<生産現場で働く労働者からの投稿>
資本主義とAI
――『ルポ シリコンバレー』を読んで
近年、技術の発達により、AI(人工知能)は私たちの日常に急速に浸透している。AIとは、人間が行ってきた文章の作成や翻訳、画像生成、情報検索、データ分析などの知的な作業をコンピュータが行う技術の総称である。とりわけ近年は、大量のデータを学習して人間のように自然な文章を生成できる「生成AI」が急速に普及し、ChatGPTやGoogle
Geminiといったサービスは、利用したことがなくても一度は耳にしたことがある人が多いだろう。
今回取り上げる『ルポ シリコンバレー――AIブームと米国社会の断層を歩く』(五十嵐大介著・朝日新書)は、ChatGPTの登場をきっかけに世界的な広がりを見せた「AIブーム」を背景として、AI(とりわけ生成AI)がアメリカ社会にどのような変化や影響をもたらしているのかを現地取材をもとに描いたルポルタージュである。
本書は全7章で構成されているが、私はその中でも、とりわけ第3章「身構える労働者たち」に注目した。タイトルでは分かりづらいが、AIが労働者に与える影響についた書いた章である。
本章では「生成AIが大きな影響を与えるとみられている分野の一つが雇用だ」(141頁)として特に生成AIの導入によって大きな影響を受ける雇用にコールセンターをあげている。
2023年に行われたスタンフォード大学とマサチューセッツ工科大学(MIT)による約5000人のコールセンター従業員への調査では、AIの導入で1時間に解決できる問題が14%増え、さらに経験者が持つ知識がAIによって経験の少ない労働者に共有されるという恩恵があるという結果が出たという(同)。
またMITのデビット・オーター教授は、AIを使うことで医師や弁護士などが行う質の高い意思決定が誰でもできるようになり、その結果「高卒労働者の仕事の質を高め、賃金格差を和らげる可能性がある」(142頁)と指摘したという。もっとも、本章が主として焦点を当てているのは、こうしたAIの積極的な側面ではなく、AIの導入がもたらす負の影響である。
例えば、本章では、アマゾンではアンディ・ジャシーCEOが従業員向けの書簡で、「AI活用による効率化で、今後数年で管理部門の従業員数は減るだろう」と言及したことや、2025年10月には、同社が実際に約1万4000人の人員削減を発表したことにも触れられている(143頁)。
『海つばめ』第1524号の「AIは労働者に敵対的か?――敵対するのは資本主義そのものだ」では、「資本主義の下では、AI導入で効率を上げ、労働者を削減しようとする」と指摘されているが本章で描かれているアメリカの現状は、まさにこの指摘を裏付けるものだと感じた。
さらに本章では、コールセンターや物流現場への取材を通じて、すでにAIとともに働き始めた労働者の生の声や不安の声、また、前述したアマゾンの事例をはじめ、AIが労働者の雇用に大きな影響を及ぼす可能性を示すさまざまなデータや事例も記載されている。
また、それだけでなく、AIの導入によって労働者の常時監視やプライバシー侵害、さらには精神的負担が増大する可能性についても紹介されている。とりわけ監視の問題については、サンフランシスコのアマゾン配送センターで働く労働者が「常に監視されている」(152頁)と訴えている様子が紹介されており、AIが労働者の管理・統制を一層強化する手段として利用されている実態が浮き彫りにされている。まさに「機械への人間の従属」(労働者党綱領)が起こっているのである。
なぜこのようなことが起こるのか? それはこの社会が資本主義社会だからである。前述の『海つばめ』の記事と被ってしまうが、AIは本来、労働時間の大幅短縮や労働者の負担軽減などをもたらしうるものである。
しかし、資本はAIを利潤のために使おうとする。その結果としてAI導入によって労働者を削減したり、また残った労働者に対しては過重労働や長時間労働を強いたり、それをAIなどに使って監視するということが起きるのである。
では、このような状況をなくすにはどうすればよいのだろうか? そのためには労働者が団結して資本主義を打倒し、労働が解放された社会を実現することが必要である。
「資本への人間の従属がなくなると共に、機械への人間の従属も消滅し、人間がオートメ化された機械やロボットやコンピュータを使うのであって、その逆ではないことが明らかとなる」と労働者党綱領でも明記されているが、労働が解放された社会において初めて、AIは労働者を監視し、管理したりするための道具ではなくなる。
AIは、ある面では労働者の「協業者」となり、またある面では労働者の「代役」となる。そのような社会では、生産力増大や生産の効率化によって労働時間の大幅な短縮や労働者の負担軽減が実現するだけでなく、AI(やIoT=モノのインターネット)を活用することによる、エンゲルスが言うところの「あらかじめ立てた計画に従った社会的生産」(『空想から科学へ』岩波文庫92頁)、すなわち計画的生産も可能となり、資本主義のもとで見られる社会的生産の無政府状態も消滅するのである。
本書で描かれているのはアメリカの事例であるが、日本でも同様の動きが見られる。例えば、みずほフィナンシャルグループはAIの活用による業務効率化を進めており、全国で約1万5000人いる事務職員について、最大5000人を削減する方針を示している。
余剰となる職員については、営業部門などへの配置転換を行うとしており、解雇は行わないとしている。しかし、それはあくまで現時点の話であって今後の経営環境によっては、配置転換だけではなく雇用そのものに影響が及ぶ可能性も否定できない。
本書が描くアメリカの現状は、我々日本の労働者にとって、決して対岸の火事ではない。AIは本来、労働者にとって利益をもたらす可能性を秘めた技術である。しかし、資本主義のもとでは、AIは(資本家の)利潤のために利用され、労働者の削減や監視という形で現れている。したがって、今、我々労働者に求められているのは、AIを必要以上に恐れる事ではなく、労働の解放をめざす労働者党の旗の下に結集し、階級的、革命的団結を強め、AIを利潤のために利用する資本と闘い、労働が解放された社会を建設することである! (H)

社会主義と聞くと、すぐかつてのソ連や現在の中国を思い浮かべ、眉をひそめるかもしれません。しかし、私たちは既に1960年代半ば過ぎからいち早く、ソ連・中国の体制を特殊な資本主義(国家資本主義)と規定し、マルクスが『資本論』などの中で提起した共産主義社会とは全く別物であること、商品生産は社会主義でも残るといった市場社会主義論は国家資本主義の現実の追認にすぎないことを明確にしてきました。興味ある方は本誌広告に出ている関連文献を是非お読みください。「目から鱗が落ちる」こと、請け合いです。(