労働の解放をめざす労働者党ブログ

2017年4月結成された『労働の解放をめざす労働者党』のブログです。

トランプ

バイデン民主党新政権が始動

バイデン民主党新政権が始動──「国民の結束」謳う

共和党トランプに替わって民主党バイデンが大統領に就任した。就任式典は、会場である連邦議会議事前広場には、新大統領を祝う支持者もなく、その代わりに大量の国旗が建てられ、軍隊の兵士の厳重な警備の下という異例な式典となった。軍隊に守られての新大統領の就任は、米国の深刻な「分断」を象徴している。

トランプからバイデンに交代

トランプ政治の下で国内の「分断」は一層進んだ。トランプは、「アメリカを再び偉大な国家に」をスローガンに、移民を排撃、黒人やアラブ等の人種差別を煽った。「アメリカ・ファースト」を唱え、独断的な外交をおこなった。

新型コロナウイルスについても、非科学的な言説で対応を放棄、その結果、死者42万余、感染者2500万余(28日現在)の世界一の犠牲者を生み出した。

大統領選では、トランプはバイデンの得票が「不正」だとデマを飛ばし、反動的な白人至上主義団体を煽り、デモ隊は国会議事堂に乱入・占拠事件を引き起こした。そして、共和党の支持者の7割がこのトランプのデマ信じているという。

バイデンは主要な課題として、アメリカ社会の「分断」の克服を挙げた。バイデンは大統領就任演説で、トランプ派の議事堂乱入を、「民主主義を破壊しようとする、過激主義や白人至上主義、テロリズムの台頭」と批判し、「赤い州(共和党の州)と青い州(民主党の州)を対立させ、農村部と都市部とを対立させ、保守派とリベラルを対立させる、この不穏な国内対立、このとんでもない闘いを終わらせなくてはなりません」と「国内の統一」を訴えた。

バイデンは、大統領就任と同時に、メキシコ国境の壁建設の停止、中東、中央アジア、アフリカの一部イスラム諸国からの入国禁止の撤回、不法移民に対して停止されていた補助金支給の復活などの大統領令に署名した。これらはトランプが残した一連の人種差別政策の撤廃であって、トランプ大統領時代以前の状態に戻したということであって、それ以上ではない。

既に法的には人種差別を禁止し、全ての国民の平等を定めた「公民権法」がある。そして2008年には初めての黒人のオバマ大統領を誕生させている。オバマは「人種的和解」を訴えた。だが、オバマの訴えとは逆に、白人至上主義が活発となり、人種対立はより激しくなり、オバマの後に人種差別主義者=トランプを大統領として出現させたことが問われているのだ。

トランプの人種差別

黒人ら非白人に法的に「平等」が保証されているにもかかわらず、黒人をはじめとした人種差別が続き、人種対立が激化してきたのは、国の中心的存在と自認してきた白人労働者の生活の悪化である。

第二次大戦後から1970年代にかけてアメリカの「黄金期」と言われた時代には、自動車、鉄鋼、電機など主要産業の白人労働者は引く手あまたで、高校を卒業し働き始め、50歳近くで引退、それでも十分な貯金が出来たし、年金も得ることが出来た。これが中間層といわれる白人労働者の現実だった。しかし、アメリカの繁栄を支えた製造業は次々と外国との競争に敗れ、あるいは賃金の低い海外に工場を移し、高度の知識・技能を持たない一般労働者の生活は急速に悪化してきた。彼らの不満は、政治を牛耳ってきた既成政党、エリートや中東、中南米などからの移民に向けられた。彼らは、移民に対しては、低賃金で仕事を奪う競争相手、政府の福祉政策(国民の税金)に依存して生活する“寄生的”存在と反感を募らせてきた。

さらに、白人の全人口に占める割合の低下にも白人は危機意識を募らせ来た。白人の割合は1965年には84%だったが、2017年には60%に低下、2045年には50%を割ると推定されている。白人は国の中核的存在として特権的地位を占めてきたが、やがては少数派に転落してその地位を失うという恐れからも移民への反発を強めてきたのである。

