし、台湾をめぐって米・中の激しい対立は続いている。台湾をめぐる米国と中国の対立は東アジア、太平洋における帝国主義的な覇権争いであり、労働者はどちらも支持しない。

 

3、激化する米中対立

 

1)米国の覇権維持のためのバイデンの「価値観」外交政策

 

 バイデンが事あるごとに持ち出すのは、「民主主義の価値」である。21年12月、「民主主義」サミットで、バイデンは民主主義が世界的に衰退しているとして、民主主義国を結びつける価値、すなわち正義と法の支配、言論の自由、集会の自由、報道の自由、信教の自由、すべての個人の人権を守るために立ち上がる必要があると述べた。

 

 バイデンが「民主主義」のための闘いを強調する背景にあるのは、とりわけ中国の帝国主義的膨張に対する危機意識である

 バイデンは中国を共産党独裁の専制主義国家であり、「民主主義」がないとか新彊ウイグルとかチベットなど少数民族を抑圧していると非難し、国際社会は中国のような専制主義に反対し、団結して闘わなくてはならないという。

 

 バイデンの言う「民主主義」の国際社会とは、米国のようなブルジョア自由主義の社会である。バイデンは中国のウイグル人などへの民族差別を非難するが、米国はベトナムへの軍事介入を始め、「テロ防止」や「大量破壊兵器拡散防止」に名を借りたアフガン戦争やイラク戦争など幾百万の人民を殺戮してきたし、中東ではパレスチナを軍事的に抑圧し、植民地を拡大しているイスラエルを支持している。また国内にあっては、黒人をはじめ移民への差別が横行している。「自由・平等」の社会だと言っても、実際には一握りの大資本や金持ち階級が生産手段を支配して労働者を搾取し、巨万の富を手中にしていている一方、多くの労働者は貧しい生活を余儀なくされている。労働者にとってバイデンの言う「自由」とか「平等」とは、内実のない形式的なものとなっている。

 

 またバイデンは「専制政治」に反対すると言いながら、米国は中東のサウジアラビア、アラブ首長国連邦のような専制的な国家と友好関係を結んでいる。

 

 バイデンの「民主主義」のための闘いは、中国・ロシアに対抗して米国の覇権を防衛することである。

 

2)米国の覇権維持としての供給網分断策

 

中国への経済的な主要な対抗策は、昨年10月に発表された国家安全保障戦略に示されている。

 

 バイデンは発表に際して、「世界は分岐点にある。われわれが今日直面する大きな課題と前例のない機会にどう対応するかが世界の方向性を決めるとともに、米国民の安全と繁栄に数世代にわたって影響することになる」と訴え、同戦略の位置づけについて「(米国の国家安全保障にとって)決定的な今後10年間に、いかにして米国の死活的な利益を高め、地政学的競争相手をしのぎ、共通の課題に取り組み、世界を明るく希望に満ちた未来に導くか」を描くものであると、国家安全保障戦略の意義について語った。

 

具体的には「自由貿易協定(FTA)の先に進む必要がある」とし、インド太平洋経済枠組み(IPEF)や世界共通の最低法人税、グローバルインフラ投資パートナーシップ(PGⅡ)などを通じて、友好国と新たな経済枠組みを作り出していくといっているが、バイデンが最も重視しているのは、サプライチェーンを中国から分離することである。

 

 サプライチェーン問題の中心となっているのは半導体の製造である。半導体はウクライナ戦争でも明らかになったように、自立型の攻撃ドローン、ミサイルをはじめ戦車・大砲など兵器の心臓部分であり、SNSなど情報戦システムなど多岐に利用されている。また、AIの活用は自動車をはじめ民生品製造にも不可欠である。

 

軍事的にも経済的にも高度な半導体は欠かせず、半導体の開発・生産には米欧日の最先端の製造装置が必要であり、米国は輸出管理法など矢継ぎ早に発動して、中国の個別企業を名指しして輸出を禁止した。

 

