労働の解放をめざす労働者党ブログ

2017年4月結成された『労働の解放をめざす労働者党』のブログです。

トヨタイズム

トヨタは今どうなっているのか?――加速する労資一体化!

トヨタは今どうなっているのか?

――加速する労資一体化!

 

 

1、様変わりしたトヨタの「春闘」

デジタル化・カーボンニュートラル経営の課題を背負う労働組合

 

愛知県の産業を支えるのは、言わずと知れたトヨタ自動車を中心とする自動車産業の集積にある。今回の労働者党支部ビラ4月号は、100年に一度の変革期の只中にある自動車産業の中で、トヨタと労組の現状について明らかにし、搾取の廃絶=労働の解放を訴える海つばめ号外発行しました。

 

日本の春闘相場をリードしてきたトヨタ(トヨタでは春闘とは言わず、春交渉と呼ぶ)は2019年以降ベアを非公表とし、春闘からこっそりと姿を隠した。2021年のトヨタの「春闘」の結果は賃上げ月額9200円アップ、賞与は年間6.5ヶ月と、組合の要求に対して満額回答で会社側は応じた。

 

トヨタの春闘で何が論じられたのかを紹介します。

 

トヨタの春闘は今年の場合は、2月に一回目の労使交渉が行われ、組合から「トヨタの持続的成長に向けて、下記観点で議論をしていく。①働きがいや能力の、最大発揮を阻害する全社的課題②自動車産業のさらなる発展に貢献するため、オールトヨタの力を最大化し、さらに取り組むべきこと」、「本年の労使協議会では、厳しい環境下でも働き続けられていることへの感謝を労使で共有」、そして賃金、賞与の要求書が会社に渡された。会社側は「賃金・賞与について、会社と労働組合が対立軸で闘うことが目的ではない。組合員一人ひとりの能力を最大限に活かし、オールトヨタの競争力を最大化するため、賃金・賞与に限らず本音で話し合うという特徴がある。」

 

昨今のトヨタにおいては、賃上げや賞与、リストラなどをめぐって労使が対立することはほとんどない。トヨタの経営陣が強調するように、賃金や賞与で対立し争わないのは、トヨタがケタ違いの儲けを上げているからである。20年度の利益は2.07兆円。21年度もコロナ禍で、操業停止や世界的な需要の後退で未曾有の危機に見舞われたが、当初予想をはるかに上回る2.0兆円の利益が予想されている。トヨタの内部留保は24兆円と他の企業をはるかに凌駕している。豊富な資本と強固な競争力が、賃金や賞与で組合の要求を受け入れる背景である。

 

今年の春闘において労使交渉で「家族の会話」が繰り返され、「『豊田綱領』『労使宣言』『円錐形』というトヨタの原点を確認し、現場の声に耳を傾け、労使ともに、悩み、苦しみながら今日という日にたどり着いたと思います。労使双方が、『会社は従業員の幸せを願い、組合は会社の発展を考える』この共通の基盤に立ち、『幸せとは何か』、『誰かのためにとはどういうことか』を真摯に、真剣に議論していただいたことに対し、改めて感謝申し上げます」(豊田章男)と組合の労使協調の立場を持ち上げている。

 

そして、「上下一致、至誠業務に服し、産業報国の実を挙(あ)ぐべし」、「神仏を尊崇し、報恩感謝の生活をなすべし」を謳う「豊田綱領」や「生産の向上を通じて企業の繁栄と、労働条件の維持改善を図る」を明記する「労使宣言」を繰り返す社長の豊田章男から、「『デジタル化』と『カーボンニュートラル』の2本柱において、トヨタの労使が『自動車産業のリード役』を務める」とか、「550万人の自動車産業の仲間」や「日本の未来」「生まれてくる子供たちのため」、労使一体となって「デジタル化」「カーボンニュートラル」「日本の未来」に向けて、「成り行きの10年後と、戦い続けて迎える10年後は、全く違う」という〝過激〟な「戦闘継続宣言」で、トヨタの21春闘は幕を閉じた。

 

2、トヨタを取り巻く自動車業界の状況

 

