『海つばめ』1416号で自民党西田昌司政調会長代理の主張を取り上げましたが、その記事の補足です。
MMT派に染まる自民党
積極財政推進責任者は西田に
明治憲法復活を主張する右翼であり、MMTを信奉する西田昌司・政調会長代理(安倍派)が1日(12月)、自民党の「財政政策検討本部」の本部長に座った。
本部長の西田は、「経済を再生して財政再建というのが安倍政権以来の政策だ」、「財政再建を謳うのは時代遅れだ」と言い、岸田総裁の直轄機関である「財政健全化推進本部」に牽制球を投げつけた。
西田はアベノミクスをMMT理論として復活させたいという根っからの財政膨張派である。アベノミクスは異次元の量的緩和策が主であり、財政膨張策を従の存在にしていたが、その主従を変更すべきだと西田は批判する。
いくら量的緩和を行い、国債を日銀が買い集めて日銀当座預金にカネを積んでも、不況の中では銀行からカネを借りる民間企業は少ない、むしろ、消費税を期限付きで中止して消費購買力を高め、国民全員への「旅行クーポン」を支給して観光業界を救済し、長期的には毎年20~30兆円の投資予算を用意し、10年間続ければ不況を脱出し、日本経済を再建できると自信満々である。
これらのために追加する年間50~60兆円のカネは国債を発行すれば済む話だ、MMT理論によれば国家の借金をいくら増やしても何の問題も無いと楽観論を振りまいている。丁度1年前に発行した『プロメテウス』59号にて、「MMT経済学批判」を特集した際に登場願ったL・ランダル・レイや「ばら運動」を主宰する市民派の松尾匡らの論調と全く同じである。
日本の国債残高は先進国で断トツの世界一であるが、西田にとって国家の大赤字などは蚊に刺された以上ではようだ。そう考える理由を長々と述べているが、特徴的な西田の見解を取り上げてみよう。
「MMT理論の最大の肝は、貨幣の正体がモノではなく、債務」(西田HP)だと西田は述べるが、歴史的事実を捻じ曲げた、古代から現代まで世界の貨幣は債務証書であったというL・ランダル・レイのオウム返しに過ぎない。
貨幣と債務は商品交換の発展の中で誕生したが、そもそも概念は別である。歴史を紐解けば分かるように、共同体と共同体の間で発生した当初の商品交換は、その発展と共に金や銀などの重さを価値尺度とした秤量貨幣や定量貨幣を生み出し、その後の商品流通の広がりと一層の発展の中で、掛売買(後払い)が商品売買市場で始まった。
この掛売買こそ、後日に貨幣を支払うことを約束した債務証書を生み出したのであり、この債務証書は支払い手段としての貨幣の機能から発生した貨幣の代理に過ぎない。
そもそも西田には、商品交換社会に必然である〝商品は貨幣〟だという理論的歴史的理解は全くなく、その意味さえ理解できないのであり、債務証書が貨幣(あるいは通貨)そのものだと盲目的に理解するしか能が無いのである。
貨幣=債務証書に見えるのは、資本主義の発展の中で、各銀行が独自に発行して来た信用貨幣を国家の中央銀行として独占し、国家の信用貨幣として中央銀行券が発行されるようになり、さらに金本位制による金兌換(中央銀行券が金と交換可能)が廃止され、金不換の中央銀行券は、ただ国家の債務として流通するようになったからである。そして、今や中央銀行は政府発行の国債を大量発行できるように、ゼロ金利政策を強いられ、そこから身動きができない状態に追い込まれているが、まるで中央銀行が無限に国債を発行(債務発行)し続けることが可能かに見えるからである。
また、西田は銀行にとって「日銀当座預金を持つより国債を持っている方が有利」だ、だから銀行は新規国債を常に買い続ける、その結果、「日銀は無限に日銀当座預金を銀行に供給できる」(同上)と言う。
西田は国債と日銀当座預金の金利を比較する。その上で、国債の方が有利だから銀行は国債を買うというが、西田は何も分からずデタラメを言っているか、誤魔化している。
銀行は政府の国債を買い資産として保有するが、日銀が国債を高く買上げてくれるなら、国債を売り差額を儲けることができ、その限りで、次々と発行される新規国債を買い続けることが出来るに過ぎない。他方の日銀は、購入した国債の代金(日銀券)を決済用の当座預金に振り込み、銀行との国債購入を終了するのである。
西田が言うように、銀行は国債と当座預金の金利差を比較し、国債を持った方が有利だから購入するわけではないのだ。ここにあるのは、政府の大量国債発行を維持するため、政府の借金返済の金利負担を軽減させるために、政府と日銀が借金大国を破綻させまいとして必死に策動する姿があるのみである。
しかし、銀行や投資家は国債より有利な投資先があれば、国債を買う道理は無いのであり、また国債に少しでも信用不安が生じるなら、保有する国債を直ちに売るのであり、「銀行は無限に国債を購入」するなどはMMTに凝り固まった西田の妄想に過ぎない。 (W)
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