二日後に〝歴史的な〟米朝会談(トランプ・金正恩のトップ会談)がシンガポールで開催されようとしている。トランプも金正恩もともに、その〝成功〟を心から願っているのだから、まさか大逆転の喧嘩別れは無いだろうし、2人はそれぞれの〝成果〟を誇り、大安売りするだろう。


 しかし一体どんな〝成果〟か。

 トランプや安倍は北朝鮮の核廃棄を要求し、大声で叫んできた。断固たる制裁を謳い、全世界を巻き込んで実行に移してきた。安倍もトランプも、品性のかけらもなく「不可逆的な」核廃棄だとか、「最大限の制裁」だとか、大げさな言葉をわめき散らしてきた。


 文在寅は盛んに「金正恩の核廃棄の意思は本物だ」と請け合うが、しかし金正恩が一筋縄でいかない人間であるのは周知の通りで、トランプに対しても、核廃棄の確かで、強固な意思を伝えているかは確認されていない。

他方、トランプも金正恩の核廃棄の意思がはっきりしないのなら、あるいはそれが短期間の間に行われるということでなければ「席を立って」帰るとほのめかしていたが、ここまで来たら、2人とも簡単に「席を立って」帰るといったことはできそうにもないし、やるつもりもなさそうだ。

トランプがどこまで妥協するつもりかはっきりしないが、1、2年で核廃棄を実行させると言っていたことをひっこめ、「段階的な」やり方を認めるかの発言をし、「時間をかけても構わない」とも明言し始めている。トランプの首脳会談に託す目的は、北朝鮮半島における、今なお継続している戦争状態――南北朝鮮の、中国やアメリカまで巻き込んできた――を止めさせるといった歴史的な〝偉業〟を成し遂げ、「歴史に残る大統領」、平和の使徒としての名を残すこと、11月の中間選挙で勝ち、大統領の再選につなげること、つまり個人的なことであって、北朝鮮や朝鮮全体の労働者、勤労者のことでも、まして日本のらち問題でもなく、〝友人〟である安倍の立場に配慮することでさえない(何しろ、アメリカ第一主義に凝り固まったトランプのことだから)


 他方、金正恩がさらに駆け引きをして、結局は核保有国の仲間入れを果たそうと野望を膨らませているのか、本気で核廃棄をするつもりか、あるいは朝鮮の国民的統一に情熱を燃やしているのかも不明である
(しかし祖父の金日成に倣って、再度〝朝鮮戦争〟を挑発し、武力侵攻などの暴力的な手段によって国民的な統一を成し遂げようというのでなければ、金正恩には自らの専制主義に終止符を打つこと以外、どんな手段も無いことを自覚しているようにも見えない)が、しかしいずれにせよ、2人の会議を成功させようという強い意思だけは確かなようである。


 トランプの意思は政権の維持であり、2期目の大統領の地位であり、金正恩は「体制の保証」であり、それが実質的なものとして与えられることである。


 しかし「金体制の保証」はいかにトランプといえども、口から出任せの空文句以外に与えることはできないであろう、というのは、北朝鮮の労働者・働く者はトランプがどんな「保証」を約束しようとも、金の〝前近代的な〟専制体制が続くなら、金体制の動揺に乗じて、今や自分たちの明確な意思と闘いによって金王朝を一掃するだろうし、たちまちしてしまうだろうからである。


 とはいえ、トランプと金正恩の首脳会談が矛盾も闘争もなく、スムーズに進むとも思われない。トランプは北朝鮮の核廃棄を考えるが、同じ核廃棄でも、金正恩は南の核廃棄も同時に求めるだろうが、トランプはそれに簡単に応じられるだろうか。トランプはそんなことは容易だと考えるかも知れないが、トランプの意思や大統領再選というトランプの優先意思とさせて、朝鮮問題から、これを最後に手を引く、当面、自分の権力維持だけが問題だといって交渉に臨んでも、もしアメリカ大資本が、国家や議会がトランプの意思と違うなら、ことはそんなに簡単に進まないだろう。アメリカが国家として、日本や韓国から軍隊を引き上げ、軍事基地も撤収するかどうか、そんなことが簡単に可能かどうかを考えてみれば、それがトランプの考えるほど安易な問題でないことが明らかになる。問題は中国やロシアとの関係という、より大きな問題が、世界的な大国相互の覇権争いが、世界的な帝国主義体制の問題が絡んでくるのであって、単なる北朝鮮だけの、切り離された、孤立した問題ではなくなってくるのである。


