神奈川で『資本論』やマルクス主義の学習会を行っている「横浜労働者くらぶ」の会報「労働者くらぶ」第53号で、ラジオ深夜便 『絶望明言』を聴いて樋口一葉の「貧困との闘い」を紹介しつつ、「私利私欲の世界」を批判して、個人主義や利己主義で個人個人がバラバラな私利私欲の世界に対して、マルクス主義の立場で論じているので、紹介します。(担当)

 

ラジオ深夜便 『絶望明言』を聴いて

 

★樋口一葉―—貧困との闘い 

 

昨日は明け方4時ころに目が覚めて、しかたなくラジオをかけたところ「絶望名言」というのをやっていたので、つい聴いてしまった。この番組は以前にも聞いたことがあり面白かったのである。様々な書籍から絶望に関する文章を集めて紹介し、悩んだり行きづまっている人を勇気づけようというのである。昨日取り上げられた樋口一葉の一生は、貧困との闘いであった。幼いころから短歌の塾に通い、そのプロになりたかった一葉が、女性の職業小説家(日本で初めてという)をめざしたのも、その収入で一家を養いたかったからだという。彼女が少女時代(まだ金銭の苦労を知らない時代)に作った歌の中にお金にまつわる歌があるが、彼女の24年の短い人生は、金に苦しめられた一生であった。今では、一葉は五千円札の表紙になっているが、彼女の人生を考えると、まことに皮肉である、というのが解説者の結論であった。 

 

★貨幣は万能 ! 

 

近代の小説家で、金に苦しめられた作家は多い。戦前の葛西善蔵や嘉村礒多などはその最たるものであろう。彼らは自身の貧困やどん底生活を“売り物”にして、赤裸々に作品にした。一方、生活の困窮を逆に作品に昇華し、優れた作品を書いたものも少なくない。人類の長い歴史にとって生きることの困難からの脱出は、最大の課題であったといってよい。生きるためには何よりも食料の確保である。次いで雨風、寒さを防ぐ住居や衣類である。生きようとすることにおいて人間も動物も変わりはない。それは動物において本能として、意識のある人間は欲望を満たす意志として、私利私欲として現れる。

 

マルクスは、人間の私利私欲について、またその根源の私的所有や貨幣を分析したのである。私的所有と分業が貨幣を生み出す。貨幣は万能である。マルクスは、コロンブスやシェイクスピアを引用して貨幣の物神性を見事に描いている。「金は素晴らしいものだ!これを持っている人は、彼の願うこと何一つかなわぬものはない。金によって、霊魂さえ天の楽園に達せしめることができる」(コロンブス、ジャマイカからの手紙、1503年)。この貨幣の出現の必然性をマルクスは価値形態論の中で詳細に展開すると同時に、その物神性を解明するのである。人間の私利私欲が物質化したのが貨幣である。 

 

私利私欲の世界―—動物界 

 

マルクスは『資本論』第1巻の序文で次のように述べている。「経済学の取り扱う特有の性質は、最も激しい最も狭量なそして最も憎悪に満ちた人間胸奥の激情である、私利という復習の女神を挑発する。例えば、高教会派は、その39か条のうち38に対する攻撃には我慢するが、その貨幣収入の39分の1に対するそれには我慢できない。今日では、無神論は、受け継がれた所有関係の批判と比較すれば、一つの軽い罪であるといってよい。」(岩波p17                                            

 

マルクスは、個人主義や利己主義で個人個人がバラバラな私利私欲の世界を「必然の世界」、「動物の世界」とし、私的所有を廃止した世界、共同世界を「自由の世界」「共産世界」とするのである。

 

★「必然の世界」から「自由の世界」へ 

 

エンゲルスは次のように述べている、「社会が生産手段を掌握するとともに、… 社会的生産内部の無政府状態に代わって、計画的、意識的な組織が現れる。個人間の生存闘争は終わりを告げる。これによってはじめて、人間は、ある意味で決定的に動物界から分離し、動物的な生存条件からぬけだして、ほんとうに人間的な生存条件のなかに踏み入る。いままで人間を支配してきた、人間を取り巻く生活諸条件の全範囲が、いまや人間の支配と統制に服する。これは、必然の国から自由の国への人類の飛躍である。」(「空想から科学へ」岩波文庫p89 

 

彼が述べていることは単純である。「生きること」に必死になり、盲目的に行動している状態は、人間も動物と同じなのであり、「動物的な生存条件」、自然的な法則に支配されている「自然界」の中にある。人間がその状態を脱して、自分の生存条件を自分の支配と統制に置いたときに、初めて真の人間(動物と区別された)の世界、「自由の国」が始まるというのである。そのためには生産手段の私的所有を廃止し、社会全体のものにしなければならないのである。エンゲルスが「必然の国」から「自由の国」への飛躍というのは、何か深刻に聞こえるが、これは一種のレトリックであり、彼が述べていることは、以上の単純なことにすぎない。つまり社会主義、共産主義の実現である。人類の目標はこれ以外にないのであり、生産手段の私有を許している限り、人類は永遠に動物と同じ生活、無政府的な状態を続けなければならない。生産手段を社会全体のものにするまでは、人類は「必然の世界」「動物の世界」に生きることを強いられることになるのである。 (K

 

横浜労働者くらぶの学習会案内 ― 7月の予定

『資本論』第1巻学習会

  時:7月23日(水)1830分~2030  

  所:県民センター703号室

学習範囲:第1章第2節「商品に現れた労働の二重性」

 

『資本論』第3巻学習会

  時:79日(水)1830分~2030  

  所:県民センター703号室

学習範囲:第2篇「利潤の平均利潤への転化」第8章・第9章

 

マルクス主義学習会

― マルクス『共産党宣言』

  時:716日(水)1830分~2030  

  所:県民センター703号室

学習範囲:『共産党宣言』第1章「ブルジョアとプロレタリア」

 

連絡先(会場や日程の変更もありますので、事前に連絡してください。)

Tel080-4406-1941(菊池)

Mailkikuchi.satoshi@jcom.home.ne.jp