茶番の自民党新総裁選び

──災厄継続の菅〝新総裁〟

 

安部の首相辞任に伴う自民党の新総裁選の準備が進められています。候補者は菅官房長官、岸田政調会長、石破元幹事長の3人ですが、正式の選挙を待たずに、菅の新総裁が事実上決まったも同然です。

 

というのは、最大派閥の細田派をはじめ、麻生、竹下、二階、石原の5派閥が無派閥の菅支持を決め、総裁選挙についても全国の党員・党友による選挙を行わず、両院の議員及び都道府県連代表者による投票によるという方式で決めることを党総務会で決定したからです。

 

党員・党友の投票する権利を無視して、さらにまだ総裁選に向けての政策を発表もしていない菅を新総裁として推しだすことを決めた理由について、総務会長の二階は「緊急を要する時」であり「政治の空白、停滞は一刻も許されない」と言っています。しかし、安倍は首相辞職を表明しましたが、今月半ばに次期首相が決まるまでは首相であり続け、政府がなくなったわけではありません。「政治的空白」云々は、まったくのでたらめです。

 

菅支持の各派閥は、安倍に批判的であり、地方の党員に人気のあった石破派を排除してこれまで通り自分たちで政治を切り盛りするために党友・党員選挙を省いたのです。彼らが恐れていたのは総裁選での投票が党主流派に批判的な石破へ流れることです。

 

石破は、総裁選にあたり,森友・加計・桜を見る会問題について、政権に入った後、「どういう問題かの解明をまずやり、必要ならば(再調査を)当然やる」と抱負を語っています。石破が実際にどの程度行うかは別にして、こうした石破が地方で多くの票を獲得することは、たとえ石破が総裁選で勝たなくても、安倍政治を支えてきた主流派にとって都合が悪いからです。

 

菅は、立候補にあたっての記者会見で、森友学園問題等についての質問に対して「(再調査を求める声がある)森友学園問題は処分や捜査も行われ、すでに結論が出ている」解決済みのことだと述べています。

 

森友・加計学園・桜を見る会問題は、官邸が官僚幹部の人事権を掌握し、政治を私物化する安倍の専制的政治、腐敗と反動を象徴しています。官房長官として安倍政治の中枢を担っていた菅を総裁に担ぎ出したことは、自民党が権力の地位を利用して政治を私物化してきたことについて何の反省もなく、開き直っていることを明らかにしています。

 

菅は立候補にあたって、「安倍政治の継承」を謳う以外にこれと言った新たな政策を打ち出していません。

 

安倍政治の看板政策であった「異次元の金融緩和」と積極的な財政支出、経済成長戦略の「三本の矢」による「アベノミクス」は破綻しました。13年3月には黒田を日銀総裁に任命し、「異次元の金融緩和」を実行させました。日銀が市場に大量のカネを供給し、物価を引き上げれば、日本経済は「デフレ」から脱却し、「好循環」になるというのがその理屈です。

 

金融緩和で2012年の安倍第二次政権発足前に9千円台であった株価は15年4月には15年ぶりに2万円台になり、製造業などを中心に業績は好転しました。しかし、それは金融緩和により市場に大量のカネを投入し、円安になることで輸出が増加したことや世界的な景気回復に助けられた結果でした。

 

アベノミクスによる株価上昇で利益を得たのは大企業や資産家たちです。安倍は400万人の雇用を増やしたと言いましたが、そのほとんどは賃金も低く、生活も不安定な非正規の労働者です。

 

政府はアベノミクスの成果を大々的に宣伝しましたが、実際には政府が強調したほどの経済成長は実現されてはいません。

 

安倍政権の下での景気回復期の実質経済成長率は平均年1・1%程度、実質賃金はむしろマイナス0・5%と低下しました。景気回復期間も「戦後最長」と政府は言いはやしましたが、すでに18年10月に終わっていることが明らかになり、「戦後最長の経済回復」は全くの幻に終わりました。

 

政府は、景気を押し上げるために金融緩和と財政出動を続けました。毎年、経済対策として借金頼みの巨額の補正予算を計上し、財政規模はますます大きくなり、そして国家の借金は膨張し続けました。さらに新型コロナの感染拡大で、国家の借金は約1100兆円と国内総生産の2倍以上にも膨らんでいます。

 

しかも、世界的に景気が悪化したのに加えコロナ感染が広まる中で、雇用も悪化、安倍はさんざん自慢してきた「アベノミクス」については口にしなくなってきていました。

 

 また安倍は「暮らしの向上」や「社会保障の充実」を訴える政策を次々と打ち出してきました。2013年には「5年間で待機児童ゼロ」をめざす、15年のアベノミクス「新3本の矢」では、「20年代半ばに希望出生率1・8人」、「20年代初頭に介護離職ゼロ」を実現すると約束しましました。

 

 しかし、待機児童数は19年でも1・6万人を超え、後に20年に繰り延べされましたが、とても待機児童解消を実現する見通しはありません。

 

出生率改善の問題についても、昨年の出生数は統計史上最低の80万人台に落ち込みました。一人の女性が生涯生むと見込まれる特殊出生率も1・8と安倍政権発足前の水準に戻りました。これは政府が若い世代が子どもを産み育てることが出来るように真剣に取り組んでこなかった結果です。

 

「介護職離職ゼロ」についても、介護職員の離職者は17年9月までの1年間で9・9万人に上り、「離職者ゼロ」は絵にかいた餅に終わりました。もともと政府が実現のために取り組む意思などなく、人気取りのスローガンでしかありませんでした。

 

「異次元の金融緩和」と財政出動の「アベノミクス」で経済は再生・強化されるどころか、ますます衰退し、労働者・働く者の生活も悪化してきました。菅は「安倍総裁の取り組みをしっかり継承。アベノミクスを責任をもって引継ぎ、先に進める」といいますが、安倍自身口にしなくなった破綻した「アベノミクス」をどうやって「先に進める」のか、奇怪千万というしかありません。

 

また菅は、「『戦後外交の総決算』をはじめとする外交・安全保障、拉致問題の解決、憲法改正などの課題にも挑戦」すると述べています。

 

 これらはいずれも、安倍が述べてきたものばかりです。安倍は、戦後の「民主主義・平和憲法」を米国に押し付けられたものとして否定し、「自主憲法」という名で国家主義的な憲法にかえることを悲願としていたが、それに手を付けることが出来ず辞任しました。

 

しかし、安倍は戦後歴代の政府がタブーとしてきた、集団自衛権の承認、自衛隊の海外派兵、防衛庁の省への昇格、愛国主義の道徳教育の導入など国家主義、軍国主義を一挙に推し進めました。安倍内閣の番頭(官房長官)として安倍に忠勤した菅は、安倍なき後も安倍の敷いたレールに沿って反動政治を推し進めようというのです。

 

安倍の国家主義的政治、行き詰まり破綻した「アベノミクス」継承を謳う菅政権の誕生は、労働者・働く者にとっては災厄をもたらすばかりです。(T)

 

(労働者党HP『巻頭言』「八方塞がりの末に首相を辞任――安倍政治の〝成果〟と罪歴」を参照してください)