【『海つばめ』読者からの投稿】
「無限発話 買われた私たちが語る性売買の現場」(性売買経験当事者ネットワーク・ムンチ著)を読んで
暴力と搾取にみちた性売買の現実、性売買女性の非犯罪化し、買春者・性的売買業者を処罰する北欧モデルの導入を、上野千鶴子氏らが唱えるセックスワーク論の残忍性も告発
韓国の「性売買経験当事者ネットワーク・ムンチ」著「無限発話―買われた私たちが語る性売買の現場」(梨の木舎)が発刊されました。韓国では性売買女性火災死亡事件をきっかけに女性運動が力を結集して「淪落行為防止法」(1961年)を廃止させ、2004年、買春者、斡旋業者への処罰強化、脱・性売買を望む女性への国の支援強化を盛り込んだ「性売買防止法」が制定させました。
性売買集結地がある地域では女性活動家による性売買経験者当事者による支援が始まり2006年に「ムンチ」が結成されました。「ムンチ」とは「団結してできないことはない」「一致団結」という意味です。「無限発話」は、「ムンチ」のメンバーたちが経験した現場、彼女たちが業者や買春者から投げつけられた実際の言葉が、座談会も活用しながら生生しく語られています。性売買は性暴力や性搾取に満ちた世界です。
この著では性売買を経験してきた女性達が同僚の女性たち、暴力と搾取にみちたひどい雇い主や斡旋人、借金のシステム、性売買の集結地、買春男たちの姿態、このすべてを振り返って綴っています。
桐野夏生さん(作家)は、「性売買の現場は、女たちの暴力と搾取にみちたむごい現場だというのに、買う男の話は、そして自己責任だと笑う人々の話は、なぜ誰もしないのか?」と問うています。
性売買、性搾取にあふれる日本の現実も告発
この著の序文「日本の読者のみなさんへ」の中で彼女たちは語っています。「何人もの当事者の経験を通じて日本の状況を聞いていたにもかかわらず、『ムンチ』のメンバーたちで日本の性風俗街を訪れたとき、私たちは驚愕を禁じえませんでした。そこでは、一歩足を踏みいれた場所の何もかもが性売買と結びついていました。買春斡旋紹介所【無料案内所のこと】、女性たちを陳列した広告や看板、街角で客引きする男性たち、ガルーズバーの宣伝をする若い女性たち、女性の身体を部位ごとに分けてモノ扱いにする店、ファッションヘルス店など、ことばでは言い尽くせないほどの性搾取の連鎖を見せつけられました。いつも手軽に買春できる『文化』がすでにできあがっていました。ぞっとします。恐ろしくもあります。韓国の性搾取『文化』は日本の性搾取『文化』を踏襲したものです。それゆえ『ムンチ』は伝えたかったのです。当時者の声が聞こえてこない社会に、私たちの経験を通じて変化がおきることを望んでいます」。今でも歌舞伎町などで買春者、女性に金を使わせ売春へ誘うホストなどが野放し状態で横行しています。
長年韓国で性売買の当事者が驚くほど性売買があふれているところ、それが日本です。彼女たちの言うように日本では当たり前のような日常的光景となっている性売買・性搾取の打破も大きな課題です。
性売買は性的搾取業者、買春者の方が問題だ
8月18日号の「週刊金曜日」の記事の中でムンチの彼女たちは東京の歌舞伎町で買春者が横行する性売買の現場を見て言っています。「路地裏では中年男性たちが若い女性たちに声をかけている姿に鳥肌が立った。こうした場面を見て、日本の女性たち、フェミニストたちは腹が立たないのか聞きたい」「若い女性たちが性売買をしたいかしたくないかが問題ではなく、彼女たちがここに出てこざるを得なかったことに多くの人が思いを寄せてほしい」。
彼女たちが問題なのではなく、彼女たちを追いやる、虐待、ネグレクト、貧困などの方が問題であり、それ以上に、AV、風俗などの性的搾取業者、買春者の方が問題なのです。
若い女性が店前を横行する男の客に顔と着物姿をさらして、多くの店の女性と比較選択してもらったうえで、性を売らされている大阪の今の飛田新地も今の現実です。維新の元代表橋下徹氏はこの飛田新地の売春業者の団体、飛田新地料理組合の顧問弁護士を務めていました。橋下徹氏は大阪市長をしていた2013年に沖縄に行った際、アメリカ兵の性犯罪の横行に対して、アメリカ軍司令官に風俗を活用すべきだ、風俗産業は法律で認められているとの発言を行い、多くの沖縄県民から反発の声が上がりました。
風俗、AVなどの性的搾取業者、ポルノ業者が狙うのはできるだけ若く、しばしば未成年の少女、親がいないか虐待的な親を持つ少女、知的障害を持つ女性、性被害を受け自暴自棄になっている女性、ホスト推しなどさまざまな依存と嗜癖に陥り多額の現金を必要としている女性、経済的弱者のシングルマー、親世帯が仕送り余力をなくし高額な学費・高い利子の奨学金にあえぐ女子大生などです。
