愛媛県で闘う仲間からの「教科書問題」について投稿がありましたので、掲載します。(担当)
① 反動教科書に参入あり、帝国主義化加速させる政府の立場を反映。
本年(2024年)は、4年に一度の中学教科書の採択年である。歴史教科書分野では「つくる会」系の「育鵬社版」「自由社版」に「令和書籍版」が加わり、採択対象9出版社のうち3社版本が、労働者にとっては当面の「採択阻止対象」となった。今回検定初合格となった「令和書籍版」は2018年に初めて検定申請したが、途中で取り下げ、その後3回申請して不合格となっている。
社長は右翼で作家、明治天皇の女系玄孫の竹田恒泰。中国の呼称を「支那」、新型コロナウイルスを「武漢肺炎」と表記するなど、20年度検定では600箇所以上の欠陥を指摘されたが、修正に応じて6年がかりで検定合格した。この合格は、日本を「現存する世界最古の国家」とした記述など100箇所以上の修正をしての通過であった。
竹田は欠陥を指摘された申請本を「検定不合格教科書」としてネット販売している。前書きに執筆意図を「(日本の子供が)日本の建国の経緯を知らない」「中学歴史教科書は、きわめて反日色の強い不適切なものが長年使われてきた」から自分が主筆となり「国史教科書」を執筆したとある。
彼のいう「建国の経緯」は戦前使用された「国定教科書」(今回表紙は『国史』とあり縦書きであることも模倣)の復活であり、内実は「皇国史観」「天皇制美化」である。この一点だけでも労働者はその粉砕を決意する。日本軍国主義の敗北とともに本来なら廃絶されるべきであった「天皇制」は現在日本資本主義にとって延命の道具として無くてはならないものとなっている。
2017年8月発行「プロメテウス58号」の「労働者綱領のより深い理解のために」124頁の『5「”天皇制”は国民総奴隷化のテコ」--”前近代性”の野蛮な差別制度を廃止せよ』には次のくだりがある。
今の天皇制は戦前天皇制と違って「君主制ではなく」、何ら「危険」でない、心配するなー戦後は「国民の主権」を謳う憲法のもとにあるのだからーなどというのは果たして正しいのか。自らの日和見主義を隠すための、危険な”楽観論”ではないのか。すでに天皇制は現実に「危険極まりない」ものに堕しており、ますます堕しつつある云々。
先の「プロメテウス58号」は7年前の発行だが、現在日本帝国主義の深化はますます急速なものとなっている。今年に入ってから、米軍との共同訓練増加、沖縄県の急速な軍事基地化、靖国神社トップの宮司に元海将就任、陸上自衛隊高級幹部数人の制服姿での公用車による参拝、陸上自衛隊第32普通科連隊の公式X(ツイッター)が、先の大戦を「大東亜戦争」と呼称、皇室典範を変更して若返った天皇による政治的外遊と政治利用に無自覚なマスコミ報道など。
竹田の目的は自民党政権と同じであり、だからこそ文科省は注文をつけてでも結局は合格させた。他社版を「反日色が強く不適切」はいわゆる「自虐史観」批判だ。利潤目的・権益獲得が目的で侵略戦争や領土拡大を「聖戦」と偽った軍国主義国家日本が犯した戦争を正しく理解し、謝罪・弁償すべきなのは当然だ。これを「自虐史観」と呼んで批判して「白人からのアジア解放のためだった」あるいは「近代化に寄与した」などと説明すればするほど、侵略された側から批判されるのは当たり前だ。軍事力行使も厭わぬ威嚇で商圏を確保するしか展望を見いだせない資本家政府打倒が労働者の急務となっている。
検定合格した「令和書籍版」は先の「日本は現存する世にとって界最古の国家」は「生徒にとって理解しがたい」と指摘を受け「皇室は現存する『世界最古の王家』とも言われます」に改められた。
かつての扶桑社版で「仁徳天皇陵」(大仙古墳、神話である日本書紀では313年から399年在位とあるが在位87年?宮内庁が陵墓だとしているだけ)は世界最大だ、エジプトのクフ王ピラミッドより大きい・・紀元前2500年前で歴史や建造物としては比べようもない、(面積を持ち出すナンセンス)と書いていたのと同じだ。もっとも「皇室」の文言が付け加えられたので、文科省の意向である「皇国史観」や「天皇制国家主義」賛美に寄与した記述となっており、結果的には共同歩調だ。
原始時代の1章は「古事記」の記述から始まり、「国生み神話」を掲載。最新現代考古学による知見に基づくことなど眼中にないようだ。古事記等の神話を史実のように交えての記述は先輩2社に倣っている。
