コロナ禍犠牲をしわ寄せされる医療労働者

──東京女子医大病院、ボーナスゼロで看護師400人が退職意向

 

コロナ禍のなか、看護師ら医療の最前線で奮闘する医療労働者への犠牲しわ寄せが広がっている。その典型的例が東京女子医大病院の看護師たちである。

 

同病院の看護師たちは、6月、コロナ禍で病院の利用者が減り、経営が悪化したことを理由に夏のボーナスを支給しないことが通告された。看護師の昨年の実績は、一人当たり平均約55万円だったという。

 

労組は病院側に対して再検討を要求しているが回答はなし、このため系列病院も含めて看護師全体の2割に相当する約400人が退職の意向を示しているという。看護師たちは、コロナ禍の中で、感染の危険にさらされながら、苛酷な労働を頑張ってきた。ところがその結果が、4月の賃金を減らすための「一時帰休」(週2日休暇)に続いての夏のボーナスゼロ回答ある。この酷い仕打ちに対して退職の意向を示した看護労働者に対して、病院側は「看護師が足らなければ補充する」とうそぶいている。これに対して、看護労働者は次のように怒りを訴えている。

 

「毎日毎日苦しい思いをしながら必死に働いて、コロナエリアにも駆り出されることになったにもかかわらず、ボーナスは1円も支給なしだと言われました。それに関する説明も紙切れ一枚で済まされ、ボーナス支給がないことが当然であるかのように言われ、納得できません」。

 

「今回のボーナスカットが決定打となり、辞めることを決めたという人か大半です。私の周囲でも就職サイトに登録したり、次の病院を探していたりする動きは実際にあります。ところが、6月25日に開かれた団体交渉の場で、病院側の弁護士は『深刻だとは思うが、足りなければ補充するしかない。現在はベッド稼働率が落ち込んでいるので、仮に400名が辞めても何とかなるのでは。最終的にベッド数に見合った看護師を補充すればいいこと』と発言したそうです。でも今、ようやく患者さんが戻ってきている状態なので、もし本当に看護師が大量に辞めたら、第2波がきたらとき対応できないかもしれません」(文芸春秋ライン)。

 

病院経営者は、看護師が辞めても新たに看護師を雇えばいいという。しかし、コロナ感染治療のためには相当の経験、チームワークが必要であり、看護師の数をそろえれば済むということではない。経営者の態度は恐るべき無責任というしかない。

 

今、東京では、緊急事態宣言解除後、感染者は連日100名超し、最近では300名近くに急増、神奈川、埼玉、千葉など東京周辺の地域や大阪など大都市でも感染者が増え、第2波感染到来の危機が言われている。

 

これに対して、国は「圧倒的に東京都問題」として対応を都に押し付け、一方、都知事の小池もこうした国の対応を批判、警戒レベルを最高に引き上げ、「不要不急の外出を避けて欲しい」というだけで、具体的な対策はなしで、積極的に動こうとしない。国も都も感染拡大を防ぐために対応を進めるのではなく、お互いに責任を相手に押し付けあっているだけの無責任を決め込んでいるのである。感染拡大に備えて賃金カットや人員削減などで苦しんでいる医療労働者のことなど真剣に考え、その改善に取り組むことなく、政府は「経済活動」が大切とばかりに、計画を前倒しして22日から1・7兆円もの観光や飲食業者のための「GoToトラベル」キャンペーン(東京発着は除く)に突入しようとしている。だが、コロナ感染が拡大したら「GoToトラベル」キャンペーンなど吹き飛んでしまうだろう。

 

東京女子医大病院は、1千を超す病床をもつ大規模病院であり、都の指定する救急搬送先の一つである。コロナ感染に限らず、緊急医療のための都にとって重要な拠点である病院で行われている看護労働者への犠牲転嫁については、「現時点では状況を確認できていない」と他人事のような態度をとっている。

 

コロナ感染拡大で、患者受診を控えるようになったり、コロナ患者を受け入れて感染を恐れて他の患者の受診が減ったりして経営が悪化し、夏のボーナスを昨年に比べ減額する病院、介護施設は、約3割に上るという。東京女子医大の看護婦大量退職は、コロナ感染犠牲がしわ寄せされる医療労働者の現状を象徴している。(T)