腐敗堕落を深める菅政権を明るみにする総務省接待事件
労働者大衆は直ちに菅政権打倒の烽火を掲げなければならない
総務省の高級官僚らが、利害関係のある業者「東北新社」と「NTT」から接待を受けていたことが「週刊文春」によって報じられ、資本家、政治家、官僚等ブルジョアのとどまるところを知らない腐敗が、またまた明らかにされている。
それは、菅首相の長男正剛氏が係わる東北新社との問題であり、菅政権が看板政策の一つとする携帯料金値下げに係わるNTTとの問題である。菅首相と菅政権が直接係わる権力の私物化、腐敗・退廃を如実に示している。労働者・大衆は彼らにその真実を明らかにすることを要求するとともに、この虚偽で塗り固められた菅政権打倒の闘いを強めていかなければならない。
菅首相と総務省、長男正剛氏、そして東北新社が絡む腐敗した接待事件
東北新社の接待の実態と目的は、この間の報道や国会の質疑、総務省の調査で明らかにされつつある。東北新社が2016年7月から2020年12月に総務省の衛星放送業務を担当する山田内閣広報官(当時総務審議官)、谷脇総務審議官、吉田総務審議官、秋本情報流通行政局長、湯本大臣官房審議官や総務省幹部13人を延べ39回にわたり高級料亭で接待を行い、そのほとんどに菅首相の長男正剛氏が参加していた。接待を受けた幹部らは、全員が「相手が利害関係者と思わなかった」と言っているが、そういわなければ利害関係者が費用を負担する接待を禁じている「国家公務員倫理規程」に反する行為となるからである。
東北新社は、テレビ番組・CM制作、BS・CS放送事業、映画製作などの放送関連会社である。総務省が旗を振る4K放送への参入による衛星の運営会社に払う衛星料金の低減、衛星放送への新規参入の拡大のなかで利用者が多いBS右旋のスロット(電波周波数の帯域幅)への進出などで、衛星放送の許認可権を持つ総務省に有利な便宜を図ってもらいたい狙いがあり、また、BS4K放送「ザ・シネマ4K」の認定では、申請時(2016年10月)で放送法施行規則の外資比率20%を超えていたが、それを見逃して認定してもらいたい明白な動機があったことなどが明らかにされている。
この接待の積極的な役割を担っていたのが、菅首相の長男正剛氏である。菅首相は、贈賄の役割を担った長男を、自分と切り離したいのであるが、長男の東北新社での役割は深く菅首相とかかわっている。2006年に菅は総務大臣に就任すると、大臣の権限で任命できる大臣秘書官に長男をつけた。菅首相は、「ルールをもとに秘書官にしている」と国会では反論しているが、菅首相の選挙を手伝った経験しかない長男の秘書官就任は、縁故就職そのもので権力の私物化以外のなにものでもない。総務省を辞めた後の東北新社への就職は、お決まりの利害関係のある業者への「天下り」である。東北新社は総務省出身で首相の長男である正剛氏を徹底的に利用し、正剛氏自身は東北新社で会社の役員で部長という有利な待遇を得て、自らの人脈を活用し接待をして会社のために尽くした。総務省の官僚は、東北新社の意図を汲んで、接待を受けたのである。
東北新社中島社長は、正剛氏は「総務省との接待の要因のためにいたのではない」、官僚らは「懇親会」「意見交換」の会食で「相手が利害関係者と思わなかった」、武田大臣は「放送行政自体がゆがめられているとは一切考えていない」、正剛氏の影響は「確認できなかった」、菅首相は長男は「全くの別人格」などと言い、会社、官僚、武田大臣そして菅首相は、接待の事実を隠蔽したのである。
外資違反を巡る問題では、東北新社社長が外資違反を総務省鈴木電波部長に報告したのに、国会の参考人招致で鈴木電波部長は「そういった報告を受けるという趣旨であった記憶はございません」と言い逃れ、そのとき同席した武田大臣は「記憶にない」との答弁をそそのかし、彼らは虚偽答弁の内幕を暴露するものになったのである。
菅政権と総務省、NTTが絡む接待事件
NTTグループ幹部からの総務省との接待は、週刊文春が谷脇総務審議官に3回約58万円、山田内閣広報官(当時総務審議官)に1回約30万円と報じ、総務省の調査で、谷脇総務審議官、巻口国際戦略局長が、NTT側から2018~2020年に少なくとも4回、計15万円超の接待を受け、秋本前情報流通行政局長(当時総合通信機基盤局電気通信事業部長)と鈴木事務次官(当時総務審議官)の2人が、NTTの澤田社長と2018.11.8に会食したことを認めた。
NTT側がこの総務省を接待した理由として考えられるのが、菅首相が政策に掲げる携帯料金引き下げと、NTTが求めるドコモ完全子会社化である。菅首相は、官房長官だった2018年8月に携帯料金は4割程度下げる余地があるとし、所信表明演説でも携帯料金値下げに言及し、菅政権の看板政策の一つとして、大衆の支持をかすめ取ろうとした。
値下げの推進力のような役割を果たした谷脇氏は、国会でNTT側との会食が応分負担と主張したが実際は5千円1回を払っただけであり、「支払った記憶だった」「5千円と提示されのたで相当だと思った」と言い訳をした。NTT澤田社長は、「値下げは事業者の戦略。私が料金の話を出すことはない」、利害関係が明らかな総務省を高額接待することを「賄賂に当たるとは考えていない」などと言い逃れた。接待の場で話さなくても、別の場で「意見交換」することはいくらでもできるのであり、客観的に賄賂に当たるのである。