現在放映中の軽度知的障害の女性が主人公のテレビドラマ「初恋ざらり」の初回では、主人公はコンパニオンのアルバイトで、男性から体の関係を求められると拒むことができず応じてしまうことが多々ありそのシーンがありました。今では法的成人年齢に達してはいるが、未熟な18歳に達したばかりの少女、女子高生すらもAV、性売買の対象となっています。
若い女性、少女の関係性の貧困もつけこまれています。今、現在「ホストクラブ」などは多くの若い女性に多額の金を使わせ女性を「風俗」に誘う道具・装置となっています。女性を性産業に導く最大の理由は貧困ですが、性産業に入っても貧困から抜けられることはほとんどありません。
(最近では、女子小学生向けのおしゃれ雑誌「ニコ☆プチ」8月号の付録に「ボクが姫をエッチにさせてあげようか?」なる性暴力肯定マンガがありました。)
AVも今では上野千鶴子氏が朝日新聞の人生相談で「ヌクためのおかず」と推奨するほど日本であふれかえっています。このAVについてムンチの女性は語っています。韓国ではAVは禁止されているが「日本のAVが要求をエスカレート」させる。「日本のAVを見て同じようなことを要求する。そのレベルがどんどん上がっている」。「日本は女性嫌悪の文化があるのかと思う」。(週刊金曜日、8月18日号)。
AVはどこの国にもあるものではなく、東アジアの中では、日本のみが、商業的なポルノ大国です。日本でのジェンダーギャップ指数が低く、女性の社会的地位が低いのは日本でAVなどのポルノの蔓延、風俗の横行にも一因があります。
ある有名AV女優のAVの最新作の表題は「学生時代のセクハラが忘れられなくて~」、「僕は、妻がレ×プされている所が見たい」です。AVは女性を性的な対象としてしかみず、まさにセクハラ、性暴力、男尊女卑、女性蔑視、女性差別の世界にほかなりません。維新は仁藤夢乃さん、Colaboが性売買を合法化するとして反対してきたAV新法、AV業界、ポルノ産業の意向を受けこのAV新法をヨリ骨抜きにする法案を国会に提出しています。
NHKの日本の性教育の問題点を取り上げた番組でも風俗・性売買の存在を当たり前で普通にある日常的なこととして取り扱っていました。ムンチのこの著「韓国でも日本でも買春はさほど悪い行為とは思われてこず、世間の注目は性売買女性ばかりに集まっていた」。ムンチのこの著では買春者の方にスポット、重点を当てその実態を暴いています。
性的搾取業者、買春者を免罪する「自発性論」「セックスワーク論」――買春者、性的搾取産業の理論的代弁者としての上野千鶴子氏
ムンチのこの著には性売買女性の「自発性」論批判があります。これは、上野千鶴子氏らが言う性売買女性の「自己決定」「自発性」論の批判でもあります。ムンチの彼女たちがいうとおり、この「自発性」論は「自発的に性売買を選択したのだから、自己責任」だという論理に転化します。これは性売買業者、買春者の言い分に、また、その性暴力に免罪符を与えるものです。ムンチのこの著で、「自発/非自発などという区分はない」と指摘する通りです。
またムンチのこの著には「セックスワーク論」への批判があります。「セックスワーク論とは、性を売る行為を他の職業と同様の労働とみなし、性売買業は普通の職業、買春はただの消費行動とみなす論である」(上野千鶴子氏がまさに言いはなってきたセックスワーク論のことです)。「どうして世間には『セックスワーク』などという言い方ができる人々がいるのか理解できない。本当に残忍だと思う」。
セックスワーク論は性売買業者と買春者を免罪する机上の空論であることも明らかにされています。「性売買と性犯罪には紙一重の差もない」「セックスワーク論は暴力性を無視している」。これも上野千鶴子氏らのセックスワーク論の虚妄な反動的な本質を、ある意味では女性を陥れ痛みつける残忍な性格をついています。
事実、1998年8月の朝日新聞発行の「論座」で「社会学者」の宮台真司氏とので対談において、宮台氏がバクシー山下監督の女性を恐怖に陥れる残忍な拷問・暴力レイプAVを持ち上げるのを上野千鶴子氏は容認し評価さえしていました。
宮台真司氏が援交少女など性の商品化を賛美した上での論議に上野千鶴子氏はなんの異議もはさまず、「まったくそう思います」と同調していました。また、この対談について森田成也氏は1998年9月「論座」、「読者の広場」の投稿「上野・宮台対談に見る性的リベラリズムの隘路」の中で書いています。