トランプはこうした貧困化した白人労働者の鬱屈した感情につけ込み、勢力を伸ばし大統領となった。トランプは2期目の大統領となることに失敗はしたが、なお共和党内外に多くの影響力を残している。

バイデンの「国民の結束」のための政策

バイデンは「国民」の「結束」を呼びかけ、「中間階級を立て直し、雇用の安定」を約束している。

その主なものは、アメリカ製品を大量に購入する「バイ・アメリカン」政策である。品目別のアメリカ製品の使用比率を引き上げたり、外国製品の使用を認める適用除外を厳しくしたりする。4年間で4000億ドルの調達費用を政府が支出する。またAIなどのハイテク分野に投資し、300万の雇用増加を見込む。また生産を海外移転した場合には税額控除の返還を求める「クローバック」条項を設けることを提案している。

これらは国内産業を保護するという意味ではトランプの経済政策とほとんど変わらないものである。トランプは「アメリカ・ファースト」を唱え、自国の産業保護のために自由貿易やグロバリゼーションに反対、オバマが提唱したTPPへの参加を取りやめたが、バイデンは検討するとしつつも、参加するとはっきり語っていない。TPPによる輸入拡大に伴う雇用減少を恐れているためである。

しかし、自国製品の使用を強制する「バイ・アメリカン」政策は、労働者にとって救いとなるものではなかった。トランプは、最大の貿易相手国中国からの輸入を規制したが、これに対して中国も対抗措置としてアメリカからの輸入を規制した。日用品など中国からの低価格の製品の輸入が縮小された結果、アメリカの労働者は相対的に高い価格の製品を買わざるを得なくなったし、自動車、小麦、牛肉などの輸出産業では生産縮小を迫られた。製造業再生で労働者の生活を振興を図るとの約束は、トランプの産業保護策がラストベルトの労働者にとって期待外れに終わったように、バイデンの「中間階級の建て直し」政策も同じ結果となるだろう。

「国民の団結」ではなく、労働者の階級的闘いへ

さらにバイデンは、トランプとは反対に貧困層に対して国家が生活支援をおこなったり、雇用拡大のための大規模な公共事業(温暖化抑制のための太陽光、風力発電など)、医療保険制度充実、最低賃金の引上げ(1500ドルへ)を約束している。そのための歳出増加は10年間で10兆ドルとも試算されている。

新政権は、財源の一部としてトランプが35%から21%に引き下げた法人税を28%まで戻す、個人所得税は最高税率を38%からさらに引き上げ、富裕層への課税を強化するという。しかし、増税は10年間で4兆ドルと試算され、これだけでは財源は足らない。

すでに、コロナ対策などで財政出動は6兆ドル近い空前の規模に膨らんでいる。政府の債務残高は23年度で第2次世界大戦直後を超えて国内総生産(約20兆ドル)の107%に達する。新政権の政策が実施されれば、さらに債務は膨張する。バイデン政権は、新自由主義的なトランプ政権とは反対に「大きな政府」=ケインズ政策に戻ったが、ケインズ政策が経済危機を克服できないことは既に戦後の経験が示している。

新型コロナは低所得階層を直撃し、1800万人が失業保険に頼り、40万の中小企業が廃業した。一方では、新型コロナで経済活動が低下したにもかかわらず、上位10%の富裕層純資産は半年で8兆ドル増え、総額80兆ドルと国内総生産の4倍にもなった。コロナ禍でだぶついたカネが株式に投資され、株価を引き上げたからだ。下位50%は24兆ドルにしかならない。貧富の格差は強まるばかりである。

アメリカの金融業、ハイテク産業は世界のトップであるが、戦後圧倒的優位を誇った製造業は中国をはじめアジア諸国の激しい追い上げによって後退し、一般労働者の生活はラストベルトの労働者に象徴されるように苦境に追い込まれている。大企業、金融業経営者、資産家などの富裕層と働く大衆との貧富の格差はますます広がるばかりである。こうした資本主義の矛盾こそがトランプのような反動を生み出しているのである。

 バイデンは「国民の結束」を訴える。しかし、労働者の課題は、労働者が団結し、私的利益追求を目指す資本による支配を克服していくことである。そして労働者の階級的な闘いの発展のなかに人種差別一掃の展望がある。
(T)