また、週刊文春は、2017年11月~2020年9月に野田幹事長代行と高市衆議員(当時総務相)、坂井官房副長官と寺田衆議員(当時副大臣)の4人に、延べ6回の接待をNTT澤田社長が行ったことを報じた。野党が求めた彼らの国会への参考人招致を、自民党青木党筆頭理事は、「週刊誌報道だけで国会議員を招致することは、国会の権威を傷つける」といって拒否したが、これまでその週刊誌報道で報じられた接待をすでに総務省と本人らも認め、しかも、野田らは「接待ではない」と言いながら、不足分をNTTに返しているのだから、言い訳に過ぎないことを自ら語っている。「国会の権威を傷つける」というなら、彼らこそが国会を「おしゃべりの場」としているのである。
ドコモ完全子会社化は、菅首相の提唱する料金値下げ密接に絡んでいる。ドコモは携帯大手3社の中でシェアの低下が続き、収益で3割に落ち込んで、反転攻勢が課題であった。NTTは値下げを実現するために、ドコモ完全子会社化によってこれまで株主に配当していた利益を会社に取り込もうとしているのである。そして完全子会社とするには、総額4兆円の株式公開買い付けで、一般投資家株式を買い取る必要があり、NTTはその資金を国や銀行の融資に頼らなくてはならない。NTTの株は3割以上国が保有し、政権と政府に密接な関係があり、値下げおよび完全子会社化を巡って総務省の有利な計らいが必要だったのである。
菅政権は携帯料金の値下げを掲げるが、格安スマホや格安SIMがあり、わざわざ菅政権が携帯値下げにしゃしゃり出ることはない。自由主義政策を標榜する菅政権にとっては、値下げは矛盾する政策である。菅政権は、むしろ規制を撤廃し、競争原理によって、料金値下げを実現する環境を整備すべきなのである。料金値下げの提唱は、大衆受けを狙った政権維持のための姑息な政策で、政策の私物化の何ものでもない。
もっとも、競争で料金を引き下げるといっても、それぞれの携帯電話会社が、「基地局」や「交換機」といった通信設備が必要となり、同じ空間にこれらが林立すればかえって費用が課題になるという非効率が生まれる。通信設備などを資本としてではなく、社会的共有生産財として設けられれば、値下げの本来の意味となる必要に応じた設備となり、携帯電話は効率よく労働者大衆に提供されるであろう。
菅政権は、そして菅政権に腰巾着のようにくっ付いている維新などは、「既得権益の打破」といって大衆の支持を得ようとするが、最大の既得権益は私有財産であり、金や生産財、土地などが資本や金持ちに私有され、既得権益となっていることを黙して語らない。「既得権益の打破」というなら、私有財産こそを全労働者・大衆、すなわち社会の共有物とすることであり、それは労働者・大衆が目指す社会主義社会である。
菅政権、官僚、資本家の腐敗は、労働者・大衆の菅政権打倒の闘いで一掃を
東北新社問題もNTT問題も官僚、および政治家への接待事件であり、菅政権および菅首相本人が深くかかわっている。資本家、政治家、官僚は一体となって、資本の支配の維持を図り、自分たちの権益を守っている。実務では、資本家に雇われている技術者が実務に精通し、官僚は行政のためにもその知識が必要であるが、資本家もその技術を通して会社に有利なような働きかけをすることになる。資本家の利益を貫く政策を政治家が担うことになる。また、技術の基礎となる科学的知見を有する学校などの研究者が、この構造に絡んで、支配階級のヒエラルキーが形成される。こういう構造では、実際的にも互いの知識・技術・科学的知見を「意見交換」する必要も生まれるが、彼らがお互いに便宜を図りあい、そこに金に絡む贈収賄などの犯罪が必然化し腐敗が生まれる。そして、資本が技術革新で利益をあげることが困難になっている資本の行き詰まりは、利益を追求するために官僚、政治家と資本との結びつきが生まれる、腐敗腐朽の根源である。
今日の東北新社問題およびNTT問題を巡って明らかにされた、官僚の目に余る腐敗・堕落を見るにつけても、官僚が身分の安定と高収入(高額接待を受けた谷脇元審議官の退職金は5千万円という)という特権に甘んじることができる資本主義社会を告発せざるを得ない。我々はここでも、「古い官僚装置を粉砕しこれを同じ労働者と勤務員からなる新しい装置でおきかえる」コミューン原則の必要性を痛感する。「彼らの官僚への転化を防ぐために、選挙制だけでなく随時の解任性、労働者の賃金を超えない俸給、すべての人が統制と監督の職務を遂行し、すべての人がある期間「官僚」になり、したがってまた、だれも「官僚」になれない状態へただちに移行すること」(『国家と革命』レーニン)である。これは、すでに労働者が権力を掌握した社会主義社会でのことであるが、我々はこのような社会をめざさざるを得ない。
国会でののらりくらりとした嘘偽りで野党の追及をかわしている菅首相、武田大臣、官僚、NTTや東北新社の社長のやり取りを見ていても、国会が「おしゃべりの場所」になっていると言わざるを得ない。しかし議会は、「支配階級の主要な支配形態」となっており、また諸階級の「主要な闘争舞台」でもある。「ブルジョア議会の議員となってはじめて一定の歴史的条件にもとづいて、ブルジョア社会と議会制度とに対してたたかうことができる」。われわれは、「労働者党が、このブルジョア民主主義体制のなかで選挙闘争に参加する必要性」(『労働者派・社会主義派の代表を国会へ』)を認める。われわれはこのような展望をもって、現在の政治課題として、腐敗堕落を深める菅政権打倒の闘いを強めていかなければならないのである。
(大阪・佐々木)