「上野氏は、この『性的弱者論』(宮台氏の買う側の男性の方が性的弱者であると言う主張)に関し、私たちに迷惑が掛からない範囲で性産業を利用して、してくださいと言うのみである。つまり強姦やセクハラという形で自分の身に害が及ぶのは困るが、自分と別次元の人間であるセックスワーカーを使って性欲を満足させるのは結構、というわけだ」。
上野千鶴子氏は1994年6月22日の朝日新聞でも「性労働はマッサージ師と変わらない」「セックスというお仕事」は「あまたある労働の一つ」「性労働が強制ではなく、選択の結果」と主張し、「売春」をマッサージ師と変わらない「性労働」、最近の共著「往復書簡 限界から始まる」(幻冬舎)の中でも、「セックスワークは女性にとっての経済行為です」と言ってきました。
性売買をめぐっては、旧東欧諸国が崩壊した際、ドイツ・オランダでは売買春が合法化されており、旧東欧諸国の数百万の若い女性が人身売買業者を通じて流れて行きました。特にルーマニア女性には悲惨な悲劇が襲いました。東欧の中でも最貧国であったルーマニアでは、50万人もの若い女性が人身売買され、ヨーロッパ各国に運ばれていきました。この数はルーマニアの生殖可能年齢女性人口の四分の一にあたります。(森田成也著「マルクス主義、フェミニズム、セックスワーク論」慶応義塾大学出版会、典拠資料は明示されている)。この事実も上野千鶴子氏らのセックスワーク論の反動的本質を教えています。
上野千鶴子氏は「売春」を「性労働」「セックスワーク」と学問的、理論的、に昇華する高尚な美しい言葉で粉飾し、買春者、風俗などの性的搾取産業、AVなどのポルノ産業の理論的代弁者として現れたのです。
北欧モデルの日本への導入、買春禁止法の制定は緊急の課題
ムンチのこの著の中での紹介。「スウェーデンでは買春を『女性への暴力』とみなし、1999年に『買春』を処罰する法を世界で初めて施行した。この法では性売買女性は処罰されず、さまざまな支援を受ける。同国から始まったので北欧モデルと言われ、その後ノルウェー、アイスランド、カナダ、北アイルランド、フランス、アイルランド共和国、イスラエル、米国ハワイ州に次々と導入された。スウェーデンでは同法制定10年後、性売買による性搾取が減少したと評価され国民の支持率も70%と高い」。日本でほとんど報じられることがない北欧モデルは今日の世界では大きな流れとなっています。
性売買を女性への搾取と暴力、性差別の一形態ととらえ、性売買女性を非犯罪化し、保護・支援の対象とし、買春者、性的搾取業者を処罰する北欧モデルの日本での導入、買春禁止法の制定は緊急の課題です。ムンチも韓国で北欧モデルの性平等モデルへの転換をめざしています。
「買春は人間の尊厳への冒瀆であり、性売買は凶悪犯罪である。それは人間社会の中に居場所を持っていてはならない。―アイルランドの売買春サバイバーの証言」、「契約書があるかぎり私には自由など存在しないと思っていました―あるAV強要被害者の手記」(森田成也著の前掲書)
ムンチは灯火とColabo に連帯する
「暇空茜」などネット右翼はColaboを貧困ビジネスなどと誹謗中傷し、今もしています。「公金の不正使用」とのデマを今も流し続けています。この「暇空茜」が東京都に行ったColabo会計の住民監査請求はことごとく退けられ、一部、都の担当部局の清算方法に不適切なものがあると指摘されたが、これは、より透明性の高い行政に向けた、担当部局に対する改善の指摘というものにすぎず、Colaboの会計不正は全く認定されませんでした。
「暇空茜」の監査請求の主張の大半は退けられたのです。この不適切とされた一部も少女を保護し、その安全を、個人情報を守るためのものです。彼らはこの監査結果を歪曲して今も中傷を繰り返しています。維新もネット右翼に加担し、参院で維新の音喜多駿議員(政務調査会長)は、1月27日に参院で「Colabo不正会計問題」として質問し、岸田首相が「再調査踏まえ必要な対応」をすると回答しています。
ネットのデマの拡散に煽られた連中がColaboの活動を現実に妨害するなどColaboの運営に支障をきたす事態すら生じています。ネットでのデマの拡散は支援を必要とする少女などを怖がらせています。居場所のない少女などの性的搾取等に会う彼女らの支援は彼らにとってはどうでもよいことなのです。
