医療・介護の現場で、2020春闘を妥結せず闘いを継続している仲間の闘いを紹介します。

 

嘱託職員へ一時金を支給せよ! 

      妥結せず闘い継続中、医療・介護の労組 

   

 市内全域に医療・介護事業所を30か所あまり展開する経営側に対し、労組の2020春闘は盆を過ぎた現在でも妥結していない。最大の争点は全職員479名の35%を占める嘱託職員166名への一時金不支給問題である。

 

 職場は2016年までは9割以上の職員(看護師、検査技師、理学療法士、介護福祉士など専門職や事務、厨房、運転、清掃など)が一年契約であった。数年越しの労使交渉で全員の無期雇用化(短時間パートも含め)が実現し、以後の入職者も短時間パートを含め無期雇用となり雇用不安からの解放が勝ち取られた。ただし、60歳定年制のため高年齢者雇用安定法により60歳を超えた者は希望すれば雇用継続となるが、労働条件は個別契約書で決定され「一年契約」「一時金なし」と明記され、「嘱託職員」と称される。

 

 労働時間は嘱託前同様の週40時間の者、週32時間から30時間の者、両者で80名がほとんどの場合、同じ職場で同じ労働内容である。たとえば介護現場のデイケア事業所(医師が常駐し機能回復訓練が主目的)やデイサービス事業所(医師はおらず日常生活指導が主目的)では介護士等はミーティング・車での送迎・身体介護・入浴介助・食事介助・排泄介助・介護日誌作成・月末介護報告書作成・清掃など請求事務の職員も含め嘱託になる前と同じ業務を行っている。

 

グループホーム(認知症のお年寄りの24時間お預かり)では徘徊の方への対応、おむつ交換、食事介護があり、一人夜勤(16時間勤務)では朝食づくりも行う。訪問看護ステーションでは医師の指示で24時間対象者宅を訪問して点滴を含む医療処置を行う。医療現場では看護師は同じ診療所で同じ看護業務、病棟勤務なら夜勤(ここも16時間勤務)のローテーションは職員と嘱託職員の区別はない。残り半数80名の嘱託職員は週3日から週一日の勤務だが働く場所も働く内容も嘱託以前と同様である。つまりは「同一労働」だが60歳を過ぎれば「嘱託職員」と称され以下の「待遇差」を押しつけられている。

 

嘱託職員は一年契約で更新を繰り返し原則昇給なし、特別休暇(家族の死亡時の忌引きや公民権行使等)なし、そして今回問題の「一時金」なしである。以前からそうだったのではない。経営側は2008年に就業規則を全面改訂し「嘱託者には賞与なし」を明文化した。労組は当時から不利益変更を指摘、以来12年間にわたり一貫して労働時間に比例した一時金を要求してきた。導入当時、一時金がなくなることを知らされず労組員も含め嘱託者の多くは動揺した。経営側は周知を怠り、いきなり不支給を断行したからであった。

 

一時金交渉では「嘱託者の働きがなければ業務が回らない、戦力として大いに役立っている」と経営側は繰り返し語ってきたが、経営難を理由に不支給をゴリ押ししてきた。「嘱託者と職員の労働には差がある、だから、一時金は支給しない」とその格差の理由を説明したことは一度もなかった。年齢を重ねた職員(嘱託者)は介護現場では「よく言えば丁寧、悪く言えば動きが遅い」と「働きぶり」を経営側が語ることはあった。

 

労組側は、個々の働きぶりを言うなら60歳以下の職員にも差はある、現場では車の運転が苦手で送迎のローテーションに入らぬ者や介助の技量不足者など職員同士でも個々人の能力に配慮しつつチームとして業務をしてきている現実がある。60歳以下の職員への一時金の支給率は同じであるなら、嘱託者にことさら差をつける、しかも「一律一時金なし」の理由にならないと反論してきた。

 

2020春闘で労組は「就業規則を改訂し嘱託職員差別を止め、職員同様に一時金を支給せよ」と要求した。経営側は夏期一時金を職員には平均22万円提示する一方で、嘱託職員には「就業規則により一時金はないが、寸志として」労働時間に応じて1万円から数千円と、例年通りの差別待遇のままであった。

 

 第1回団体交渉では、就業規則や個別労働協約だけを理由に一時金不支給は「パートタイム・有期雇用労働法」に照らしても違法だ、差別待遇の合理的理由があるなら述べよと労組側は迫った。執行委員で当日団交の交渉委員でもある嘱託職員は、週40時間労働の訪問看護ステーション勤務の看護師であるが「嘱託前と同じ部署で同じ仕事をしているが一時金がなくなるのは困ります、生活に支障があります」と訴えたが、経営側は返答せず、格差の理由を説明することもなかった。

 