課題はすべて先送り――トランプと金正恩の首脳会談――

トランプと金正恩の〝世紀の〟歴史的会談は、大した具体的な成果もなく、たった1日で終了した。2人は声を合わせて、そのすばらしい意義について語るが、もちろん、世界の労働者・働く者にとっては、2人の専制的な支配者が、それぞれの利益と野望のために顔を合わせ、取り引きをし、満足したという以上の意味を持ちえない。こうした会談から、世界の、アメリカの、南北朝鮮の労働者・働く者が何らかの有益なものを勝ち取ることができるとしても、それはまた別の話であって、自らの努力と闘いという契機を欠いて、それ自体によって可能になるものではない。

 

金正恩の〝懺悔〟は本物か

 

会談の二つの課題、トランプ側が持ち出した、北朝鮮の核兵器の「完全で、検証可能で、不可逆的な核廃棄」と、金正恩が持ち出した「体制保証」という課題についていえば、いずれも言葉としては合意されたかだが、具体的で、疑いもなく実行され得るという実際的で、確かな保証は事実上何もないし、確認されてもいない。

朝鮮戦争の終結という課題──容易に合意され得て、実現すれば、両者にとってはもちろん、南北朝鮮国民と、世界にとってさえ積極的な意義を持ちえる課題──さえ実現できなかったとするなら、一体何のための鳴り物入りの会談だったのか。


 北の核廃絶については、トランプは金正恩が誠心誠意約束したし、その約束は信用できるといい、金正恩も、それを裏打ちするが、しかしそれを現実に可能にするのはかなりの長い時間がかかるし、それはやむを得ないと、トランプは、会談後はいうが、もちろんそれは会談前に言っていたことと180度ほども違っている。


 北が5年のち、10年のちやはり核兵器保有国であり、しかもインドやパキスタン、あるいはイスラエルのように、世界中の国家から、核保有国として公然と、あるいは暗黙に承認される国家となっている可能性もまた否定できない。


 そしてそんな場合、北朝鮮が〝欧米型の〟民主主義国家ではなく、依然として金正恩のもと、現実と大差のない、金王朝の専制国家として存在しているということさえあり得るだろう。


 金正恩は会談の冒頭で、硬い表情でトランプに向かい、「我々には足を引っ張る過去があり、誤った偏見と慣行が時に目と耳をふさいできたが、あらゆることを乗り越えて、この場にたどり着いた」と、取りようによっては重大な意味を持つ、懺悔ともとれる発言をしたが、こうした発言が具体的に何を意味しているのか、祖父の金日成以来、70年ほどの金王朝の体制とその歴史自体のことなのか、その国民を奴隷化してきた専制体制と、朝鮮戦争を含む、多くの歴史への大罪についてのことなのか──あるいは30年にもなんなんとしたスターリン体制を告発し、否定した1953年のフルシチョフの演説にも匹敵するような意味を持つ反省の弁なのか──は、まだ何ともいえない。


 今のところは、金正恩の懺悔は抽象的なものであって、フルシチョフ演説ほどの全般的で、具体的で、否定的なものではなく、また金王朝の中心にあり、またその体制を代表してきた金正恩が、自らフルシチョフほどの徹底した批判をなし得るとも思われない。


 金正恩は今後の北朝鮮国家の課題は、核兵器による強国ではなく、経済の発展を、したがってまた国民の経済生活の向上や豊かさであるかに語るが、しかし金正恩が一方で、これまで演じてきた毛沢東の役割──これには、専制国家の維持と強大化も含まれた──と決別して、今度は鄧小平の役割を、1人で巧みにやり得るという保証は何もない。

 

トランプに北朝鮮の核廃棄を謳う資格はない

 

 トランプは一方で北朝鮮の核廃棄を強調し、他方で、イランとの核合意は、イランの核保有を制約するのではなく、むしろそれを助長するものだと断じ、単独でもイランとの核合意を破棄し、力の政策、制裁強化の政策に戻ると主張している。イランは反発し、制裁などあれば、公然と核開発を行うと反発を強め、中東における核兵器による新しい軍拡競争の恐怖が高まっている。イスラエルはこれを歓迎し、イラクの核施設の破壊を口にするが、アメリカはなぜ中東の核兵器競争の大本である、イスラエルの核兵器に対して沈黙を守るのか、それを擁護するのか、できるのか。