完成車メーカー相関図 自動車産業は「100年に一度の変革期」の荒波の中で「生きるか死ぬかの戦い」に明け暮れている。豊田社長が言うように「デジタル化(自動運転やネットワーク化)や「カーボンニュートラル」をめぐって、各国が熾烈な競争を行っている。菅は2050年カーボンニュートラル社会実現を公約した。このような脱炭素社会への急激な変化に各国が舵を切った理由は、地球温暖化=環境問題が人類が安定的に生存していく上で無視できない問題になってきたということ。そして、環境問題を解決していく技術開発やエネルギー開発が資本にとって資本の発展を阻害するのではなく逆に、100年に一度の変革期に象徴されるような技術的なブレークスルーを生み出し、競争に勝ち残った者が独占的に利益を占有することができるからである。


自動車産業では電気自動車の勝者を決める下克上の戦いが、各国政府を巻き込みながら業界の再編=資本提携、業務提携を繰り返しながら昼夜戦われている。

 

自動車産業のEV化を巡る競争はとりわけ激烈。なぜならエンジンやHV車など内燃機関を動力源とする車両の部品点数は3万点であるのに対して、EV車の場合は十分の一の3千点と言われている。自動車生産の技術的蓄積がなくても部品を仕入れて組み立てれば容易に自動車を生産することができる(テスラを見れば一目瞭然)。最も重要なコアな技術をなすのは、自動車の全てを制御するソフトウエアでありソフトウエアを処理する半導体と各種センサーである。

そしてEV車を究極的に規定するのはエネルギー=電池である。主流のリチウムイオン電池は当面のEV車のエネルギー源であり、VWGMや中国は電池の開発、生産に多額の資金を投入し一気に主導権を握りトヨタや日本の電池メーカーを引き離そうとしている。しかしリチウム電池は、充電時間や安全性、使用する原材料の価格と供給源の問題から、新しい電池の開発をめぐっても激しい開発競争が進められている。特に全個体電池は充電時間、航続距離、安全性を大きく向上させることが確実で実用化されると、EV車のゲームチェンジになる技術と言われているし、燃料電池車=ミライがトヨタから発売されたように電動車の主導権争いは苛烈である。

 

3、成果主義賃金制度に自民党支持。労組であることを放棄し、会社に従属することで存在を許されるトヨタ労組!労組幹部は豊田章男の宣教師だ!!

 

 トヨタでは今年から成果賃金制度が全面的に導入されようとしている。これまでの職能基準給+職能個人給の賃金体系から全面的に職能個人給に一本化し、評価も事技職(事務、技術職)はこれまでの4段階からA,B,C,D1,D2,Eまでの6段階に評価を細分化し、工場現場はADまでの4段階に変わりはないが、D2D評価は昇給ゼロで配置転換やリストラ対象者扱いに等しい。

 

トヨタイムズに盲従し会社に全面的に協力し、QCサークルをはじめとする会社行事や、カイゼン活動に自発的、積極的に取り組むことがA評価を受ける踏み絵である。

 

成果賃金制度を導入したトヨタ労組は昨年の11月に、選挙での推薦候補に政権与党である自民党と公明党の候補者を新たに追加する方針であることを発表した。

 

組合は賃金制度で組合員の間に差別と分断を持ち込むことによって、会社側の労務管理に屈服したが、政治においては自民党や公明党の候補者を推薦することによって、自民党政権との闘いも放棄したのである。

 

リーマンショックや大規模リコール、東日本大震災、そしてコロナ禍を乗り越えて世界最強の自動車メーカーに上り詰めた社長の豊田章男は、トヨタイズムの教祖として君臨し、豊田章男に追従する労組幹部はトヨタイズムを拡散し実践する宣教師の役割を果たそうとしている。

 

日本から労働運動の息吹が消えかかってから長い年月が経過した。労使協調の連合が発足し、会社と馴れ合うことが組合運動であるかの状況を呈している。ストライキは一部の組合を除いてほとんど行われることはなく。ストライキを通告したJR東日本の労働組合は、逆に会社側から労組解体の攻撃を受け組合員数が激減した。

 

資本が容認するのは労使協調で資本に忠実なトヨタ労組のような労働組合である。トヨタが賃上げや賞与で対立することなく満額回答を行うのは、好調な業績を支えるトヨタイズムに絡め取られた宣教師=労組幹部を養育するためである。イズムや精神的結びつきによる関係は、金銭的な関係よりも強固でさえある。

 

資本家が繰り返す「家族の話し合い」や「共通の立場」は、会社に滅私奉仕を強要する、都合の良い言葉でしかなく断固拒否し、搾取の廃絶=労働の解放を掲げて共に闘おう!