さらに米国は昨年8月、半導体の国内生産に527億ドル(約7兆円)の補助金を投じる「CHIPS科学法」を成立させた。企業が補助金を受けると今後10年間は中国に投資できなくなるというのが条件である。

 

次いで10月、政府は半導体そのものだけでなく、製造装置や設計ソフト、人材も含め中国への供給を許可制とし、違反すれば行政処分のほか企業や経営陣の刑事責任を問うというさらに厳しい規制措置を導入した。これによって中国の半導体関連企業で働く米国の技術者の帰国が始まっている。さらに米国は、EU、日本、韓国など半導体を生産する同盟国に同様の規制を採用するように、同調を求めてきた。

 

しかし、バイデンのデカップリンク政策は思惑通りに進むだろうか。

 

23年1月に開かれた各界の有力者が集まる世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)では、欧州経済団体の幹部は、欧州を敵視したトランプ前政権を念頭に「米国も100%信用できない」と発言、ルメール仏経済・財務相も「中国を外すな、含めよ」と発言、サマーズ米元財務長官も「安全保障を理由に中国の経済成長を抑えるのは甚大な誤りだ」と発言、国際通貨基金のゲオルグ専務理事も、分断で世界経済は7%縮小し、日本とドイツの国内総生産相当額が消失する発言し、米国政府のデカップリング政策を批判した(日経、Deep Insight欄、23・2・4)。

 

欧州からの批判は、米国のデカップリング政策が中国を孤立させ、米国の覇権維持を狙ったものであり、そのために巨大な市場である中国を見捨てることに付き合わされるのは御免だという欧州の立場を表している。実際、バイデンは対中輸出規制政策発表に際し、「米国だけが負担するのは不公平」だと述べ不満を漏らしている。

 

22年5月、在中国米商工会議所は、「デカップリングに反対」という白書を発表し、同9月、日本経団連と日中経済協会も中国の李首相とオンラインの会議を行い、「首脳同士を含むハイレベルな対話を密にして相互理解を深めていくことは、互いの利益に資する」と述べた。

 

例えば日本の場合、部品など日本への輸入の8割は中国からの輸入で、2カ月間途絶すると家電や自動車、樹脂をはじめ、衣料品や食品も作れなくなり、国内総生産の約1割に相当する53兆円分の生産額が消失する計算だという。また、家電や自動車など主要80品目で中国からの輸入を止め、国内あるいは他地域からの輸入に切り替えた場合、年13・7%のコスト増になる。これは東証プライムに上場する製造業の純利益の7割に相当する規模だという(日経、22・10・28)。

 

 利潤追求は資本の本性である。資本の活動は国家や地域を超えて世界的な規模まで発展している。生産のグローバル化とは資本がより大きな利潤を得るために低コスト、高い品質を求め、それぞれに最適な国・地域での分業を行うことである。デカップリング政策は、こうした資本の世界的な分業を政治的に断ち切ることであり、利潤を追求する資本との溝を深めている。

 

バイデンは中国との分業体制は「専制主義」国家を助けるとしてデカップリングを西欧諸国や日本に呼びかけている。しかし、労働者を支配、搾取しているのは、中国やロシアばかりではなく、欧米、日本らの自由主義国家も同じである。デカップリング政策は、中国に対する米国の経済的、軍事的な優位を保ち、世界覇権を維持しようとする政策である。

 

4、分極化する世界

 

世界は米・中との対立を中心として、分裂と抗争の時代に突入している。

 

20世紀末、ソ連邦・東欧の崩壊以降、世界の盟主としての存在であった米国は政治的、経済的に後退し、国家資本主義中国は米国の世界覇権を脅かす存在に成長、両国は軍事的にも経済的にも激しく対立している。ヨーロッパではロシアは、ウクライナ併合を目指し大規模な軍事侵攻を強行し、欧米諸国との関係は一気に悪化した。プーチンの目指すものは「多極的な世界」であり、ロシアはユーラシアの大国となり、米、中と並んで「多極的世界」の一極としての地位を占めることである。

 