 自ら歯まで核兵器で武装しながら、そしてロシアや中国などと核兵器の増大強化の競争にさえふけりながら、自分の覇権に異議を唱え、抵抗する小国にだけ、核廃棄を強要する国家は醜悪な国家、横暴で、野蛮な帝国主義の国家ではないのか。


 そしてそんな大国の核政策に追随するだけの、安倍政権の日本もまた同様に、卑しいキツネ――トラの威を借りて、空威張りするキツネ――同然の国家ではないのか。


 周知のように、トランプは今年の初め、ロシアや中国の、核兵器〝近代化〟の策動を口実に、アメリカも負けてはいられないと、新しい、より効率的で、機能的な核兵器の採用を謳い、核兵器による軍事力強化の競争に乗り出すと宣言した。


 アメリカは一貫して、核廃棄の国連の決議に反対を表明し、抵抗してきたが、そんな国家が、北朝鮮に核廃棄を、強大な力を背景に押し付け、そんな資格や権利まであると考えるのである。

 

金正恩の「体制保証」

 

首脳会談では、金正恩はトランプに自らの「体制の保証」を求め、トランプはそれを保証したということになったが、金正恩の願望はナンセンスだし、トランプは一体何を金正恩に「保証」したのか、できたのか。まさか米韓の軍事演習の中止が、金正恩の「体制保証」ではあるまい。

 
 金正恩の「体制保証」とは、一体何であろうか。核兵器こそが「体制保証」を確実にするというのが、これまでの金正恩の戦略であり、考えではなかったのか。もしアメリカとの「対話」で「体制保証」が可能だというなら、最初からそうすればよかったのであって、それが不都合であるとか、可能性がないというのであれば、核武装に走る前に、それを可能とする方法や戦略について反省し、熟考すべきではなかったのか。トランプのような悪党、アメリカ第一主義で、国家利益しか考えないトランプにすがって、核兵器がなくても「体制保証」が可能と考えることは果たして正しく、まともなことなのか。


 北朝鮮を〝民主化〟するというなら、もっと早くやればよかったし、経済自由化が「体制保証」を可能にすると考えるなら、さっさとやればよかっただけである。

 
 核兵器で「体制保証」できないから、核兵器無しで「体制保証」を求めるということは、トランプの強大な軍事力に全面的に従属し、屈従することであり、アメリカに頭を下げ、その従属国家になることによって、自らの「体制保証」を手にしようということでしかない。つまり奴隷の「体制保証」であり、安倍の立場と似たようなものである。

 
 それに、いくらトランプが金正恩の専制体制の「保証」をしても何の意味もない、というのは、北朝鮮の労働者・働く者が決起し、金王朝を一掃してしまうなら、あるいはそこまで行かなくても、労働者・働く者の強烈な不満や怒りの圧力を受けて、金王朝が内的に分裂したり、自ら崩壊して行くなら、誰がその「体制保証」をしようとしても無意味であるのは、例えば1990年代、ソ連共産党と、その帝国主義体制も崩壊して行ったとき、東欧や中央アジアの多くの国家の〝スターリン主義体制〟が持ちこたえられなかった事実からも明らかであろう。

 

金王朝の行方

 

そもそも金正恩が核廃棄と結びつけてかどうかは知らないが、今さらのように“経済改革”や、ひょっとして何らかの〝政治改革〟をやろうとすること自体、僭越であり、途方もないことでないのか、一体金正恩にそんなことを実行に移す、どんな資格があるというのか、能力や可能性があるというのか。