「Colabo問題」をネットで報じる「文春オンライン」「デイリー新潮」の報道内容は公平、両論併記をよそおって、ネット右翼、「暇空茜」などの主張が妥当であり、Colaboの東京都の委託事業の会計や経費のすべてが「不適切」であるかの印象を与える内容となっています。
Colaboは今では、東京都が妨害に屈したため、Colaboは補助金等には申請せず、財政的にはかなり苦しい状況となっています。
ムンチの彼女たちは言います。「歌舞伎町でアウトリーチにより性搾取される若年女性たちの支援活動するColabo(コラボ)が現在、執拗な攻撃を受けている。にもかかわらず、東京都や警察は傍観しています。ジンさんは『安全な場を提供するのは国家や自治体の責任』。それを放置し、Colaboを手助けしないのはあまりにひどい」(8月18日「週刊金曜日」)
Colabo、仁藤夢乃さんがあれほどまでに、ネット右翼などから誹謗中傷の攻撃を受け今も受け続けているのは、巨大な産業と化した風俗、パパ活、AVなどのポルノ産業,性的搾取業者、金を持ち、性を搾取する多くの買春者の利権、利益に反し彼らの利権、利益を害し損なうからではなかったか。
日本でも灯火という反性搾取の性売買当事者のグループが昨年に誕生し、自らの言葉で発信しようとしています。(ネットで検索できます)。だが,その矢先の灯火とつながるColabo、仁藤夢乃さんが激しい誹謗中傷と攻撃。ムンチの女性達はこの著の中で灯火とColabo に心からの連帯の意を表しています。
(Colaboのネット右翼からの攻撃については、雑誌「世界」6月号に「『Colabo』バッシングとは何なのかーSNSから溢れ出すデマと陰謀論」との記事が、週刊誌「週刊女性」(4月11日号)に「はびこる虐待・性被害やまないネットリンチ」との7ページに渡る記事があります。「週刊金曜日」にも適宜に掲載されています。)
日本の性売買当事者からの貴重な証言―誰もが心にとめおくべき
最後に、昨年の5月22日、仁藤夢乃さん、Colaboが「AV業界に有利なAV新法に反対する緊急アクション」を開催され、その中で性売買当事者からのメッセージが代読されています。この証言をここでぜひとも紹介しておきたいと思います。これは誰もが心にとめておくべき貴重な証言だと思います。
「安全に働けるようにすることが、暴力をなくす道だというフェミニストも多くいますが、現実を全くわかっていません。性売買の現場で起こっていることは、自由な性の可能性などではありません。そこにあるのは昔ながらの男性の欲望です。
買春男がなんにお金を払っているのか、私は体で知っています。記憶は消えることはありません。私の心は死んでしまったような気もしています。今までたくさんの女性の涙、絶望した顔、諦めた顔を見てきました。なぜなかったことにしようとするのか。現実を直視してください。女性の命と尊厳にもっと目を向けてください。
性売買は人身取引です。男性の欲望を煽ることであまりに巨大になったビジネスです。業界の人達が守りたいのは、そこにいる女性の人権などではありません。男性の買う権利を維持することはフェミニズムではありません。女性の権利を訴えることを当事者に対する差別と言い換え、被害を訴える当事者の声を消すことはシスターフッドではありません。
私は『かわいそうな被害者』ではありません。1人の人間です。そしてその尊厳をかけて、性売買は女性への人権侵害であり暴力であると訴えます。どうかなかったことにしないでください。」
「私は約20年間、性売買の現場にいました。皆さんにお知らせしたいのは、そこで起こっていたことは決して普通の労働とは言えないということです。嫌なことは断ることができる、安全に働くことができる、そんな人も中にはいるでしょう。しかし多くの実態とは、あまりにもかけ離れています。
ほとんどの客は、罪悪感などありません。そして、接客の態度、体の反応など、意に沿わないことがあれば不機嫌になります。時には暴言、暴力で脅します。楽しむことを当然の権利だと思っているからです。お金を払ったからです。
この世界ではお金を払えば、暴力を正当化できます。なぜそんなことが当たり前に行われてきたのでしょうか。なぜ、それが続いてきたのか。文化だからでしょうか。必要だからでしょうか。いいえ、皆が無関心だったからです。そこで起こっている女性への暴力に無関心だったからです。
性売買の現場を知らない方々に伝えたい。それは決して『サービス』などという言葉では言い表せないことを。起こっているのは暴力です。なかったことにしないでください。」
(M)
(2023/9/21 一部修正)