新型コロナウイルスの世界的な広がりは、日本経済にも生産の縮小・停止、企業業績の悪化に拍車をかけ、労働者の失業の増大、生活苦等々をもたらしている。こうしたなか、共産党機関紙「赤旗」(4月23日)の「危機の経済─識者は語る」欄で、桜美林大教授・藤田実は「産業政策の転換必要」と主張している。
藤田は、安倍政権が経済成長戦略としてきた「国際競争力強化」について、競争力強化や新規産業の創設でもめだった成果を上げてこなかったし、それに加えて今回の「コロナショックの中で(企業の国際競争力強化した産業構造は)その脆弱性をあらわにしています」「コロナショックに揺れる日本経済と産業の状況を見ると、企業の国際競争力に依存する経済では、いったん大きな
ショックが起きると、経済は大きく動揺することが明確になりました」と日本経済を分析している。
コロナウイルスの広がりによって、労働者の移動、活動が制限され、国際的な商品流通が阻害されたことは事実であるとしても、景気の悪化はもっぱらコロナウイルスの蔓延がもたらした結果というわけではない。コロナウイルスが世界的に蔓延する以前に、すでに国際的な信用の動揺、株価の大幅な下落等々として、世界経済は不況に陥っていたのであって、コロナウイルスの蔓延は、国際的な経済の落ち込みをさらに深化させる契機となったのであって、経済不振はコロナウイルスの影響であるかにいうことは、利潤獲得を生産の動機、目的とする資本主義的生産の矛盾から目をそらさせることである。
競争力強化によって輸出を拡大することで景気拡大を図ろうとする政府の経済政策は、コロナウイルスの国際的蔓延で、海外需要が激減し、海外からの観光客も激減し破綻したと言う藤田の結論は、「内需重視」への経済政策へ転換せよということである。
藤田は言う。
「コロナショックのなかで、農業、部品から完成品までのフルセットでの製造業、医療、卸売り・小売り、研究開発、文化、教育、各種サービス業などの国民の健康と命、国民生活を守る産業、すなわち内需を基準とする産業の重要さが明らかになっています。これらの産業が機能してこそ、日本国民はコロナショックから抜け出すことができるからです。国民生活を重視して業基盤を強化する政策こそが、コロナショック後の日本の産業政策の柱となるべきです。」
国民の生活に必要な工業製品や日用品、食料、など海外に依存することを減し、基本的に自国で作れるようにすることこそが、「国民生活を守る」ことであり、政府の産業政策もこうした方向に転換すべきと藤田は言うのである。
しかし、農産物の自給は、小規模経営で生産力の低い日本にあっては高い農産品の押しつけであり、「部品から完成品までのフルセット製造業」は、すでに電機や自動車産業で破たんが証明済みである。かつて世界のトップの地位にあった電気産業は海外の製品に押されてほとんど没落、自動車も国内で調達していた部品も海外からの輸入に切りかえがすすんでいる。
もともと、狭い農地しかなく、また石油や鉄鉱石など工業用原材料も海外に依存している日本で自給自足的経済など不可能であり、藤田が言うような「国民生活重視」を言えないのは明らかである。日本のみならず、どこの国も外国との貿易なしに経済が成り立たなくなっているのは明らかだ。
資本の活動は、国境という狭い制限を突破し、経済の国際的結びつき、相互依存を深めてきた。無制限の生産の発展こそ資本の本性である。しかし、資本は国家を超えることはできず、搾取や抑圧を伴っている。克服すべきは、利潤目的の生産、搾取、抑圧であり、資本の支配する経済であって、国際的な経済の結びつき、相互の依存ではない。利潤の獲得、労働の搾取を原理とする資本による生産を克服した国際社会は、世界の労働者の共同、協力を実現するだろう。協力を実現するだろう。
ところが藤田は、歴史を前進させるのではなく、「内需重視」の経済をめざせというのである。藤田の主張は、世界の労働者の連帯、協力に基づく国際社会の実現という労働者の立場を否定し、自給自足の経済を理想化する小ブルジョアの反動的な思想である。 (T)