ロシアのウクライナ侵攻や米・中の対立激化のもとでヨーロッパや日本では、軍事同盟・軍備強化の声が広がり、強まっている。ヨーロッパではこれまで「NATO反対」、「平和」を看板にしてきた緑の党はNATO加盟容認に態度を変え、第二次大戦でのナチス政権によるソ連侵攻の歴史からロシアに対して宥和的な態度をとってきたドイツの社会民主党は、軍備増強に走っている。

 

日本でも、政府・自民党は、ロシアのウクライナ侵攻や米・中の軍事的緊張や北朝鮮のミサイル発射を理由に、これまでの「専守防衛」路線を転換し、軍事費2倍化、敵基地攻撃の容認という大軍拡政策に乗り出した。これに対して維新の中からは米国との「核共用」論がとびだしたのを始め、立憲民主党も日米安保強化・軍備増強は必要と事実上政府に追随している。また、「固有の自衛権」を掲げる共産党は、外国からの〝侵略〟に対しては「自衛隊の活用」が必要と言い出す始末である。

 

帝国主義間の軋轢が深まり、戦争の危機が迫る時代には、資本主義の〝民主的な改革〟による平和的な発展などと言っていたブルジョアや小ブルジョアの平和主義者が、愛国主義、排外主義に屈し、追随するようになることは、世界の歴史を見ても明らかである。

 

カウツキーら第二インターの指導者は帝国主義戦争が勃発する以前には「戦争反対」を唱えていたが、帝国主義戦争が現実となるや労働者を裏切り「戦争反対」の立場を投げ捨て、排外主義・愛国主義の立場に転落、労働者を戦場に送った。資本主義の克服のための闘いではなく、資本主義の改良を謳う日和見主義、改良主義者は労働者を裏切り、支配階級に屈服、追随していった。

 

階級闘争の歴史は労働者の革命政党なしには労働者は資本と闘い抜くことは出来ないことを教えている。我々は労働者の国際主義の立場を堅持し、資本との闘いを断固推し進めていかなくてはならない。

 

Ⅱ、国内情勢

 

軍事大国化を策す岸田政権――無力な立憲や共産ら野党

 

1、岸田は「現実主義者」であり、総資本の利益を代弁する国家主義者だ

 

岸田は「宏池会」のハト派と見られて来たが、安倍政権で外務大臣を引受け、G7外相会議議長(16年4月)を行うなど、安倍の〝信頼〟を得ていた人物である。岸田は安倍が注力した安全保障関連法制の整備について、「日本を取り巻く安保環境は変わっている」と必要性を強く訴え、「現実の問題に対応するのが政治の役割だ」と断言したが、この岸田に対して、右翼マスコミの産経は「ポスト安倍の一人として存在感が高まりつつある」と高く評価していた(産経、16・4・11)。

 

 21年9月に行われた自民党総裁選に立候補した岸田は、「中期防の前倒し」など軍事力強化を主張し、また「新しい資本主義」を掲げて当選し首相の椅子を手に入れた。岸田が総裁選の決戦投票で安倍派や高市らの右翼的議員の支持を得たのは、軍事強国化や経済再生を図るDX/GXの政府投資を表明し、自分達と同じ国家主義者でありカネのバラ撒きに賛同する人間と評価されたからである。

 

ロシアのウクライナ侵攻が始まり、岸田政権が中国の軍事強国化を牽制し、対抗する方針を打ち出したのは、共産党やれいわ新選組らが言うような米国の圧力に屈したからでも、米国の犬になり下がったからでもない。総資本の利益(国家利益)のために、軍事費2倍化という数字ありきを優先させてでも、先制攻撃用ミサイルを含む高度軍事力を早期に手にしたいからである。

 

中国包囲網を強化するためにバイデンが来日した折には(22年5月)、岸田は相当な軍事費増額や台湾有事に対処する約束をし、22年12月に閣議決定した「安保3文書」には、財務省の不安をよそに23~27年度の5年間の軍事費総額を43兆円と記した(兵器ローンを除いた数字)。さらに、23年度当初予算に向けて各省が概算要求を検討する時には、防衛省に対して、金額が決まっていない事項要求(100項目)をも提出させるなど、積極的に軍事拡大路線を敷き、南西諸島では地元民の反対の声をよそにミサイル基地を急ピッチに作っている。