 北の核の問題は安倍政権にとって、トランプにとってよりはるかに重要であり、トランプのように容易に妥協し得ないのである、というのは北朝鮮の核は、北朝鮮の方が軍事的に日本よりも強大な国家として現れることであり、到底容認できないからである。北の核はアメリカや中国やロシアにとっても、どうでもいいようなものである、しかし安倍にとってはそうではなく、どうしても許容できないもの、がまんできないものである。


 北の核は安倍政権にとってはまさに目の上のたんこぶ、煮ても焼いても食えない、鬱陶しく、腹立たしいものである。核を有しない北朝鮮なら、安倍がいくらでも鼻先で対応できる、極東の無力な、そして貧しい小国の一つにすぎない。もし核兵器がなければ、通常兵器における、日本の優位は圧倒的であって、北は日本と対等に、あるいはそれ以上にまともに張り合い、軍事強国を誇り、居丈だけに日本を恫喝することもできない。


 他方、核兵器さえあれば、金正恩は日本に対して、憎たらしい、傲慢な安倍に対して、いくらでも優越的に振る舞うことができるのである。


 だからこそ安倍はトランプ以上に北の核について非妥協的であり、その廃棄の立場に固執し、最後まで〝最大限の〟制裁をやれと向きになって叫んできたのである
(他方、トランプは最近「最大限の制裁」などと今はいいたくないと、安倍と手を切るような発言まで口にしていて、安倍を困惑させた)

 

安倍はこれまで、「最大限の制裁」の強硬路線をわめき、そんなものを自らの外交防衛政策の一つの根底として、〝売り〟として珍重し、「国難」だなどとわめき、日本の固有の利益とか立場とか、〝国益〟等々の言葉に簡単に乗せられ、誘惑されるプチブルや遅れた労働者、勤労者や、反動派や国家主義者らの支持を集め、それをひとつのテコとして権力を掌握し、維持してきたが、いまや突然に風向きが変わって、急にそんな安倍政権の伝家の宝刀が役に立たなくなってしまった。


 かくして孤立した安倍にとって問題なのは、転向したトランプの北朝鮮〝宥和策動〟に乗っかって、せめてらち問題解決のとっかかりを見出すことである。名前のすでに分かっている拉致被害者だけでも日本に〝取りもどす〟ことであり、その手柄によってトランプと同様に、秋の自民党総裁選で3選を果たし――せっかく、3選は許されないという党の決まりを、自らの手でひっくり返したのだから――、安倍政権の延命を可能にすることである。


 彼にとっては今や北朝鮮の核廃棄すらどうでもよくなるのであり、北朝鮮がトランプの〝お友達〟だということになれば、安倍にとってそうなっても少しもおかしくないのである。そんな安倍にとっては、北朝鮮の労働者・働く者の、〝前近代的な〟専制王政からの解放――ブルジョア的、〝民主主義的な〟解放や、分断された南北朝鮮の国民的な再統一――さえどうでもよく、ほとんど関心の外である。


 他方労働者の国際主義に立脚する日本の労働者・働く者は、金王政の専制主義のもとで苦悩する北朝鮮の、そして朝鮮半島全体の労働者・働く者の同胞として連帯と共同の立場を表明し、何よりも北朝鮮の労働者・働く者の解放を願い、連帯するのであり、共に地球上のどんな搾取や抑圧の体制も永久に一掃するため共に闘おうと呼びかけるのである。


 他方、安倍は徹底した〝自国ファースト〟の国家エゴイストであり、国家主義に凝り固まる利己主義者に留まるのである。その点では安倍は終始一貫しているのであり、いるからこそ、日本の労働者・働く者にとって百害をもたらす、最悪最低の首相なのである。(林)


『海つばめ』の「 米朝の〝歴史的〟融和」の記事を参照ください。

http://wpll-j.org/japan/petrel/petrel.html#1 米朝の〝歴史的〟融和