清掃関連の現場で働く仲間から、過酷な現場を告発するメールが送られてきましたので、紹介します。

浄化槽清掃労働の現場からの声

私が働いている会社では、浄化槽の保守点検及び清掃業、し尿汲み取り、あるいは産業廃棄物の収集運搬業を事業として行っている。その中で私が普段担当している業務は浄化槽の清掃である。


 浄化槽の清掃とは、浄化槽法に義務づけられている年に1回以上の頻度で行われる、浄化槽内の汚泥の引き出し、および槽内の洗浄を行い、浄化槽本来の機能を維持回復させる作業である。

分かり易く言えば、バキュームカーのサクションホースで汚泥や汚水などを吸引させ、処理場などに運搬する作業である。この作業自体は、それほど特別な技能が必要となる作業ではなく、半年ほど現場で経験を積めば、ほとんどの作業は可能となる。

通常の一般家庭に設置される10人槽以下の浄化槽では、大体作業時間は20分から60分程度で終了する。確かに、学校や公共施設あるいは大きな事業所などに設置される大型の浄化槽等については、2,3時間とかあるいは半日以上がかかる場合があるが、件数から言えばかなり少数である。しかも、バキュームカーの積載容量は決まっているので、当然一台のバキュームカーで、一度に吸える汚泥・汚水量は決まっており、タンクが一杯になれば、それ以上作業ができないので、途中で処理場等へ投入する為に、車を走らせないといけない。

例えば、作業時間3時間と言ってもそれは処理場へと運搬する為に、何度か往復する時間も含まれるわけである。そういう訳で、サクションホースを引っ張る作業――浄化槽の設置場所によると作業車両からの距離が数十メートル、あるいは100メートル以上の現場もあるので、その場合は、作業員が重いホースを引っ張っていく必要がある――や、汚泥の吸引作業――サクションホースでの吸引時にかなりの圧力がかかるため、ホース先を持っての長時間労働はかなり疲労する――等は、労働強度が高い作業であるが、一回の連続作業時間(強度の高い現場作業)は通常数十分程度にすぎない。

つまり、建設現場での労働者などに比べれば、労働内容として楽な方だろう。これがわが社の一般的な浄化槽清掃作業であるが、私は市内にある世界最大級とうたわれている製鉄所の構内での浄化槽清掃作業を担当している。この製鉄所構内での作業は、構外での一般の浄化槽清掃と比べて、労働強度の面でかなりきつい。特に高炉近辺や高温の溶鋼状態での処理過程である製鋼工場では、有毒なガス、高濃度一酸化炭素ガスが発生し、あるいは溶鋼を処理する過程で発生し、大気中に飛散する金属粒子が大量に浮遊している現場での作業もある。

勿論これらから身を守るために、構内作業では、常にヘルメットと保護メガネ、および安全帯、ライフジャケットの着用が義務づけられている。また、粉塵や金属粒子が舞うような現場では、当然防塵マスクの着用は必須である。はっきり言って、これだけの装備を常に着用して作業するのは、身体も締めつけられるし、かなり重い。

冬場はまだ良いが、夏場はこれらを身に着けていると異常に暑苦しい。作業内容を別にしてもこれだけの余計な装備を着けているだけで身体への負担はかなり違う。その上、作業内容でも作業員への負荷・労働強度が一般の浄化槽清掃作業に比べてかなり高い。多くの浄化槽は製鉄所構内の各工場の外側に浄化槽が設置されているが、中には建屋の奥深くに設置されている浄化槽があり、何台かのバキュームカーのホースを連結させ100メートル以上ホースを這わせての作業となることもある。

このような現場では、直接にホースを引っ張っていくことは、ほぼ不可能――なぜなら浄化槽までの通路が何度も屈曲しており、ホースが引っかかってしまうし、また途中狭い階段がいくつもあり、そこを何度も上り下りしないと辿り着かない為――であり、その為ホースは20メートル前後でジョイント部分を切って肩に担いで作業員が何度も往復して運び、それから接続していかなければならないからだ。

