労働の解放をめざす労働者党ブログ

2017年4月結成された『労働の解放をめざす労働者党』のブログです。

パレスチナ・イスラエル問題

パレスチナ・イスラエル問題について《Ⅲ》

(読者からの投稿)パレスチナ・イスラエル問題について《宮本  

 

最後に改めて言いたい。かつて大日本帝国が中国侵略を推し進めていった時に、「匪賊」――毛沢東率いる共産軍は「共匪」――と呼ばれた日本帝国主義に抵抗し神出鬼没のゲリラ戦によって現地日本軍を大いに苦しめたナショナリスト・民族主義者の武装集団がいた。この頃、大陸各地に点在していた日本人居留地にいた一般の日本人を度々襲って殺傷したのは各地に割拠していた軍閥やその敗残兵だったのだが、当時の日本からすれば一括りにされた彼らは明らかに「残虐非道なテロリスト」だったのだ。

 

20世紀以後におけるナショナリズム・民族主義には二つの歴史的段階があるように思う。つまり、抑圧され無権利状態に置かれた或る民族が民族としての自決権を要求する解放運動の歴史的段階と、すでに自決権も主権国家も保有しており、領土拡大ないし領内の少数民族を排除しようとする植民地主義的な歴史的段階とがある。

 

21世紀に入ってから中国共産党が主導する中華人民共和国の動向――憲法を改悪してまで国家主席3期目の習近平は「偉大なる中華民族の復興」を掲げて、香港での国家安全維持法による圧政、チベット自治区の人々やウイグル自治区でのムスリムへの弾圧抑圧、南シナ海での独善的な領海設定や一帯一路路線などの帝国主義的で覇権主義的な海外膨張など――を見るにつけて、1949101日に統一された国民国家として建国された植民地解放の民族解放闘争を闘ってきた以前とそれ以降の国内国外の権威主義的で大国主義的な出来事の推移を比べるとそのように思わざるを得ない。

 

僕は、今日の世界各地で起こる出来事を判断する際には常に、そのそれぞれの人々が置かれている状況が人類の歴史上、経済的・政治的・社会的に、どういった歴史的段階であるのかということを物差しにして行うよう心掛けており(それが唯物史観的な観方だと思っているから)、パレスチナ・イスラエル問題を考える場合もそうしたことを基本的なスタンスにしている。

 

パレスチナに住んでいるアラブ人の民族自決による国民国家(Nation State)建設を主張するのも彼らにとってはそれが現在の彼らが置かれている歴史的発展段階に最も即応していると思うが故である。かつて1910年代、レオン・トロッキーやローザ・ルクセンブルグは帝国主義のもとでは「帝国主義がある限り実現不可能だ」、「社会主義はすべての国境と無縁なのであって、帝国主義によって除去された国境を再現する」からなどという理由で被抑圧民族の「民族自決権」を否定した。

 

これに対してレーニンは、それは「帝国主義的経済主義」であって、民族自決は可能であるばかりではなく不可避であること、それが一つの改良であり、民主主義の実現であるにすぎないとしても世界の諸民族の社会主義的な融合にとって一過程であること、帝国主義による併合や搾取や束縛などの「強制ではなくして、万国のプロレタリアの自由な同盟にもとづく、諸民族の接近」が必要なことを繰り返し強調して、彼らを批判した。

 

レーニンは言う、「あらゆる民族的圧政に対する闘争――これは。無条件にイエスだ。しかし、あらゆる民族的発展のための、『民族文化』一般のための闘争――これらは、無条件にノーだ」(「民族問題における批判的覚書」1913年、『レーニン全集』⑳ p.21)、と。僕はこの言葉を、前半の「イエス」は当然だとしても、後半の「ノー」はまさに“至言”だと思っている。それは、どういうことか。

 

近年小ブル・インテリどもがやたら持て囃している、多様な民族・慣習・言語・文化の共存・共生を唱える多文化主義・文化相対主義が人口に膾炙する今日の状況にあって、とりわけ強調したい。こうした考え―――まさに、第一次大戦前に「人種・民族のるつぼ」と呼ばれたバルカン半島を支配していたオーストリア=ハンガリー帝国において、民族問題の解決策として、諸民族の独自性・自立性を唱えた上での調和ある併存、平和的な共存・協調を提唱して、帝国内での諸民族の自治権を要求したオットー・バウアーらのオーストリア・マルクス主義者の直系の嫡子なのだ――は民族排外主義を補完するメダルの裏面に過ぎない。

 

純粋で固有な文化や民族という概念は国民国家があるいは国民国家の時代が生み出した“創られた神話”であって、他文化・他民族の尊重や自民族中心主義の克服を目指す多文化主義・文化相対主義ないし多民族主義は文化や民族の多様性を認めるものの文化や民族を単一の孤立し閉じられた体系と見なすこと――この最終的な行先は各民族ごとの「アパルトヘイト」になる以外ではない――によってお互いに垣根をつくって恒常的な交流による相互融合・相互変容がなされていくという積極的な発展を阻害することになりかねない。