 

(労働の解放をめざす労働者党愛知支部の4月ビラでの訴えを一部修正)

 

トヨタ新「成果主義賃金」へ!——攻める資本に、服従する労組

『海つばめ』1386号に掲載した記事ですが、紙面の都合で一部省略しましたので、ここに全文を掲載します。トヨタイズムの実態を暴露しています。

トヨタ新「成果主義賃金」へ!

——攻める資本に、服従する労組

トヨタ自動車は2021年1月から新賃金制度に移行しようとしている。9月30日に行われるトヨタ労組の大会で新賃金制度導入が決定されると、トヨタ自動車において「成果賃金制度」が本格的に導入されることになる。トヨタにおいて「成果賃金制度」が導入されるとその影響は大きい、今後多くの会社がトヨタに倣って「成果賃金制度」を導入するだろう。会社側は「成果賃金制度」を根拠に、賃下げや労働条件全般の引き下げを行い利潤を搾り取るだろうし。労働者に分断をもたらし、資本による労働者支配は制度化され、組合は組合員に会社への忠誠と会社が期待する仕事の取組みの旗を振るだろう。

新賃金制度(成果賃金制度)の具体的内容と目的

新賃金制度の内容についてトヨタ労組の発行する「評議会ニュース」(8月5日発行)によれば「第15回労使専門委員会」で、事務技術職(事技職)では、賃金水準の見直しを行い、これまで「上限」を設けていたのをやめて、「頑張り続ければ上限なく昇給し続ける」に変更されたと報じられている。

トヨタの基本給は2種類の基本給で構成されている。一つは「職能基準給」と評価によって決まる「職能個人給」で今後は「職能個人給」に一本化したうえで、定期昇給を従来の事技職(主任職)の評価がA~Dまでの4段階であった考課を6段階に細分化する。

A~C評価は全体の90%(資格期待通りかそれ以上)D1、D2評価は10%(資格期待を下回る、FB[フィードバック=教育しても改善せず)、D2評価はゼロ昇給、以上までで5段階。6段階目のE評価(周囲に悪影響を及ぼしているorFBしても改善の努力が見られない)はゼロ昇給に止まらない配置転換や解雇を会社側が考えていることを予想させる(明示されてはいない)。

工場で働く労働者(技能職)の考課は4段階でA~C評価は全体の90%(A期待を大きく上回る10%、B一部上回る30%、C期待通り60%)D評価(資格の期待を下回りチームワークやルールを遵守に問題あり。FBしても改善が見られない)としてゼロ昇給。

新賃金制度が何を目論んでいるのかは明確である。会社に盲目的に従い会社の期待通りかそれ以上の成果を生み出す者には、青天井の昇給を行う。チームワークやルールを遵守しない者(QC活動や労務管理、会社や組合の方針に異議を唱える労働者)は根こそぎ刈り取り、「トヨタマン」として疑うことなく会社に忠実に従う労働者を作り出そうとすることにある。

驚くべきことに新賃金制度(成果賃金制度)を正式に申し入れたのは会社側からではなく、組合側からの申し入れという事である。組合は新賃金制度を提案し、春闘恒例の会社側回答日直前の大集会(19年は5100名参加)を取りやめ、組合員の団結を鼓舞し資本に要求を突きつけるガンバローを唱和(たとえ形だけとはいえ)することさえ中止して(コロナ対策が表向き)、資本の軍門に下った。

新賃金制度導入の背景

2018年、豊田章男社長は自動車業界が「100年に一度の大変革期」にあり、「生きるか死ぬかの瀬戸際にある」と危機感を強調し、トヨタは自動車会社からモビリティカンパニーにチェンジすると宣言し、19年には東富士工場を閉鎖した跡地に水素エネルギーや自動運転、コネクティツド技術を実証する2000人が住み生活する「コネクティツド・シティ」を2021年末から建設すると発表し、CASE(コネクティツド、自動運転、シェアリング、電動化)関連の新会社を相次いで立ち上げ、新たな競合相手=GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)との戦いに乗り出している。