 彼は専制体制の中心にして、絶対的権力を握ってきた万能の〝君主〟であり、反体制の労働者・働く者はもちろん、反体制のもしくは反体制に見えただけの、多くの人々さえ逮捕し、拘束し、牢屋にぶち込み、抑圧してきた人物、自分の叔父であれ、兄弟であれ、殺害さえ辞さなかった人物──もちろん肉親殺しは、野蛮な君主制の本性であって、全世界の王政や君主制の歴史は、日本の天皇制も含めて、そんな多くの実例で満ち満ちている──であって、そんな人間が今、どんな政治改革や〝民主制〟について語れるというのか(金正恩が今、そんな〝改革〟を口にしているということではないが、もし今後も語らない、語れないというなら、彼の新しい立場はますます矛盾したものとなり、金王朝を内部から分解、解体する要因の一つに転化していくだろう)

 
 そして南北朝鮮の融和や接近や経済的関係や結びつきの深化発展は、分裂した国民の再統一と統一国家建設に至るまで留まることはないだろうが、しかし北朝鮮が王政──にわか作りの、たまたま形成された、お粗末な王政であれ、三代も続くなら、すでに概念として天皇制と同様、立派に王政である──のままでは、朝鮮民族の単一の国民的形成は不可能であろう、というのは、かつての東西ドイツの国民的再統合を見ても明らかなように、それがただ民主化されたドイツとしてのみ可能だったのは、決して偶然ではないからである。

 
 とするなら、金王朝の一掃は、統一国家形成を希求する朝鮮の労働者、勤労者の不可避的な要求となるのであり、朝鮮が再び国民的統合を成し遂げるための不可欠の契機、前提である。朝鮮の国民的統合は、金正恩の手によって成し遂げられるのではなく、ただ彼がいなくなることによってこそ可能になる。

 
 この面からしても、金王朝の「体制保証」は、第二次世界大戦敗北後の、英米諸国に対する、日本の天皇制の「体制保証」の要求にも負けず劣らず、破廉恥であり、ナンセンスであり、反動的であろう。あの時、日本が「体制(国体=天皇制)の保証」を求めて、終戦を1週間も2週間も引き延ばしたため、日本の若者や国民が何十万もあたら無為に、余計に死ななくてはならなかったのだが、金王朝の延命のためにも、朝鮮の労働者・働く者の多くの命が無駄に失われるかも知れないのである。

 
 南北に分断され、分裂した朝鮮の国民的再統合は、東アジアにおける、一つの進歩的な要因であり、歴史的過程である、というのは、それは朝鮮の労働者、勤労者が一つのより強大で、団結した勢力として登場するということだからであり、少なくとも日中韓の労働者・働く者の接近と連帯と共同の闘いを促進し、発展・深化させ、強化する一つの契機となるからである。

 

みっともない安倍の周章狼狽

 

 北朝鮮に対する「危険」や「恐怖」をあおり立て、それを政権の浮揚と維持のために利用しようと大騒ぎし、「最大限の圧力」や武力攻撃も辞さずと叫んできた安倍政権は、トランプのまさかの「対話方針」、融和方針への転換に驚愕し、茫然自失したが、しかしやむを得ず、トランプに追随し、雷同することによって体面を保ち、らち問題で得点を上げることで、何とか国民の支持を取りもどすべく、乾坤一擲の?策動に走るしかなくなっている。


 しかしトランプは安倍のためにことさら金正恩に金正恩に圧力をかけたり、何か特別の働きかけをする必要は感じず、らち問題は当事者同士で、金正恩と安倍の話し合いで解決すべきといったそっけない態度をとり続けた。


 アベノミクスの化けの皮もすでに大方はがれ、権力の腐敗と政治的頽廃は行くところまで行きつき、すでに国家主義──日本ファースト──と外交・防衛政策でのみ自己の存在意義を誇示し、延命を策するしかなくなっている安倍は、今やその最後のよりどころさえ失いかねない危機的段階を迎えようとしている。らち問題の「解決」で浮揚しなければ、できないなら、11月の自民党総裁選で勝つ目もなくし、権力を失うのである。勝負時を迎える安倍に、幸運が微笑むかどうかはまだ見えていない。


核廃棄や戦争状態の終了などどうでもいいこと――日韓の、そして世界の労働者が米朝首脳に期待するものは何もない

 二日後に〝歴史的な〟米朝会談(トランプ・金正恩のトップ会談)がシンガポールで開催されようとしている。トランプも金正恩もともに、その〝成功〟を心から願っているのだから、まさか大逆転の喧嘩別れは無いだろうし、2人はそれぞれの〝成果〟を誇り、大安売りするだろう。