こうした現場での階段の下では、高温で真っ赤になっている鋼板が高速でライン内を流れている場合が多い。当然ながら建屋内の温度、湿度とも異常に高く、冬場でも2、30分もいれば――ただいるだけで!――気分が悪くなりそうだが、夏場だとはっきり言って地獄であり、こんな現場でホースを担いで、何度も階段の上り下りをすると本当に体力を消耗する。

このように同じ浄化槽の清掃作業でも労働の強度と作業員への負荷はかなり違う。しかし、製鉄所内での作業をしていると我々は、まだ随分とマシだと感じざるを得ない。例えば、肺がんなどの労働災害の発生率の高いコークス炉近くで我々も作業をすることがある。コークス炉の真下で作業をすると上空から真っ黒な粉塵が降り注いでくる。

たった、2、30分車両を停めて作業をするだけでも、関係者以外の立ち入りを制限する為に設置したカラーコーンの下の部分が、完全に黒い粉塵で埋もれてしまうこともしばしば。現場を一旦離れる為、バキュームカーに乗り込むためにヘルメットを脱ごうとすると、ヘルメットの鍔の部分に大量の粉塵が溜まってドサッと落ちることもある。しかし、我々は、一日にこのようなきわめて過酷な現場で作業するのは、せいぜい一時間程度で、仕事全体の数%でしかない。

しかし、コークス炉でまる一日作業をしている作業員たちもいるが、彼らの負担・消耗度合いについては、本当に想像を絶するものがあると思う。製鉄所の求人募集では毎回、このコークス炉の求人がかなりの数で出ている。統計的なデータは分からないが、ネットで少し調べるだけでもコークス炉関連での労災は多く、裁判事例も散見される。死亡率という事であれば、高炉での転落や高炉から出る一酸化炭素中毒での事故の方が高いのかもしれないが、労働環境の過酷さは群を抜いているのではないだろうか。

つまり多くの労働者が、現場の労働の過酷さの中で消耗し、長続きせず、短期間で辞めていっているという事だろう。しかも、このような現場では製鉄メーカー本体の採用ではなく、下請けの関連会社のさらに下請が多い様である。日当は比較的高いが、期間雇用など不安定な雇用形態の労働者が多い様である。

製鉄所内では、このようにきわめて過酷な労働現場が無数にある。将来的には、このような危険で過酷な現場ではAIを搭載したロボットや完全オートメーション化したラインによって担われ、作業員の災害リスクを排除し、労働の大幅な軽減が図られるかもしれない。しかし、現状ではこれらの工程の作業が必要だし、そこで従事する労働者も必要なのだ。このような労働に従事する労働者がいなければ鉄は作れない。

確かにひと昔前と比べて、素材としての鉄の需要は相対的に低下している。しかし、現代に生きる人間で鉄の恩恵を受けずに暮らせるものなど一人もいないだろう。自分は車など持っていないという人も、バスや鉄道を一度も利用したこともないし、今後も一切利用することはないという人間はほぼいないだろう。自分は鉄製品をほとんど使っていないという人も、靴や服などは身に着けるだろう。現代的な協業製品としての靴や服の生産工程、生産手段として働いた機械などには鉄や鉄製品が含まれてないだろうか。

勿論、鉄だけではなくおよそ一般的に流通する生産物は、社会的に必要なものであり、多くの人がその恩恵を受けている。つまりそれは、そうしたものを作る生産的な労働が、多くの人にとって必要だし、それなしには社会は成り立ちえないということだ。こうした過酷な労働現場で働いている労働者の存在なしには、どんな社会も存続しえないのである。

だが、この社会の現実は、こうした過酷な現場で働き、真に社会を支えている人々が大切にされる社会ではない。むしろ大切にされるどころか、実際には彼らこそが最も搾取され、また肉体的にも精神的にも消耗し、使い物にならなくなるとすぐに捨てられる存在である。それは、こうした部門の業務を、製鉄会社本体がやるのではなく、下請け会社が業務を請け負って、実際に働くのはさらにその下の下請け会社に雇用された期間雇用などの非正規労働者であるという事が物語っているだろう。

このように社会を生産的な労働により支えている労働者が、ぞんざいに扱われる社会はおかしい!本当は彼らこそが社会の主人公であるべきではないか? 

 清掃関連労働者(D)