 

レーニンが「ノーだ」と言ったのは、そういった意味であると僕は思う。そもそも、いかなる民族・文化といえども決して孤立してもっぱら内在的に自立・自律して成長発展してきたわけではなく、他の民族・文化との間に様々な関係を取り結び、それによって種々多様な作用を受け変化変容し融合しながら発展してきたはずであって、あらかじめ孤立した諸民族・諸文化が存在し、何らかの理由で偶発的に交流が行われたのではなく、逆に交流という現象が先にあって、つまり交流が常態だということである。

 

その点で言えば、日本史の教科書での平安時代の「国風文化」は894年の遣唐使の廃止以後の日本独自に発展した文化なのだといった解釈は明らかに誤っている。国としての公の正式な相互交流は無くなったにしても、民間交流はそれまで以上に盛んになっていたのである。

 

パレスチナの大地の上に住んでいるすべての人々、ユダヤ人やアラブ人、その他多くの人々がお互いに分け隔てなく交流しながらより一層の融合が行われること、そして、そうした流れの障壁となって妨害し敵対する現在のイスラエルの政治体制の変革──その変革を可能にするために、アメリカ、そしてナチスのホロコーストへの贖罪意識からイスラエルの生存権と自衛権を国是にしているドイツとフランスなどの西欧諸国の財政的・軍事的な援助の即時停止を世界の労働者は掲げるべきである──こそが、現在最も求められていることであると僕は思っている。

(読者からの投稿)パレスチナ・イスラエル問題について(宮本   博)

          Ⅲ    


パレスチナ・イスラエル問題について《Ⅳ》

(読者からの投稿)パレスチナ・イスラエル問題について《》(宮本   博)

 

──追記──

僕がネットなどで手にしたグローバル・ノースの日本を含む西側諸国の主流メディアでは絶対に報道されていない情報がある。これについて少し述べたい。

 

107日当日ハマスの戦闘員の1人が「越境攻撃の目的」――今回、なぜ「人質を取ったのか」ということ――について以下のような手記を残している。

 

「(イスラエル領内にある)キブツを襲撃し、住民を人質にすることについては、当然、異論もあった。ガザ地区を縁取るパレスチナの村々の土地の上に、その住民たちをガザに放逐したのちに建設されたこれらのキブツは、イスラエル軍のガザ地上進攻に際して、その前哨基地として使われる準軍事施設であり、住民たちは武装しており、多くは戦闘訓練を受けた予備役の兵士だ。だが、そうだとしても、それを襲撃し、戦闘服を着ていない彼らを人質にとることは国際人道法違反だ。しかし、それを戦争犯罪だと批判するなら、世界よ、どうか、教えてほしい。

 

イスラエルの刑務所に、ただ占領の暴力に抵抗したがために何カ月も、何年も、何十年も収監されている5000人ものパレスチナ人の父親たち、母親たち、息子たち、娘たちを解放するのに、ほかにどのような手立てがあるというのか。やむを得ず人質を取る。しかし、彼らには絶対に危害をくわえない。彼らはやがてぼくたちの隣人に、友人に―――もしかしたら恋人に―――なる者たちだ。ぼくたちが撒くのは憎しみの種ではなく、共生の種、友情の種なのだから」(手記の一部)。

 

それを証明するように、キブツで人質になったが生還したヤスミン・ポラットは、「テロリストたち」が終始、人質を人道的に遇していたと証言している。またガザに連行された人質たちを前にハマスの軍事部門のトップ、ヤヒヤ・シンワルはヘブライ語で「絶対に危害を加えない」旨、誓ったという。

 

人質交換において、ガザから解放される人質はパレスチナ人戦闘員と握手して別れたり、アラビア語で「シュクラン(ありがとう)」と言ったり、また、幼い娘と人質になったいた母親は、娘を大切に扱ってくれたことに対してヘブライ語でハマスに感謝の手紙を書いていることからも、この誓約が守られていることが分かる。

 

107日の出来事はイスラエル政府および軍により「ハマスの残忍なテロ」として世界に喧伝され、「自衛権の権利の行使」という直後から始まったイスラエルによる未曾有の攻撃は、時をおかずガザのパレスチナ人に対するジェノサイドとなった。「ハマスの残忍なテロ」は、このジェノサイドを下支えする言説的基盤を提供した。

 

しかし、この数か月のあいだに次々と明らかになった諸事実は、そのようなものとして喧伝された出来事の多くは事実無根であることを示唆している【注:野外音楽祭で起きたとされる集団レイプも、イスラエル警察は一件も指摘していない。目撃者証言が多々「引用」されるものの、被害者はもとより、目撃者による直接証言も存在しなかった(その後、『ニューヨークタイムズ』紙が目撃者の名前入りで証言を報道したが、証言を裏付ける具体的事実は上がっていない)。それが実際に起きたと信じるに足る証拠はいまだ何ひとつ提示されていないのが実情だ】。