 しかし一体どんな〝成果〟か。

 トランプや安倍は北朝鮮の核廃棄を要求し、大声で叫んできた。断固たる制裁を謳い、全世界を巻き込んで実行に移してきた。安倍もトランプも、品性のかけらもなく「不可逆的な」核廃棄だとか、「最大限の制裁」だとか、大げさな言葉をわめき散らしてきた。


 文在寅は盛んに「金正恩の核廃棄の意思は本物だ」と請け合うが、しかし金正恩が一筋縄でいかない人間であるのは周知の通りで、トランプに対しても、核廃棄の確かで、強固な意思を伝えているかは確認されていない。

他方、トランプも金正恩の核廃棄の意思がはっきりしないのなら、あるいはそれが短期間の間に行われるということでなければ「席を立って」帰るとほのめかしていたが、ここまで来たら、2人とも簡単に「席を立って」帰るといったことはできそうにもないし、やるつもりもなさそうだ。

トランプがどこまで妥協するつもりかはっきりしないが、1、2年で核廃棄を実行させると言っていたことをひっこめ、「段階的な」やり方を認めるかの発言をし、「時間をかけても構わない」とも明言し始めている。トランプの首脳会談に託す目的は、北朝鮮半島における、今なお継続している戦争状態――南北朝鮮の、中国やアメリカまで巻き込んできた――を止めさせるといった歴史的な〝偉業〟を成し遂げ、「歴史に残る大統領」、平和の使徒としての名を残すこと、11月の中間選挙で勝ち、大統領の再選につなげること、つまり個人的なことであって、北朝鮮や朝鮮全体の労働者、勤労者のことでも、まして日本のらち問題でもなく、〝友人〟である安倍の立場に配慮することでさえない(何しろ、アメリカ第一主義に凝り固まったトランプのことだから)


 他方、金正恩がさらに駆け引きをして、結局は核保有国の仲間入れを果たそうと野望を膨らませているのか、本気で核廃棄をするつもりか、あるいは朝鮮の国民的統一に情熱を燃やしているのかも不明である
(しかし祖父の金日成に倣って、再度〝朝鮮戦争〟を挑発し、武力侵攻などの暴力的な手段によって国民的な統一を成し遂げようというのでなければ、金正恩には自らの専制主義に終止符を打つこと以外、どんな手段も無いことを自覚しているようにも見えない)が、しかしいずれにせよ、2人の会議を成功させようという強い意思だけは確かなようである。


 トランプの意思は政権の維持であり、2期目の大統領の地位であり、金正恩は「体制の保証」であり、それが実質的なものとして与えられることである。


 しかし「金体制の保証」はいかにトランプといえども、口から出任せの空文句以外に与えることはできないであろう、というのは、北朝鮮の労働者・働く者はトランプがどんな「保証」を約束しようとも、金の〝前近代的な〟専制体制が続くなら、金体制の動揺に乗じて、今や自分たちの明確な意思と闘いによって金王朝を一掃するだろうし、たちまちしてしまうだろうからである。


 とはいえ、トランプと金正恩の首脳会談が矛盾も闘争もなく、スムーズに進むとも思われない。トランプは北朝鮮の核廃棄を考えるが、同じ核廃棄でも、金正恩は南の核廃棄も同時に求めるだろうが、トランプはそれに簡単に応じられるだろうか。トランプはそんなことは容易だと考えるかも知れないが、トランプの意思や大統領再選というトランプの優先意思とさせて、朝鮮問題から、これを最後に手を引く、当面、自分の権力維持だけが問題だといって交渉に臨んでも、もしアメリカ大資本が、国家や議会がトランプの意思と違うなら、ことはそんなに簡単に進まないだろう。アメリカが国家として、日本や韓国から軍隊を引き上げ、軍事基地も撤収するかどうか、そんなことが簡単に可能かどうかを考えてみれば、それがトランプの考えるほど安易な問題でないことが明らかになる。問題は中国やロシアとの関係という、より大きな問題が、世界的な大国相互の覇権争いが、世界的な帝国主義体制の問題が絡んでくるのであって、単なる北朝鮮だけの、切り離された、孤立した問題ではなくなってくるのである。