コロナ禍の中でも21年度の第1四半期に1588億円の黒字を生み出した。世界中の自動車会社が赤字を強いられる中で、売り上げを前年比マイナス41%まで落とす中でも1588億円もの利益を上げる事が出来た理由の一つが、労使一体化や運命共同体のトヨタイムズの徹底的な浸透(洗脳)を組合や社員に行ってきたことにある。

新賃金制度導入の背景は、「百年に一度の変革期」の危機とそれに対するトヨタイズムのトヨタ資本の回答である。

〝家族としての助け合い〟や〝産業報国会〟を持ち出す資本に、恭順の体で従うトヨタ労組

今回の新賃金制度を導入するに先駆けて19年には豊田社長は「雇用を続ける企業などへのインセンティブがもう少し出てこないと、なかなか終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と記者会見で発表。トヨタの春闘(トヨタ春交渉と彼らは呼ぶ)でも18年以降賃上げ額が非公表になり、19年はベア要求額も非公表、冬のボーナス回答が秋季交渉まで保留された、19年3月13日の労使交渉では「皆さんが『仕事のやり方を変える』事が出来なければ、トヨタは終焉を迎えることになると思う。『生きるか死ぬかの闘い』というものは、そういうことである」(豊田社長)

「トヨタ資本が100年に一度の変革期で生きるか死ぬかの瀬戸際にあると危機感を強調し、モビリティカンパニーにチェンジする必要がある。家族として助け合い結束しなければならない。」という会社側の要求に対して、「組合も自分たちの認識が甘かった。よそを向いている組合員も同じ方向を向くようにする。と約束した。」(トヨタ春交渉2019より)その結果19年6月にQC運動(「カイゼン」「創意くふう」)に参加した社員の参加率が60%だったのが9月には90%まで上昇したと報じられた。

今年の春闘では19年に会社が「『頑張った人がより報われる』『お天道様が見ている』会社を目指す」という要求にこたえて、新賃金制度で基本給を職能個人給に一本化することを組合側から要求し、資本の期待に応えた割合で賃金を決定するという分断と差別、恭順の姿勢を明らかにした。会社との運命共同体、労使一体を中心軸に据えるトヨタ労組にとっては、それに反発する社員や会社の利益に貢献しない社員は、組合にとっても排除すべき社員とみなしている。

トヨタでは最近、トヨタ自動車創業者の豊田佐吉が提唱した「豊田綱領」(1935年)や1962年に締結した「労使宣言3つの誓い」を取り上げ豊田社長による社員に向けた発信が繰り返されている。

「労使宣言3つの誓い」では第3項の「生産の向上を通じて企業の繁栄と、労働条件の維持改善を図る、の中にある『共通の基盤』に立つ意味は『会社は従業員の幸せを願い、従業員は会社の発展を願う。そのためにも、従業員の雇用を何よりも大切に考え、労使で守り抜いていく』と労資交渉の中でも繰り返した。

雇用を大切に考えることに異論はない、しかし労資で守り抜いていくことではない。労働者は自らの雇用を会社と一体化することによってではなく、労働者の団結した力で守り抜く、ストライキや実力行使によって資本に要求し貫徹するのだ。

「豊田綱領」からは最初に挙げられている「上下一致、至誠業務に服し、産業報国の実を挙(あ)ぐべし」を社長の豊田は「『産業報国』の精神はあるか、……『お国のため、社会のため』となれているか、この価値観を全員が共有できているか」「『至福』とはきわめて誠実であること、……誠実に業務に向き合い、最後の最後まで、業務を遂行しようと努めているか。やる気のある人や、努力を続けている人に、ぶら下がっている人はいないか」「この2つの認識について、会社も組合も、上司も部下も、トヨタで働くすべての人が一致していなければならない」。

社長の豊田はリーマンショックとリコールを乗り越えトヨタを強靭な競争力を持つ資本に作り替えたことで、絶対的権力者として、戦前の「大産業報国会」を思い起こすような発言を繰り返している。豊田綱領の最後には「神仏を尊崇し、報恩感謝の生活をなすべし」。トヨタ労組の西野委員長は答える「……労働組合としても、この豊田綱領をベースに原点に立ち返って取り組んでまいりたい」。

(愛知 古川)

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