争点なき静岡県知事選の結果
―与野党対決よりも地域財界の闘いに終始―
川勝知事が急遽辞任し、短期で闘われた静岡県知事選は、元浜松市長(4期16年)の鈴木康友が、元総務省官僚で副知事経験者(2年)の大村慎一を7・7万票の差をつけて勝利した。鈴木康友の勝利は予想されたもので、争点なしの全くのつまらぬ選挙であった。投票率は、52・47%で、前回3年前の知事選に比べ0・46ポイント下がり、鈴木が728,500票(47・4%)、大村が651,013票(42・4%)、共産党の森が107,979票(7・0%)、その他(3名合計)が48,684票(3・2%)であった。
大村(静岡市出身)は、川勝が辞任するとすぐに立候補を表明し、反川勝の過大なマスコミ世論を背景に、それに乗っかって川勝の「分断政治」(マスコミ用語、県議会やJR東海と対立したこと)を批判、中央政府との人脈を強調し、自民の支持を得た。但し、裏金問題で批判され、補選で全敗した自民との関係を薄めるため、大物閣僚級の応援を一切断り、ただ上川外相だけが(静岡出身故に)一度だけ応援に訪れるという方針をとった。
一方、鈴木(浜松市出身)は満を持して――と言うのは、あと一年任期の残るはずであった川勝の後釜を虎視眈々と狙っていた――浜松市政16年の「実績」を強調して立候補した。立・憲と国・民が支持し、勝ち馬に乗っかって連合静岡も支持を表明した。松下政経塾出身の鈴木は、かって民主党の国会議員を勤めたことがあり、その因縁もあった。
どこの骨とも判らぬ大村――かって静岡県副知事を2年務めたが、それは中央官僚の単なる天下りで、ただ副知事の椅子を暖めていたに過ぎない――より、鈴木は知名度が遙かに高い。例えば、彼をよく知るであろう50歳代以降の鈴木への投票率は高く――70歳代では鈴木が53・1%、大村が39・2%等――、大村は30~40歳代で僅かに鈴木を上回ったに過ぎない。
ところで、彼らの主張であるが、川勝県政の評価やリニア工事問題、浜岡原発の再稼働、浜松の野球場建設など、いずれも両者とも大差はない。大村が川勝を真っ向から批判したのに対し、鈴木はやんわりと、リニアは両者ともに早期の推進を主張しつつ、浜岡原発再稼働と同様に、地域の理解が大切などと、その本音を隠した。
こうした似たり寄ったりの両者の主張に対し、共産党は急遽、新県委員長の森大介を候補に立て、反リニア、反再稼働の受け皿となることを主張した。しかし、その主張はそれらに反対する一部の県民に迎合する市民運動的なもので、リニアや原発をその根本に立ち帰って批判するものではなく(リニア問題については、プロメ61号を参照に)、ましてや大村や鈴木の立ち位置(背景にある地元財界との癒着)を徹底して暴露、批判し、労働者の立場を徹底するものでもなかった。よって当然ながら惨敗した。
では大村と鈴木の違い(票差)はどこにあったのか。その一つは、川勝県政へ県民感情の読み違いにある。鈴木は、選挙途中で、岐阜でのリニアトンネル工事による地下水の水枯れ問題が報じられると、急遽、川勝を持ち上げリニア推進のトーンを落とした。実は、川勝県政への県民評価は2/3が肯定的であり――大いに評価14・5%、ある程度評価52・1%(静岡新聞)――、川勝を批判すればするほどその候補者への県民感情は冷めていくこととなる。鈴木は途中でそれに少し気づいたが、大村はマスコミの反川勝に踊らされて読み違えた。
第二の差は、鈴木が県西部(浜松市)で浜松市長として根を張ってきたのに対し、大村は県中部(静岡市)の新顔であった。7・7万票の差は、実は西部での得票数の差である。西部では、大村の得票率が28・5%であるのに対し、鈴木は62,9%と圧倒した。中部で大村が55・1%、鈴木が36,2%、東部では大村が53・5%、鈴木が39・2%と大村が健闘したのに、西部では圧倒されたこと(浜松市では大村が8・9万、鈴木が23・1万票)が大村の敗因である。
マスコミや立憲はこの選挙を与野党対決と持ち上げ、自民候補の敗北と捉えているが、決してそうではない。たまたま立・憲や国・民が推した鈴木が勝ったに過ぎない。むしろ対決を挙げるならば、中部財界と西部財界の対決であった。静岡県は富士川を境に、東部(中心は沼津市・人口18万)と中部(中心は静岡市・67万、政令都市)、大井川を境に西部(中心は浜松市・77万、政令都市)の三地方に分別できる。大村は中部財界(鈴与、静銀など)に推され、鈴木は西部財界(スズキ、ハマキョウレックス、ヤマハなど)が支援した。中でもスズキ自動車の元会長の鈴木修は、選挙のたびに暗躍し、川勝を知事に押し上げたのも彼であった(同じ名字だが、鈴木康友とは姻戚関係はない)。
この両政令都市は、選挙の裏で、資本同士の激しい闘いを繰り広げたのである。勿論、勝利の暁には自らの資本の発展を約してのことである。結果、浜松市は念願叶って、漸く地元出身の知事を得た。
大村にしろ、鈴木にしろいずれも地元資本と癒着した存在である。鈴木が掲げた「オール静岡」「幸福度日本一の静岡県」とは、この資本主義という階級社会の中で、富む者(資本家)も搾取される者(労働者)も一緒くたにした反動的な労使融和、労使協調主義の政治であり、日本一はさておいて、県内資本のさらなる幸福(発展・繁栄)を目指すものとなるであろう。「税金の1円たりとも無駄にしない」(新知事会見)と言う鈴木は、まずもって――県民にとって屁の役にも立たず、必要度ゼロの――、西部財界の要請に応えて、浜松市内に370億円でドーム型の新野球場の建設に着手せねばならない。
新知事誕生で、早速、JR東海は鈴木との面会を要求し、川勝では果たせなかったリニアの静岡区工事(南アルプス貫通トンネル工事)の着工を要求している。鈴木は早速「最後は政治的決断だ」(新知事会見)と述べ、にっちもさっちもいかない大井川の水資源と南アルプスの環境保護問題を切り上げて、「政治決着」を暗に匂わせている。いつ自民党に鞍替えしても可笑しくない、鞍替えしなくとも本質的に自民と同じ鈴木を推した立・憲や国・民が、「勝った、勝った」と騒いでいるのも滑稽だが、こんな知事を選択せねばならない県民もまた哀れである。「労働者党」静岡支部は、労働者の立場から、鈴木のこれからの県政を徹底して暴露していく。 (義)