『海つばめ』読者からの投稿がありました。「ロシアのウクライナ侵攻と労働者の立場」について論じていますので、紹介します。

 

 ロシアのウクライナ侵攻と労働者の立場 

 

「プーチン氏の本音反映か ウクライナめぐり一方的歴史観―国営通信社が誤配信の論説」【モスクワ時事】ロシアの国営通信社がロシア軍のウクライナ侵攻開始の2日後に誤って配信した、戦勝を前提に準備されたとみられる論説記事が、プーチン大統領の本音を反映していると内外で話題になっている。記事は直ちに削除されたが、プーチン氏が安全保障上の理由からではなく、ウクライナはロシアの一部になるべきだという一方的な歴史観に基づいて侵攻に踏み切ったことを示唆する内容だった。

時事ドットコムニュース 202203050710

https://www.jiji.com/jc/article?k=2022030400844&g=int

 

『ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について』wikipediaより引用

「この論文はロシア連邦軍が学ぶ義務のある作品のリストに掲載されている」「プーチンは、ロシア人とウクライナ人は、ベラルーシ人と共に、歴史的に三位一体のロシア民族として知られている民族の一つであると主張」

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プーチンの帝国主義的野望はこの記事を待つまでもなく明らかだろう。「歴史的根拠」なんて、日本の天皇制やら「大東亜戦争史観」と同様、権力者が自分の支配の根拠を歴史的に拡張するもの、ためにするものでしかない。

 

wikipediaによると「ゼレンスキーは、この論文を批判し、プーチンの国家間の兄弟愛に関する見解をカインとアベルの物語と比較した。元大統領のペトロ・ポロシェンコもこの論文を強く批判し、アドルフ・ヒトラーのズデーテン地方の演説に対応するものだ」とのことだが、こういう反発が出るのも当然のことだ。

 

こうしたプーチンの帝国主義的野望は当然ながら、ロシアの資本主義的発展の帰結でもある。ロシア封じ込めが、ヨーロッパを筆頭に世界のエネルギー需要に大きな影響となってはね返り、ウクライナ、ロシアという穀倉地帯の紛争は、今後の穀物需要に多大な影響を及ぼす。プーチンの野望は世界のエネルギーと食料に対する重要な位置を占め、揺さぶることだろう。

 

プーチンの帝国主義策動が、ロシア国家資本主義の発展に位置づけられるなら、それに対する反撃は何よりもロシア労働者階級の歴史的課題、任務となる。プーチンはロシア国内の反戦行動に対し、強圧的な弾圧を実行している。

 

すでにプーチンのよき「三位一体」論すら消え失せ、その侵略の意図はあからさまである。

 

アメリカやEUは経済制裁を呼号するが、その声高な割には、効果は遅く不徹底なものに見える。バイデンは経済封鎖を「長期的戦略」といい、現在、目の前での武力侵攻には手を出しかねている。

 

労働者階級の反政府運動はニュース画面では大きく報じられても、勢力としてはまだまだ足りない。ロシア国内での情報統制も執拗に行われ、海外メディアも一斉に国外に追い出されている。しかし、政権の強権的弾圧や支配統制は、これからも、ロシア国内に真実を伝え、広がり、大きな反発を呼ぶだろう。それはプーチンにとって危険な火種となって、ロシア労働者の階級的覚醒を生まずにはいられない。ロシア支配階級の中にも動揺が生まれ、エリツィン・ファミリーの反発を呼んでおり、新興財閥たるオリガルヒの中の一部には離反の動きもみられる。プーチンの強面な支配もまた、その権力基盤自体が盤石な一枚岩とは言えないが故のものなのだ。

 

ロシアの階級闘争を率いる労働者政党の存在の有無はわからないが、いずれにしてもその闘いの中から、必然的に生まれ出ることを信じたい。歴史的必要は必ずその任を担う中心的結晶を生み出すだろう。

 

プーチン・ロシアの帝国主義的策動は、アメリカを頂点とする西側「自由資本主義」勢力にも強い危機感を生んでいる。ロシアの武力侵攻を目の前にして、彼らは自ら掲げてきた「自由、民主主義」をいまのところ投げ捨てることはできないし、「世界大戦の愚行」は彼らの「西側資本主義」すら焼き尽くすのは明らかなのだ。

