投機は何も生産しない

「資産所得倍増計画」のまやかし

 

 岸田の「新しい資本主義」は、「成長による企業収益と歳入増を原資に分配する」好循環の資本主義だと言う。その実行計画案が5月に発表された、その一つが「資産所得倍増計画」だ。

 

計画の言う資産所得とは、株と投資信託への投資による配当金のことで、要するに、国民はチマチマと貯蓄に励むのではなく、すべからく金融商品にカネを注ぎ込め、これが「新しい資本主義」の下で暮らす国民の望ましい姿だと言わんばかりだ。

 

 この計画は、3年前の「老後30年間で2千万円が不足」と同様、年金を始めとする社会保障制度の破綻を個人の責任で解決しろと迫るものでしかない。「新しい資本主義」が目指す成長のためだけでなく、そこから国民が分配してもらおうとするなら、株や投資信託に投資しろというのだ。

 

 NISAの少額投資非課税制度を使えば、年間120万円の投資で得る配当は非課税、iDeCo(イデコ=確定拠出年金)なら全額非課税になると、投資欲をかき立てるのだ。

 

 岸田が目を付けたのは、2千兆円あるという個人の金融資産だ。この半分が預貯金と現金で、投資経験のある人は10%に過ぎない。つまり、投資経験のない国民が90%もいるのだから、「眠り続けてきた1000兆円単位の預貯金を叩き起こし、市場を活性化するための仕事をしてもらう」とぶち上げたのだ。1000兆円の投資で経済成長をはかり、国民への分配も増えるという好循環が生まれると期待するのだ。だが、株も投資信託も元本保証はない。元本保証ができないという意味が、岸田は分かっていない。

 

 株の配当が景気や企業業績に左右され、売買益は買った人の分が安く買った人の利益になるだけで、何かを生産して富を増やしたわけではない。投資信託も中身は株や債券への投資で、ここ10年間で元本割れの信託は8%、3年間ではなんと90%にもなる。優勝劣敗の競争原理が支配する資本主義の歴史を見れば、好循環は幻想に過ぎないのだ。

 

 現実の日本は、異次元の金融緩和でも利潤が見込める投資先が見つからず、成長が果たせないままだ。消費増税で庶民の税負担は重くなっているのに、法人税は、かつては20兆円前後あったのが10兆円を割り込んでいる。物価の急上昇に苦しむ労働者の実質賃金はマイナス、雇用者の4割は社会保険の加入が困難な2千万の非正規労働者だ。どこに投資の原資があると言うのか!  (Y)