 

2、岸田政権が軍事力を強化する背景

 

岸田政権がバイデンの中国包囲網に積極的にかかわり、中国を牽制するのは、単に中国の軍事力に対抗するためだけではなく、中国の経済力が日本の経済界にとって猶予ならない程に強い影響力を持つようになったからである。

 

 中国政府はWTOに参加して以来、先進国からの投資を積極的に受け入れて来たが、この状態が続くなら後進国のままになるとの危機感を抱き、2000年頃から、対外直接投資を強めるために「走出去戦略」(海外進出戦略)を作り、習近平政権になると、人民元で融資や決済ができる「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)を立ち上げ、東南アジアからユーラシア、アフリカにかけた「一帯一路」(シルクロード経済圏構想)を押し進めてきた。

 

そして、中国は近年、先進国の先端企業を買収(M&A)するまでになり、対外直接投資額(年)においても日本や米国と肩を並べるようになった――米国の対外直接投資額(単位百億ドル)は2000年、2010年、2020年にて18.6、35.0、27.2であり、日本は4.5、8.0、14.6、中国は0.5、6.9、15.4である。 

 

中国はEV電池やEVモーター用の希少金属の採掘・選鉱工程にも投資を強化し、これらのシェアで世界を圧倒し、太陽光発電パネル用の主要原料生産でも圧倒的シェアを誇っている。

 

中国は資源や小売り分野のみならず、自動車や通信・電機などの製造業でも海外投資を続け、今や海外労働者を200万人以上も搾取する帝国主義国家になっている。

 

こうした中国の台頭を目の当たりにして、岸田政権は台湾有事が発生し、台湾の先端半導体企業が中国に囲い込まれるなら、日本の通信やAIを始めとする多くの企業は中国の後塵を拝するようになりかねないと焦っている。

 

それゆえ、歴代自民党政府が「一つの中国」を認めて台湾と断交して来たにも拘わらず、「台湾有事は日本の有事」だと危機意識を露わにするのである。

 

日本の自動車や通信機器などの大資本は、長年にわたって世界に、とりわけアジアに対外直接投資を増やし(資本輸出を急増させ)、海外からの利潤を国内に還流させてきた。毎年、企業統計上では営業利益より経常利益が上回り、企業内部留保も経常利益の増大に比例するようになった。企業の経常利益の中心となるのが「直接投資収益受取」であり、海外の労働者から搾取した剰余価値に相当する。

 

自動車資本などは中国よりもASEANに大きな製造拠点を築いてきたのであるが、他方の中国もまた、この地域に足を延ばし、米国GMのタイ工場を買収するなどの直接投資を強め、さらにEV自動車の工場を建設することを視野に入れ始めている。

 

日中の双方の資本権益を廻る衝突は既に始まっている。この帝国主義同士の衝突こそ、経済的対立から政治的・軍事的対立に変化発展する背景であり、日本政府が台湾有事に米軍と協力して軍事対処する方針を打ち出した真の理由なのである。即ち、岸田政権の軍拡は資本権益を守るための、国家主義者による策動なのだ。

 

3、軍事費増額を可決したが財源は無い

 

1)2月28日、政府は衆院本会議で23年度当初予算案を可決させた。総額は閣議決定と同じ114.4兆円であり、前年度当初予算より6.8兆円増え、11年連続で過去最大となった。増えた6.8兆円は丸ごと軍事費分に相当する。しかし、岸田は軍事費の財源をどのように具体化するのかについて、何も明らかにしていない(できない)。

 

岸田は、今年度(23年度)の軍事費歳出予算について、22年度の5.4兆円(沖縄米軍基地問題対策費、米軍支援費を含む)から1.4兆円増やして6.8兆円(同上)にし、さらに3.4兆円を別枠の「防衛力強化基金」にて積み立てることを決めた。今年度予算のために建設国債が発行され、自衛隊の建造物のみならず艦船購入に充てられる。

