国境炭素税導入が加速

――世界の対立激化と秩序再編の導火線になりかねない

 

 CO2に値段を付ける国境炭素税導入の動きが活発になってきた。これは、CO2排出量に課金する仕組みを作り、CO2削減を急ぐためだとされる。

 

 EU欧州委員会は7月、温室効果ガスの削減策の一つとして国境炭素税を26年に導入する方針を明らかにし、その具体案を公表した。

 

「まず、CO2の排出量が多い鉄鋼、アルミニュウム、セメント、肥料、電力の5分野で、環境規制が不十分な国・地域からの輸入品に課税する。金額は、企業が温室効果ガスの排出枠を取引する際の価格をもとに決める。23年から準備に入り、26年から始める方針だ」(『朝日』21.8.25)。

 

この国境炭素税導入の理由は、単にCO2削減規制が緩い国や遅れている企業の尻を叩くだけではなく、EUの環境規制を避ける目的で、生産拠点を規制の緩い国に移すことを防ぐことにあると報道されている。

 

だが、それだけでは無いだろう。EUは既に自動車のEV化や再生可能エネルギー電力や水素還元製鉄などで世界を一歩も二歩もリードしているのであり、EUはこれを前提に、進捗が遅れている国家の企業製品に国境炭素税を課し、一段と優位な地位を確保し、経済的な大きな利益を狙っているのだ。

 

米国でも、バイデンが昨年の大統領選で公約したに国境炭素税を導入する方向で動き出し、民主党は去る7月に「炭素集約的で貿易上の競争にさらされた業種」に適用すると、具体的な法案を提出した。

 

このEUや米国の動きに対して、日本政府は国内のCO2課金には一応前向きであるが、国境炭素税については、世界の過去の環境税導入の経緯(フロン税や化学物質税など)を研究しはじめている段階であり、「諸外国の検討状況を注視しながら対応を検討する」と様子眺めのようだ。

 

しかし、政府も資本も内心は穏やかではない。日本製鉄の橋本社長はEUの「保護主義」だと反発し、経団連も「慎重な検討を求める」緊急提言を出したことがそれを物語っている。

 

気候温暖化の対策が急務になっているとは言え、EUや米国が環境炭素税を導入するなら、対中国を念頭に置いた経済戦争は、進捗の遅れた日本や非先進国にも飛び火することが必至である。

 

なぜなら、EUへ鉄やアルミなど多くの製品輸出を行っている中国は、対EU〝優位〟が脅かされることになり、日本も自動車や鉄や電力などに課税されるなら、その痛手は計り知れない。さらに、東南アジアや中南米などの非先進国にとっては、新たな危機に直面しかねない。その結果、国境炭素税は、かつて関税戦争が現実の戦争に転化したように、世界の対立激化と秩序再編成に向けた帝国主義的対立の導火線になりかねない。

 

資本主義と帝国主義は、世界共通な課題であり協働して解決しなければならない気候温暖化問題さえ、国家間を競合させ対立させずにおかないのだ。その結果が現実となれば、労働者が一番の犠牲者になるのは明らか。  (W)