「慰安婦」問題等について、日本政府が1965年の日韓請求権協定で解決済みとの立場であるなど、コラムを設けて詳述していることなどが特徴のひとつである。領土問題でも、例えば、竹島(島根県隠岐の島町)について、(韓国が)現在も不法占拠を継続し、竹島問題は未解決のまま」などと記し解決にむけて実力行使を煽っている。自民党政府の右派の立場を代弁している。
検定では、後鳥羽上皇が鎌倉幕府の最高権力者、北条義時の追討を命じたことに始まる「承久の乱」を巡り、解説の漫画を十数ページにわたり掲載。他の項目の記述と比べてバランスに欠けるなどとして検定意見が付き、修正を求められた。経済力も従って権力も武力もなかった武家政権時代は天皇の出番は少ないのが当たり前だが、なんとか紙面を費やそうとしたがあっさり削られたようだ。
日本の侵略戦争についは「快進撃」と表現。先輩2社と同じ「戦争賛美」だ。
文科省に提出した「編集趣意書」ではコラム「歴代天皇の模範とした仁徳天皇」、コラム「修身道徳の根本規範・教育勅語」で「仁徳天皇や教育勅語の他者を慮る態度が社会に与えた影響を紹介することで、その重要性を理解させるよう留意した」と記述あり。前者は神話や伝説で語られており、実存の証拠がない。後者は天皇制愛国主義に儒教道徳を加味したもので、唾棄すべきものである。
② 右翼の政治団体がつくった教科書(つくる会分裂後は育鵬社・自由社から出版)
唯物史観(歴史や社会は人間の意志から相対的に独立に一定の必然的な諸関係の下に発展してきたと考え、その必然的な諸関係を分析し再構築して歴史を理解する)の影響を受けた戦後の歴史教科書を「自虐史観」として批判した「自由主義史観」(大東亜戦争肯定論、東京裁判史観、唯物史観のどれとも与しないとする)の提唱者藤岡信勝(1991年まで日本共産党員)や西尾幹二、八木秀二らが1997年「新しい歴史教科書をつくる会」(つくる会)を結成し、2001年からは執筆(つくる会)、編集・発売(扶桑社)、発行(産経新聞社)の相互分担で「新しい歴史教科書」「新しい公民教科書」を申請して検定に合格した。
採択運動は「日本会議」と共同で結成した「教科書改善連絡協議会」などを通じて展開。安倍派や高市ら自民党右派がこの運動と連携してきた。
検定後の採択について藤岡信勝は「正論」1999年7月号(産経新聞社発行、扶桑社発売)で次のように書いている。「自虐史観そのものを排除できるシステムがある。それが教科書採択である。自虐史観の教科書を採用しなければ、結果的に自虐史観は教科書から追放されることになるからだ。・・・左翼勢力による、採択を通じての教科書内容の事実上の統制とイデオロギ-支配、これが今も変わらない教科書問題の基本的構図である。ではこの状況は変えることができないのか、それができるのである。・・・「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」の第23条は、教科書採択が教育委員会の「職務権限」に属することを明記している。全国1万4千人の教育委員の方々が「教科書採択」という職務権限を適切に行使すれば、教科書問題は解決するのである。」
前年の1998年参議院行政改革特別委員会では文科大臣町村信孝が自由党の永野茂門議員の質問にこう答えている、「採択の段階でもう少し改善すべき点はないだろうか、そんなことを今教科書検定に関する審議会でご論議いただいているところでございます」。
教育委員は教師でない方がほとんどで、新居浜市では医師会長、女性団体役員、地元企業経営者などである。中学校教科書は歴史、地理、公民、数学、国語、理科、英語等あり学科ごとに数社から1社を選ぶことになる。今年の歴史教科書は9社が申請されている。歴史の教師は9冊を読み比べて1社を選んで理由を記して報告するが、各社平均300ページなので2700ページを読むことになる。委員は歴史だけでなく全教科書の採択をするのであるから、大変だ。
失礼ながら委員さんは果たして全対象教科書を読み込み、各科目1社を責任もって選択することができるのか、藤岡も町村も各委員が十分吟味し選択できると本気で思っているのか。「職務権限を適切に行使すれば」というが、そもそも「適切に行使」とは具体的にどういうことか、現場教師の意見を反映したうえで採択して不都合な理由は何か。 (新居浜F.Y)