 

107日に関して確実な事実として言えるのは、この奇襲攻撃でイスラエル側に1000人以上の犠牲者が出たことだ【注:当初、1400人と発表された死者数はその後、1200人下方修正され(200人はパレスチナ戦闘員であることが判明したため)、その後さらに、1147人に修正された(理由は不明)。ここにはイスラエル側の数百人の警官や戦闘員も含まれている】。

 

イスラエルのハアレツ紙によれば、身元が判明している902名のイスラエル側の死者のうち民間人は556名、これら民間人には、生還者の証言や証拠から、ガザの戦闘員によって殺された者もたしかに存在する一方、イスラエル軍が、人質として捕われている者たちが中にいるキブツの住宅を砲撃したり、人質・捕虜としてガザに連行される途上の車両を攻撃用アパッチ・ヘリからのミサイル攻撃したりしたことで殺された者たちも多数含まれていることが分かっている。

 

その内訳は不明である。犠牲者の親族は、愛する家族がこの日、どこで、誰によって、どのように殺されたのか明らかにすることをイスラエル政府に求めているが、政府は依然、その公表を拒んでいる。公表すると都合の悪い理由があるからだと考えるのが自然だろう。

 

イスラエル政府が情報公開しない以上、107日の出来事の全容は不明だが、少なくとも言えることは、頭を刎ねられた40人の赤ん坊(あるいは、オーブンで焼かれた、あるいは洗濯紐に吊るされている赤ん坊)がでっち上げであったのと同様、イスラエル当局発表の「ハマスの残忍なテロ」なるものも捏造であるということだ。

 

襲撃された野外音楽祭は当初、前日で終了予定で、土曜日まで延期されることは直前になって決定されたのでガザの戦闘員にとっては想定外だったことが判明している。また、イスラエル軍の攻撃によって、人質や捕虜が多数殺害され、それが自分たちの「残忍なテロ」の証拠されることや、戦闘員の越境に続いてガザから飛び出した非戦闘員がキブツで狼藉を働くということも想定外であったという。

 

はじめに記したハマスの戦闘員の手記は次のような文で終わっている、『白人国家だった南アフリカが虹の国になったように、川から海まで、パレスチナも虹の国になる。この土地の上に、ぼくたちは未来を植える。ああ、母さん、故郷が見えるよ。朝日に照らされたぼくたちの故郷が。ぼくらの娘たち、息子たちがやがて還る、虹色の故郷が』。僕たちが普通TVや新聞などの主流メディアから得る情報はかなり加工され、ブルジョアジーの代弁者である権力者の意図を忖度した情報、都合の悪いものが隠され偏向した一方的な情報だということを改めて確認しなければならないと僕は思っている。

(読者からの投稿)パレスチナ・イスラエル問題について(宮本   博)

            Ⅳ  

パレスチナ・イスラエル問題について《Ⅴ》

(読者からの投稿)パレスチナ・イスラエル問題について《》(宮本   博)

 

 改めてこの僕の文章を読み返すと、ハマスによる越境攻撃を少なからず認めるようなニュアンスだったと今更ながら反省しきりです。ハマスによる攻撃はいかなる理由があれ許されるものではありません。今回のハマスによる越境攻撃は彼らにとってもイスラエル政府・軍によるガザへの報復攻撃が予想されるなかで行われました。

 

 どんなに崇高な理念を掲げていようと、結局は、36日現在4万人近く(その7割が女性と未来ある子供)にのぼるイスラエル軍によるジェノサイドに結果しました。たとえそれがイスラエル軍の行った悪逆非道な所業だったとしても、それはハマスが越境攻撃を行なったが故だったのです。

 

 この虐殺された女性たちや子供たちの未来、その他多くの人々の命を奪ったこと、これが「ユダヤ人からのパレスチナ大地の解放」という「大義」のための“尊い犠牲”、いわゆる「人柱」だったとは僕には到底思えません。代表委が「労働者党の考えと必ずしも一致しません」とあるのは多分このことかもしれません。

 

また、最後の方で「パレスチナ人の国民国家形成」というところまでしか述べていない舌足らずの点もあるのかもしれません。他の箇所もあるのかもしれません。どういった点で「労働者党の考えと必ずしも一致しません」とあるのか、Iさんが知りうる範囲でいいですから僕に教えていただきたいと思っております。いろいろ農作業の傍らに「或るパレスチナの若者のテクスト」を読んで僕自身心がふるえ胸に迫るものがあり、何か書かなければと急に思い立って文章にしたものだったのです。後悔先に立たずで、かなり反省しているところです。(宮本博)

(読者からの投稿)パレスチナ・イスラエル問題について(宮本   博)

              Ⅴ


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