 

 そして、来年度以降も毎年予算を増やして行き、5年後の27年度には11兆円程度に引き上げる。

 

 だが、その引上げ額の内訳について、政府は筋道を立てて説明できず、ただ誤魔化すだけであり、適当に野党をあしらうことに終始した。

 

2)政府は増額する財源確保の方法について、表向きは赤字国債発行を避けたい意向から、次の①から④の項目を上げている。

 

①増税、②防衛力強化基金、③決算剰余金、④歳出改革の4項目合計で約4兆円を増やし、これに沖縄米軍基地問題対策費(SACO)や米軍支援費及び海上保安庁等の費用を加えて合計で5兆円程を積み増す。そうすれば基準となる5.4兆円から2倍化を達成できると根拠の無い数字をあげつらう。

 

 年々確保しなければならない4つの項目について、政府の対応は次のようなものである。

 

 ①増税については、法人税・所得税・たばこ税の3税の増税で計1兆円強を毎年確保する。所得税増税については「復興特別所得税」の転用を検討する。だが、与野党が増税に反対したことから実施時期の決定を見送り、24年度以降のどこかのタイミングで実施する。

 

 ②防衛力強化基金は、「税外収入」を用いて、財源確保を行う。「税外収入」とは外為特会の剰余金、財投特会からの繰入れ、国有財産の売却などであり、継続性の保証は全く無い。それらの見込みが狂った場合はどうするのかの回答を持ち合わせていないのだ。

 

 ③決算剰余金を使うと言うのも、予算が余ることを前提にした話である。政府は年0.7兆円程を考えているようだが、これは過去10年間の平均値であり、20年度決算で予想外に税収が増え4兆円もの剰余金が出たことで平均値を押し上げたことを利用した作文でしかない。しかも、予算を恣意的に増やしておけば、決算で〝余剰を創造できる〟のである。こんな誤魔化しが公然とまかり通るなら、どんな捏造も捏造で無くなる。

 

 ④また、歳出改革で1兆円程を確保すると言う。しかし、本当に毎年1兆円を弾き出すことができるのか? 岸田は何一つ国会で説明できなかったのだ。今年度のみであれば、何とか上手く行くかも知れないが、継続できる保証はどこにもない。

 

4、「数字ありき」で、さらなる増税や借金は必至

 

 岸田は軍事費増額について、確たる根拠を示すことができず、持続性も実現性も曖昧にしたまま衆参の国会審議を終えた。しかし、「数字ありき」で出した軍事費増額については、継続性が無いことが分かれば直ぐにも国債で賄う主張が出て来るであろうし、国債償還ルール見直しの動きも強まるであろう。まして27年度末には、兵器ローン残高が16兆円以上になろうとしており、そのツケは毎年のローン支払い(歳出化経費)を増やすことに繋がり、軍事費の維持を困難にする。

 

 その上に、DX/GXへの投資や「異次元の少子化対策」のカネも算段するというのだから、財政ひっ迫(財源が見つからない)が発生し、増税が出来ないなら国債発行になるしかない。既に普通国債残高は1000兆円を超え、対GDP比で約260%にのぼる。日銀黒田と安倍が始めた超低金利政策は金融機関の体力を弱め、国債や社債が売れ残る事態を発生させるなど混乱を引き起こしてきた。それに、円安や輸入物価上昇による国内物価上昇も相まって、市場における金利上昇圧力が高まっている。

 

しかし、金利が上がるなら、政府の国債償還費(元金と利子の返済)は増え、国債残高の半分を保有する日銀も国債価格が低落し、日銀の財務悪化に繋がる――さらに日銀の持つ国債を政府に償還する段階になれば、発行価格より高く買った損失を帳簿に計上することになる。

 

