韓国ユン政権との闘いの課題
政治改革から社会革命へ進むべき
韓国では、「非常戒厳」を宣言したユン・ソンニョル大統領の弾劾訴追は今月7日に与党議員のほとんどが欠席したために不成立になったが、労働者はユン大統領の辞任を求めて国会前の抗議集会を毎日実施するなど、闘いを継続している。14日には野党が再提出した大統領弾劾訴追案の再採決が予定されている。ユン大統領は拘束されていないのを利用して12日に、「非常戒厳」宣言への謝罪を翻し開き直って、「非常戒厳」の正当性を主張する会見を行った。
「いま韓国は野党の議会独裁と暴挙で国政がまひし、社会秩序が乱れ、行政と司法の正常な遂行が不可能な状況だ」、「私を弾劾しようが捜査しようが私はこれに堂々と立ち向かう」、「私は最後の瞬間まで国民と共に闘う。戒厳令で不安に思われた国民の皆さまに改めておわび申し上げる」と、謝罪のポーズをしながら、「国民と共に闘う」と、ユン大統領支持派の決起を促すような挑戦的な姿勢で労働者の闘いに対抗しようとしている。
ユン大統領による「非常戒厳」は、軍政下で過酷な弾圧を受けた歴史のある韓国の労働者が容認できるものではなかった。ユン大統領の「非常戒厳」策動を跳ね返したのは、直接には国会での与野党議員による「非常戒厳解除」採決であったが、国会への戒厳兵士突入への大衆的な抗議行動も大きく功を奏した。20~30代の若者たちも国会本館に乱入した兵士たちを見て政治参加の必要性を痛感したようで、抗議活動は熱気にあふれていたと報道された。
「韓国最大の労働組合の中央組織である韓国全国民主労働組合総連盟(KCTU)は、ユン大統領に辞任を迫るため、120万人の組合員に『無期限』ストライキを呼び掛けた。KCTUは、国会の前でキャンドル集会を毎晩開く予定だ」(ブルームバーグ12 /9)。
こうした大衆的な抗議に押され、検察や警察も内乱容疑での捜査を強めている。今のところユン大統領こそ拘束されていないが、キム・ヨンヒョン前国防相の逮捕、警察庁チョ・ジホ長官とソウル警察庁トップのキム・ボンシクを内乱容疑で拘束し、警察庁や国会警備隊などを捜索、大統領府の家宅捜査にも着手し、「非常戒厳」宣言に関与した政治家や官僚などの逮捕が始まっている。取り調べによって、ユンが「非常戒厳」を宣言した理由やその経過が明らかにされていくだろう。ブルジョア国家機構の一部分でしかない権力装置がどこまで真実を明らかにできるか幻想はもてないが、反動的な政治への大衆的な闘いこそが歴史を切り開いていくであろう。
韓国は戦後の建国当時はまだ資本主義的な発展が遅れている中で、後進国における国家主導の資本主義的な発展をした。冷戦構造の中、軍政の下で一時的な民主化はあったものの労働者の闘いは押さえつけられていた。しかし1987年に光州人民虐殺の〝原罪〟を負う全斗煥政権を追い詰め、民主化宣言を勝ち取り、その後民主化を進めてきた。経済的にも資本主義的発展を勝ち取り、一人当たり名目GDPでは日本を追い抜くほどに成長し、労働者階級も形成され、反政府闘争も階級的に闘われている。さらにその闘いを、資本主義を変革する闘いに発展させなければならない。
今回のユン政権との闘いにおいて断固として腐敗政権を追い詰められないのは、ひとえに労働者の闘いが不十分なのだ。ユン政権は、支持率の低下(物価対策への批判だけでなく、ユン夫人のスキャンダルなどが要因)や国会で閣僚の弾劾案が次々出される中で、軍事力に依存して政権の危機打開を策動したのだから、労働者もそれに対抗する闘いが必要である。議会主義に甘んじることなく、あらゆる所で腐敗政治との闘いの組織化を強め、既成政党のブルジョア的小ブルジョア的な政治を克服して労働者の階級的な闘いを強化する必要がある。
与党「国民の力」のように、ユンに批判的な行動をしながら、次の大統領選への党派的な利害を優先させ、議会での勢力維持を謀ろうと策動するのは自己保身そのものである。そうした姿勢はユンの開き直りを許した。ユンの翻意に驚き野党提出の弾劾訴追案に乗っかる態度は醜態であり、深刻な総括がなされるであろう。
野党にしても民族主義的な傾向など、反労働者的立場が闘いを歪め弱めている。
ユンが「非常戒厳」宣言で、北朝鮮の動向や脅威を理由の一部にしていたからといって、「北朝鮮・中国・ロシアを敵対視し、日本中心の外交政策に固執して日本に傾倒した人物を任命するなど、国家安保と国民の保護義務をなげうった」と1度目の弾劾訴追案で言及したが、2度目の弾劾訴追案では外交政策の内容が削除された。
「共に民主党」のキム・ヨンミン議員は弾劾訴追案提出後、取材陣に対し「弾劾事由は内乱行為で、実質的に(1度目の弾劾訴追案と)同じだ」とし、「ただし、前回の弾劾訴追案では結論に(内乱容疑以外の)様々な内容が含まれていたが、今回はその部分を除き、戒厳に関する内容のみを盛り込んだ」と明かした。
1度目の弾劾訴追案に表れた民族主義的な非難は、「弾劾案に余計なことが書かれている」と反発を買い、与党の投票ボイコットに利用され、投票数不足で採決されず、ユンの弾劾を遅らせ、ユンに〝反撃〟の時間を与えた。ユンの反動的な立場に対して民族主義の立場から非難することは、労働者の国際主義とは相容れないし、資本の支配との闘いを歪めることになるのである。
さらに12日のユンの釈明会見では、「昨年下半期、選挙管理委員会などの機関に対し、北朝鮮によるハッキング攻撃があった」、「私は衝撃を受けた。4月の総選挙を控えて改善を求めたが、改善されたかどうか分からない」と言うように、ユンの危機意識はブルジョア国家の〝安全〟のためであったという釈明であり、野党の「国家安保と国民の保護義務をなげうった」という批判に応え、開き直りを正当化することになった。ユンが資本の国家の利益を守ろうとしたことに対して、民族主義の立場からの批判では闘えないことが示されている。
根底において資本主義的なユン政権に対して、民主主義を守る闘いにとどまることなく、民主主義を利用して労働者が社会の本当の主人公になるための階級的な闘いを強め、資本主義的な生産関係の変革をめざすことこそ、労働者の闘いの道である。労働の解放をめざして、世界中の労働者と連帯して共に闘おう。 (岩)
(2024年12月21日韓国の戦後の経済発展について一部修正)