愛媛の医療介護事業所での残業代未払いと闘い、勝利した仲間からの報告が寄せられましたので、紹介します。

 

監督署から指摘されるも隠ぺいした経営に一矢報いる

――団結した闘いで時効の壁やぶり残業代未払い分獲得

 

報告に登場する事業所は生活協同組合という経営形態で医療介護の分野に属する。労働者数はパートを含めて500 名を超え、一般企業の資本金にあたる出資金は3億円以上であり、労基法上も立派な大企業である。

 

経営のトップである理事長は元市長で、現職時代2期目に自民系の対立候補を連合の支援を得て破り、政治的には「革新」系と目された。2019年参院地方区では元立憲民主衆議院議員を応援、自民候補を破る当選に貢献した。護憲運動にも熱心であり集会で講演もしている。

 

「そんな顔」と経営者としての姿勢は違ってもそれは当たり前である。資本主義経済を前提に事業運営をしていくためには、労働者の立場・利益とは敵対し、徹底して事業所の利益(生協資本)の側に立つことが求められている、そんなことは承知している。

 

「そんな顔」が労働者の立場・利益の側に立っていることなのかどうか、は重要なことであり、理事長が求める社会(考えているとしたらだが)では労働者の地位はどうなっているのか、聞きたいところだがそれはさておく。ただし、以下具体例で示されるように 経営者としての質(たち)は決して立派とはいえない。

 

先日、私はこの事業所で組織される労組定期大会参加に参加した。そこで2024年度執行部の特別執行委員に5年連続で選出された。2023年度の労組活動報告で書記長の了承を得て私から以下の補足説明を行った。

 

20197月、時間外手当計算に介護職員手当を算入していないことを監督署監査で指摘され、是正勧告を受けた経営側は、該当者にも職員にも秘密にし、次月(8月分)から「正しい計算」にして済ませていた。

 

202112月労組が事実を知り、過去11年(200810月から20197月まで)分の未払分支払い、経過説明、謝罪、再発防止策提示、就業規則改訂手続き実行(給与支払いの変更は職員に周知徹底義務あるが、怠っていた、監査で指摘された時に職員に知らせると、遡っての差額支給請求を恐れ 、故意に放置したのなら悪質だ)を要求。経営側は「うっかりしていた、隠すつもりはなかった。ただ、請求されても時効であり支払うつもりはない」との返答。

 

労組は納得できず、これを許すと経営側の隠蔽体質を許すことになると、年末一時金、春闘と並行して、労使協議会、団交を経て足掛け2年、20234月に謝罪文と20178月から20197月まで2年分の未払分支給の「確認書」を得た。

 

結果、対象者102人、一人平均25342円、総額258万円を獲得した。もっと組織が大きければ全額取り返せたかも知れない。2年で260万円なら10年分では1300万円だし、この間退職した仲間の分を考えるとそれ以上の金額を、経営側は「不当に」手にしたと言える。労組の粘り強い闘いがあったからこそ勝ち取れた意義を再確認しよう、組織拡大を訴えます、等々。

 

なお、今回、経営側に言い逃れできないと観念させたのは、就職以来20年分以上の給与明細を保管し「計算誤り」の証拠を提供してくれた組合員の存在があります。この方に感謝します云々。大会後は場所を移動して懇親会があり、臨席の新労組員(介護施設栄養士)に私の話は理解できたか聞いてみたところ、よくわかりましたとのこと。

 

なお、経営側のいう「時効」は賃金未払い等を労働者が「知って」遡って請求できるのは2年までを根拠にしたものだった。20204月以降は5年(当面3年)に改訂。しかし、「時効」は裁判で争った場合の判例に過ぎず、労使の力関係で10年でも何年でも遡って支払いさせることは可能である。

 

今回「時効」を持ち出されて諦めていれば1円も取り返せなかった。団交では違反の事実を伏せたことで請求権行使を封じたうえ、暴露されたら「時効」に 逃げるのは許されるのか、と訴えてきた。

 

交渉で経営側からは解決金や寸志で早期解決を提案され、労組執行部の一部は「早く、少額でも手にしたい」との労組員意見を紹介した。私は「払う、払わない」は別にして、経緯、未払いの期間、人数、個々人への未払金額等を明らかにせよ、「あったこと」を「なかったこと」にする経営側の態度を改めさせないと、今後同様な誤りを繰り返させることになる、全事実を詳らか(つまびらか)にさせ、そのうえで不払い分にどう対応するのかと迫るべきだ、と私は意見を言った。労働者は階級的な存在であり、目先だけで満足できないからである。

 

理学療法士の執行委員 は、「私は介護手当を支給されないので当事者ではないが、自分だったら、真実を知りたいと思う」と賛同してくれた。労働法規や裁判判例は大いに参考 にして有利な闘いに利用するべきだが、労働者の団結した非妥協的な闘いこそが前進の鍵である。労働者の階級的な団結をさらに押し広げ、労働の解放を目指して闘っていきたい。(愛媛 FY)