それゆえ政府は、今後インフレが発生しても金利を上げて対応することが難しくなっている。政府は市場の金利上昇圧力をかわし、かつ物価上昇もインフレ発生も抑えなければならないという、矛盾した事態に突入しようとしている。日本資本主義の退廃は極まっている。

 

5、軍拡容認に動く野党を糾弾する

 

 予算案採決に際し、野党の多くは反対したが、それは政府の軍拡に根本的に反対だからではなかった。立憲、共産、れいわは先制攻撃を認める岸田発言やこれを可能にする長距離ミサイル配備と軍事費急増に反対したが、自衛のための高度な軍事力を否定せず(軍拡そのものには事実上賛成)、日本の帝国主義との闘いを放棄した。

 

 立憲民主は先制攻撃や軍事費増額の進め方に批判的であったのみで、「メリハリのある防衛予算で防衛力の質的向上を図る」(読売オンライン参院選特集22・6・22)と、今国会でも政府の軍拡に基本的に賛成した。共産党も憲法9条は個別的自衛権を放棄していないと言い、「急迫不正の侵害を受けた時には、自衛隊を活用する」(同上)と、事実上、国際環境の緊張に〝対処する必要〟を認めたのである。

 

 共産党は民族主義の政党である。それゆえ彼らは日本について、未だに「対米従属」の国家であり、大企業は米国の「対日支配」の道具であると評価し、日本が自立した資本主義、れっきとした帝国主義国家になっている現実を認めようとしない。こんな民族主義の立場では、〝いざ鎌倉〟となれば、直ぐにブルジョアと共闘するのがオチだ。

 

 れいわは平和主義の政党であるが、「専守防衛」(同上)や対米従属論の立場(「岸田は米国の犬だ」等の発言)をとる点では、共産党と似通った政党である。れいわは、一見、弱者の味方かに振る舞う、しかしそれは、大資本に反発した小ブルジョアの意識の反映であり、少しも労働者的でない。労働者の政党なら、帝国主義は資本主義そのものから生まれること、帝国主義同士の戦争は資本主義世界では避けられないことを知っている。

 

だからこそ、労働者の政党は資本主義とその頭目である自国資本の政府と闘い、私的労働を排した搾取のない自由な共同体社会へ向かって、つまり、労働の解放を掲げて闘うのである。そのために、労働者や学生に労働者党への参加を呼びかけるのである。

 

 かつて「シールズ」(市民主義運動の若者たち)は、安倍政権による新安保法制に反対して話題を呼んだが、岸田政権の「安保3文書」に対しては姿も形も見えない。産経新聞などは「今の若者は防衛力増強に賛成している」と揶揄した。

 

労働者・若者たちは市民主義や平和主義の運動、従って共産党やれいわや新左翼諸派の限界を学びつつある。最近、労働者党の主張に賛成すると、我々に接近して来る若い労働者や学生が少しずつ増えている。我々はこうした若者たちを引きつけていく魅力を身に付け、工夫を凝らして前に進んで行かなければならない。

 

6、維新が〝躍進した〟背景と維新の階級的性格

――5衆参補欠選挙、統一地方選挙を踏まえて

 

(「労働の解放をめざす労働者党」の大会が開催された直前に、5衆参補欠選挙と統一地方選が行われ維新が〝躍進〟した。この選挙の全体的な総括や維新の伸張について、我々の評価を大会議案に反映させることはできなかったが、維新が伸びた理由や維新の階級的性格について議論が行われた。そして、これらの大会議論を踏まえて、維新についての簡単な報告を決議に追加して欲しいという要望があり、追加して報告する。)

 

今春の地方選結果――共産と社民の大敗北

 

 大阪を中心に勢力を伸ばして来た維新は全国政党化をめざし、今回の統一地方選でも全国で立候補させて当選者を増やし、次の国政選挙の足場を固めようとしている。

 

他方、自民党は前と同じ勢力をほぼ維持したが、奈良知事選で維新に敗北し、千葉5区の衆院補選でも僅差(5千票差)で勝ったに過ぎず、今後の選挙に危機感をつのらせている。

