読者からの質問に答える

――二酸化炭素温暖化説について

 

 

『海つばめ』(1409号)の記事<「資本新世」の告発と闘いを――IPCCは早急なCO2排出削減を要請>に関連して、読者から労働者党は二酸化炭素温暖化説についてどのように考えるのかという質問がきている。

 

この読者は、広瀬隆や池田清彦氏の著書(いわゆる二酸化炭素温暖化説に対する「懐疑論」「否定論」の立場からする議論)を読んでそれに共鳴し、二酸化炭素温暖化説には疑問を持っているという観点からの質問である。

 

9月発行予定の『プロメテウス』(60号)では温暖化問題を特集にしており、二酸化炭素温暖化「懐疑論」「否定論」に関してもそれを主なテーマとした論文を掲載する予定なので詳しくはそちらを参照していただきたいが、当面読者の疑問に沿って簡単に答えておきたい。

 

まず、産業革命以後(特に19世紀後半以後)の地球平均気温の上昇やこのまま二酸化炭素の排出が続けば将来の気温がどうなるか、そしてその結果としての異常気象や氷河・海氷の融解、海面上昇、等々についてのIPCCの見解については、我々は基本的に科学的な諸研究を総括した正しい見解であると考えていることを表明しておきたい。

 

いわゆる二酸化炭素温暖化「懐疑論」「否定論」者が必ずといっていいほど取り上げるのが、ホッケースティック・グラフ(IPCCの主要な執筆者でもある米気候学者マイケル・マンらが1998年と1999年に発表した最近1000年間の地球気温のグラフ)とクライメート・ゲート事件(英国気象庁が設けた英イースト・アングリア大学気象研究ユニットCRUのコンピュータがハッキングされメールを含む文書が流出し、データの捏造が行われていたことが明らかになったとして「懐疑論」「否定論」者が攻撃した事件)である。

 

前者については特に1900年以後の温暖化が際立ったグラフになっているが、特段歪曲が行われているわけではなく基本的には正しく、最近のより詳細な研究によってもグラフの誤差範囲内に収まっているといわれている。また、後者では特にこのグラフの作成に関するメールが問題視され「トリック」が行われたかのように喧伝されているが、英下院や王立協会、イースト・アングリア大学等々の調査で「不正」はなかったことがすでに立証されている事件であること強調しておきたい(むしろ、「懐疑論」「否定論」を流布している側が不法にハッキングし「トリック」をでっちあげるのに使ったと考える方が自然だ)。

 

広瀬隆もこの両出来事を取り上げて「中世温暖期」が意図的に塗りつぶされているなどと騒ぎ立てているが、とうの昔に決着がついている出来事なのだ。

 

 

読者氏は「世界的にはまともな学者は二酸化炭素温暖化説はIPCCによるインチキであるとわかっていて、米国では3万人の学者が京都議定書への署名に反対した」という、これも「懐疑論」「否定論」者が好んで取り上げる論点をあげている。

 

これは、1998年に米国のOregon Institute of Science and Medicine (OISM)が行った「オレゴン嘆願書」のことだと思われるが、これについては明日香壽川、他が編纂した『地球温暖化懐疑論批判』(IR3S/TIGS叢書No.1)に、この嘆願書の信頼性についてのかなり詳しい分析が載っている。

 

署名者には同姓同名の人が含まれているとか、姓がなく名前だけとか偽名らしい名前が含まれている、等々の他に、この署名の主導者フレデリック・ザイツという人物は大手たばこ会社から献金を受けて「間接喫煙の健康被害はない」と主張し続け、またエクソンモービル社との関係が強いなどとても「まともな学者」とは言えない人物のようだ。

 

『地球温暖化懐疑論批判』はネット上から無料でダウンロードできるので是非読んでみていただきたい。

 

読者氏は、さらに「地球の気温変化の第一の要因は太陽の黒点の状態であると言います。確かに大気中のわずか0.003%程度から0.004%に上がったからと言って二酸化炭素が気温にそれほど大きな影響を与えるというのは、不可解な気がします」として、気候変動に影響を与えるものとして二酸化炭素より黒点活動(太陽活動)の方が大きいのではないかと疑問を呈している。

 

太陽の黒点活動はほぼ11年周期で大小を繰り返しているが、1800年代初めころの「ダルトン極小期」のように活動が低調なサイクルの時期もあり、現在はそれに近い状態に入っているという説もある。

 

また、1600年代後半から1700年代の初め頃にかけてのように黒点活動がほとんどなかった時期が70年余りも続いた時期(マウンダー極小期)もあり、こうした数百年規模の変動もあるのではないかとも言われている。

 

これらの説によれば、地球は今後寒冷化していくということになるが、黒点活動の100年規模あるいは数百年規模の変動については明確な根拠があってそう言われているわけではないし、現在の実際の温暖化傾向とも全然マッチしていない。

 

また、もっと大規模で確かなものとしては太陽と地球との軌道関係の変動から起こる10万年周期の氷期・間氷期の変動がある(ミランコビッチ・サイクル)。

 

このサイクルからすると、現在の間氷期はまもなく(あと1,2万年?)終わり、氷期に入っていくことになるが、現在のような二酸化炭素濃度(現在は約410ppm)が続く限りあと5万年は間氷期が続くといわれている。

 

まさに「人新世」といわれる(我々の立場からすると「資本新世」)所以である。つまり、黒点活動の低下傾向や軌道条件の変動からする地球気温の変動(寒冷化)をも攪乱する形で、二酸化炭素(その他の温室効果ガスも含めて)排出による温暖化が進行しているのが現代なのである。 
(長野 YS)