 

ロシア(中国・印度)以外の諸国家は、ロシアの不法に憤り、世界的規模での経済的制裁を呼号し、世界的世論もそれに同調している。また当事者のウクライナもまた米国に連なる諸国家に期待をかけている。

 

国連は感動的な各国の演説と非難決議を行っているが、プーチンは一向にウクライナ侵攻を止めないし、挑発するかのように原子力関連施設への攻撃と占拠まで行って見せる。また、ウクライナからの避難路の交渉にも誠意を見せない。邪魔者を出ていかせたいのか、否か、まさか殲滅するつもりなのか。

 

見かねたゼレンスキーは国外から義勇軍を募り、徹底抗戦に突き進みたいようだ。自国民男性の国内残留を求めてもいる。こうした動きは国際的にも、ロシアの不法に怒る声の中では、同情的に受け止められている。

 

確かに2万人ともいわれる応募者数とのことだが、現代に国際旅団式の戦闘が有効とも思われず、ウクライナ本土で、地理にも不案内な急ごしらえの部隊がはたしてどれだけ有利に戦えるのか心もとない。ロシアは他国が手を出さないのをいいことに、全戦力をウクライナに侵攻させているのだから。

 

プーチンのロシア国家資本主義打倒の課題は、今、ロシア労働者階級の前に立ち現れているように、西側各国の労働者階級もまた、その課題に正面から向き合うときが来ている。西側の労働者階級もまた、ウクライナ問題は単なる「人道」の問題ではないことを見据えなければならない。

 

第三次世界大戦を避けるという名目のもと「経済封鎖」などが呼号されていても、その実態はエネルギーそして食料問題への波及を恐れる西側資本主義は、徹底したロシア封じ込めはできずにいる。武力に訴えることは自らの「人道」をかなぐり捨てることでもあり、後で自国民の反発を呼ぶことにもなりかねない。

 

西側資本主義もまた安泰なわけではない。ロシアに対し徹底した態度を取れないことからも分かるように、GAFAのような情報関連産業にシフトした産業構造の基盤は脆弱なものとなっている。また、長年の新自由主義的政策により国内に抱える格差拡大の修復も、かつての福祉国家のような幻想すら生みだせていない。

 

目前のコロナ感染対応により留保されていた、格差と貧困の問題が世界的に問題となってくるだろう。トランプのような陰謀論、ポピュリズムの扇動でしか国民的統合を見いだせない資本主義の退廃こそが、プーチンのような「エネルギーと食料」という頑固なリアリズムに足をすくわれるのだ。

 

立ちすくむ西側諸国の支配階級を前に、労働者階級は悲嘆にくれる必要はない。階級的視点に立てばその視界は明瞭である。帝国主義者たちの闘いに労働者が引き回される必要はない。自国の帝国主義者、資本家階級を打倒し乗り越え、労働者の政権、権力樹立に向けて進むべきなのである。それこそが労働者階級としての「人道」を勝ち取る道である。

 

こういった課題は一朝一夕に成し遂げられるものではないだろう。しかし、遠い道のりに見えるとしても、ブルジョアジーの良心や善意に期待することこそ、問題の解決をいっそう遅らせるものであることを自覚しよう。21世紀に入り、資本の抱える矛盾は噴出し課題はいっそう明らかになり、期は熟してきているのである。

 

(そもそも考えてもみよ、いったい今の資本主義社会にどんな「人道」があるというのだ。昨年2月に軍事クーデターが起きたミャンマーを見よ。国内、国外からのミャンマー人民からの「人道的」救援の叫びもむなしく、国軍によるむき出しの武力支配が続き、日々自国民を弾圧し、強奪し、殺し続けているではないか。空爆を行い、民家を焼き払い続けるこの軍事政権に対し、どんな断固たる国際的制裁が行われ、どんな救済の手が差し伸べられているというのか。いったいこの1年もの間、「人道」はどこに行っていたというのか。他にも長引く紛争はパレスチナ、シリア、枚挙に遑がない。日本国内を見ても、外国人技能実習生の問題をはじめ、おびただしい人権侵害が数えられるだろう。) (N)