また、共産党や社民党が「歴史的敗北」(マスコミ紙の見出し)を喫し、大幅に議席を減らしたのは、維新に票を食われたからではなく、むしろ自滅であった。

 

とりわけ共産党は、自衛隊は憲法違反だと主張し、平和憲法の堅持(天皇制を含む)や日米安保の廃棄(米国の植民地支配からの解放)による民主主義革命を掲げ、遅れた労働者や市民主義者の支持を集めてきたが、ロシアのウクライナ侵攻や中国の軍事大国化を目の当たりにして、「自衛隊の活用論」を打出し、「政権についたら自衛隊合憲の立場をとる」と宣言した。

 

要するに、国際的緊張に対応するために、自衛隊増強を容認する方向に舵を切ったのである。この共産党の路線変更は偶然ではなかった。国家の武装を国家の権利だとする「固有の自衛権」を擁護してきた共産党が自衛隊の増強を容認し、安保も棚上げするのは必然であったからだ。

 

共産党は日本資本主義がれっきとした帝国主義国家になっていることを認めず、中国(国家資本主義)との対立が、日中双方の帝国主義国家の覇権争いであることに気付かず(または知らないふりをして)、愛国主義を煽る岸田政権や維新らと事実上共闘するのである。

 

直ぐにこの共闘は実現した。

 

那覇市の共産党議員団は「自衛隊活用論」の方針に従い、「沖縄の日本復帰50年」を記念して、「自民党会派が提出した自衛隊や海上保安庁の任務遂行に感謝する決議案」に賛成したのである(『琉球新報』、22年4月26日)。

 

こうした共産党の変質(必然性)に対して、今回の統一地方選でも、多くの労働者が疑問に感じて他の候補者に投票したか無投票を選択したと判断しても、決して間違いではないだろう。

 

維新が〝躍進〟した理由と維新の階級的性格

 

 維新は30年にも及ぶ日本資本主義の停滞を打破し、生活を向上するために結党したと言い、税と社会保障の一体改革、格差是正、自由競争促進、東京一極集中を地方から打破するなどを掲げる。

 

また、議員の定数と報酬を削減するという「身を切る改革」や「ベーシック・インカム」(B・I)という俗受けするアドバルーンをあげ、さらに、自民党の国家主導の政治に対して地方からの改革を強調して、既成政党とは違う「改革政党」であるかに見せかけている。

自民党は大資本と結びつき、また農民や商店主に利益誘導を図る多くの族議員を抱えているが、維新は経済界と癒着する族議員を批判して見せる点でも〝大衆迎合的〟である。

 

それらの点で、政権の座を手に入れるまでになった西欧の右翼諸政党と似ている。

 

即ち、競争の促進によって経済成長を図ると主張する点で、また労働者を攻撃しながら(橋下や松井によって行われた公務員労働者や教育労働者への攻撃を見よ)、遅れた職場労働者、階級的意識の育っていない労働者を扇動して権力を手に入れ維持している点で、地方の再生を掲げて財政バラ撒きを行う点で、また貧困層への基礎的保障(B・Iなど)などを主張している点において相似している。

 

維新はブルジョア政党であるとともに、「反共産主義」を掲げ、戦前の軍部による帝国主義的蛮行(慰安婦問題など)を社会科教科書から消し去り、教科書の国家検定を強化しようとする国家主義政党である。こうした点でも、西欧の右翼諸政党に似ている。

 

従って、維新の支持基盤は若い経営者・起業家などの保守層であるが、自民党や既成政党に不満をつのらせている労働者もここに加わろうとしている。維新の〝改革派〟気取りの幻想(B・Iによる格差是正や生活保障)によって、遅れた労働者の支持を掻き集める可能性があるのだ。

 

意識ある労働者は、維新の動向に注意を払うと共に、国際主義の立場から自民党政権(維新も)の大軍拡に反対し、立憲や共産らが自民党に追随している現実を具体的に暴露し、労働者の階級的闘いが一歩でも二歩でも前進できるように、その先頭に立たなければならない。