第二回団体交渉では、労組側から「嘱託職員に一時金を出さない理由のうち、就業規則や個別契約書のみでは法違反であることは第一回団体交渉で言っているが返答がなかった。本日は他の理由があるなら聞かせてほしい」と切り出したが、経営側は答えず各職場でアンケート調査を行っている最中だ、それを踏まえて8月下旬に労使協議会で説明するので待ってほしい、と回答を引き延ばしてきた。

 

一時金不支給は現実のことであるが、仕事内容に変化があった(経営側によれば嘱託になる前後で仕事内容に違いがある)のは本当だろうか?労組は嘱託の労組員から聞き取り(職員から嘱託者になった時、仕事について経営側(職場長、理事等)から具体的に説明がありましたか?)を行い、対象の全員が「話などなかった、前後で仕事は同じ」との回答であった。

 

この第二回団体交渉で経営側が「嘱託者については同一労働ではないので法違反ではない。その理由はいくつかある。」と発言しており、8月下旬の労使協議会で差別待遇を正当化してくることは十分予想がつく。

 

団交後、労組は経営側に以下の質問書を提出し、文書回答を求めている。

① 嘱託職員に夏期一時金を支給しないとする理由(就業規則・個別労働契約以外の理由)をお聞かせください。なお、パート・有期雇用労働法第14条では事業主の説明義務が明記されています。

② 166名全嘱託職員に対し、嘱託身分になる際に「仕事内容の変更説明」を行った事実があるならお示しください。なお、今回回答では166名の嘱託職員全員に対し従来どおり「一時金なし」の待遇ですので、この166名に対し理事、職場長等が「仕事内容の変更説明」(待遇が大幅下方修正ですので、労務内容の軽減等の説明をしたかどうか)、もしそうなら「同一労働ではない」との新見解も生きてくるとは思いますが、労務提供前に説明しないと後出しジャンケンは卑怯です。

 

安倍自民党政権は不安定かつ低所得に呻吟ずる非正規労働者の増大に対して、その不満をそらすために一連の働き方改革法案の中で、同一労働同一賃金を推進するとして2018年に「パートタイム・有期雇用労働法」を成立させた。罰則規定を伴う労働基準法(これも組織労働者の断固たる闘いがなければ役立たない)ではなく、裁判闘争など実例を積み重ねてきた労働者の闘いの成果が盛り込まれているとはいえ、闘いのひとつの道具として利用可能というものであり、労働者の闘いが無ければ、機能しない。

 

この法律に水戸黄門の印籠のような神通力はない。とはいえ厚労省は各都道府県に専門の窓口を設け、ガイドラインも作成している。今までは個別契約書に印を押して就職しているなら「差別待遇に同意」とみなされてきたが、202041日以降(中小企業は202141日)は①同一企業内で正社員と非正規社員との間で、基本給や賞与などあらゆる待遇について、不合理な待遇差を設けることが禁止、ガイドラインで例示、②非正規社員は「正社員との待遇差の内容や理由」について事業主に説明を求めることができ、その場合事業主は説明義務がある、③この法に関連して事業主と労働者との間の紛争を、裁判をせずに解決できる手続き(行政ADR)が整備された。ただ、③は労使で交渉中は利用できないし、個人として相談する建前である。

 

基準局の担当者は「個別契約書や就業規則があっても不合理な差別は違反であり、契約書や就業規則のその部分は無効です。そちらでは60歳定年後に一年契約のもとで同じ仕事をしているなら、規則や契約書だけの理由なら同じ待遇でないと違法です。製造業なら一日10個制作してきたが、嘱託者は一日6個でかまわないというように課せられた労働内容に明確な違いがあれば待遇差は合法だが」と説明した。

 

医療や介護の現場、特に介護現場では仕事が過酷なわりに賃金が低く、慢性的な人出不足状態である。我々の事業所の2019年の職員平均年齢54歳という事実は、若い新人が入らず離職者が多い現実に対し、60歳を超えたベテラン現場労働者を多数継続雇用してきた結果である。一時金不支給だけで一人当たり年間40万円以上を節約してやっと黒字決算にしている経営側にとって差別待遇撤廃は避けたいところだろう。

 

だからと言って3人に1人以上の嘱託職員に年齢を理由に差別待遇が許されるわけではない。上部団体の自治労に問い合わせたが、民間労組(自治労は10年ほど前に全国一般労組と統合された)の今春闘で「パートタイム・有期雇用労働法」をテコに嘱託職員への差別待遇、特に一時金差別を不当だとして闘っている例はないとのことであった。

 

ただ我々同様、不当なことには泣き寝入りせず組織を挙げて闘っているところは全国で必ずや存在するだろう。資本の支配する社会は利潤追求のため性別、国籍、人種、そして年齢を理由に差別し、利潤確保に血道をあげているがそうはいかないぞ!  (F・Y)