 北の核の問題は安倍政権にとって、トランプにとってよりはるかに重要であり、トランプのように容易に妥協し得ないのである、というのは北朝鮮の核は、北朝鮮の方が軍事的に日本よりも強大な国家として現れることであり、到底容認できないからである。北の核はアメリカや中国やロシアにとっても、どうでもいいようなものである、しかし安倍にとってはそうではなく、どうしても許容できないもの、がまんできないものである。


 北の核は安倍政権にとってはまさに目の上のたんこぶ、煮ても焼いても食えない、鬱陶しく、腹立たしいものである。核を有しない北朝鮮なら、安倍がいくらでも鼻先で対応できる、極東の無力な、そして貧しい小国の一つにすぎない。もし核兵器がなければ、通常兵器における、日本の優位は圧倒的であって、北は日本と対等に、あるいはそれ以上にまともに張り合い、軍事強国を誇り、居丈だけに日本を恫喝することもできない。


 他方、核兵器さえあれば、金正恩は日本に対して、憎たらしい、傲慢な安倍に対して、いくらでも優越的に振る舞うことができるのである。


 だからこそ安倍はトランプ以上に北の核について非妥協的であり、その廃棄の立場に固執し、最後まで〝最大限の〟制裁をやれと向きになって叫んできたのである
(他方、トランプは最近「最大限の制裁」などと今はいいたくないと、安倍と手を切るような発言まで口にしていて、安倍を困惑させた)

 

安倍はこれまで、「最大限の制裁」の強硬路線をわめき、そんなものを自らの外交防衛政策の一つの根底として、〝売り〟として珍重し、「国難」だなどとわめき、日本の固有の利益とか立場とか、〝国益〟等々の言葉に簡単に乗せられ、誘惑されるプチブルや遅れた労働者、勤労者や、反動派や国家主義者らの支持を集め、それをひとつのテコとして権力を掌握し、維持してきたが、いまや突然に風向きが変わって、急にそんな安倍政権の伝家の宝刀が役に立たなくなってしまった。


 かくして孤立した安倍にとって問題なのは、転向したトランプの北朝鮮〝宥和策動〟に乗っかって、せめてらち問題解決のとっかかりを見出すことである。名前のすでに分かっている拉致被害者だけでも日本に〝取りもどす〟ことであり、その手柄によってトランプと同様に、秋の自民党総裁選で3選を果たし――せっかく、3選は許されないという党の決まりを、自らの手でひっくり返したのだから――、安倍政権の延命を可能にすることである。


 彼にとっては今や北朝鮮の核廃棄すらどうでもよくなるのであり、北朝鮮がトランプの〝お友達〟だということになれば、安倍にとってそうなっても少しもおかしくないのである。そんな安倍にとっては、北朝鮮の労働者・働く者の、〝前近代的な〟専制王政からの解放――ブルジョア的、〝民主主義的な〟解放や、分断された南北朝鮮の国民的な再統一――さえどうでもよく、ほとんど関心の外である。


 他方労働者の国際主義に立脚する日本の労働者・働く者は、金王政の専制主義のもとで苦悩する北朝鮮の、そして朝鮮半島全体の労働者・働く者の同胞として連帯と共同の立場を表明し、何よりも北朝鮮の労働者・働く者の解放を願い、連帯するのであり、共に地球上のどんな搾取や抑圧の体制も永久に一掃するため共に闘おうと呼びかけるのである。


 他方、安倍は徹底した〝自国ファースト〟の国家エゴイストであり、国家主義に凝り固まる利己主義者に留まるのである。その点では安倍は終始一貫しているのであり、いるからこそ、日本の労働者・働く者にとって百害をもたらす、最悪最低の首相なのである。(林)


『海つばめ』の「 米朝の〝歴史的〟融和」の記事を参照ください。

http://wpll-j.org/japan/petrel/petrel.html#1 米朝の〝歴史的〟融和

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