『海つばめ』1386号に掲載した記事ですが、紙面の都合で一部省略しましたので、ここに全文を掲載します。トヨタイズムの実態を暴露しています。
トヨタ新「成果主義賃金」へ!
——攻める資本に、服従する労組
トヨタ自動車は2021年1月から新賃金制度に移行しようとしている。9月30日に行われるトヨタ労組の大会で新賃金制度導入が決定されると、トヨタ自動車において「成果賃金制度」が本格的に導入されることになる。トヨタにおいて「成果賃金制度」が導入されるとその影響は大きい、今後多くの会社がトヨタに倣って「成果賃金制度」を導入するだろう。会社側は「成果賃金制度」を根拠に、賃下げや労働条件全般の引き下げを行い利潤を搾り取るだろうし。労働者に分断をもたらし、資本による労働者支配は制度化され、組合は組合員に会社への忠誠と会社が期待する仕事の取組みの旗を振るだろう。
新賃金制度(成果賃金制度)の具体的内容と目的
新賃金制度の内容についてトヨタ労組の発行する「評議会ニュース」(8月5日発行)によれば「第15回労使専門委員会」で、事務技術職(事技職)では、賃金水準の見直しを行い、これまで「上限」を設けていたのをやめて、「頑張り続ければ上限なく昇給し続ける」に変更されたと報じられている。
トヨタの基本給は2種類の基本給で構成されている。一つは「職能基準給」と評価によって決まる「職能個人給」で今後は「職能個人給」に一本化したうえで、定期昇給を従来の事技職(主任職)の評価がA~Dまでの4段階であった考課を6段階に細分化する。
A~C評価は全体の90%(資格期待通りかそれ以上)D1、D2評価は10%(資格期待を下回る、FB[フィードバック=教育]しても改善せず)、D2評価はゼロ昇給、以上までで5段階。6段階目のE評価(周囲に悪影響を及ぼしているorFBしても改善の努力が見られない)はゼロ昇給に止まらない配置転換や解雇を会社側が考えていることを予想させる(明示されてはいない)。
工場で働く労働者(技能職)の考課は4段階でA~C評価は全体の90%(A期待を大きく上回る10%、B一部上回る30%、C期待通り60%)D評価(資格の期待を下回りチームワークやルールを遵守に問題あり。FBしても改善が見られない)としてゼロ昇給。
新賃金制度が何を目論んでいるのかは明確である。会社に盲目的に従い会社の期待通りかそれ以上の成果を生み出す者には、青天井の昇給を行う。チームワークやルールを遵守しない者(QC活動や労務管理、会社や組合の方針に異議を唱える労働者)は根こそぎ刈り取り、「トヨタマン」として疑うことなく会社に忠実に従う労働者を作り出そうとすることにある。
驚くべきことに新賃金制度(成果賃金制度)を正式に申し入れたのは会社側からではなく、組合側からの申し入れという事である。組合は新賃金制度を提案し、春闘恒例の会社側回答日直前の大集会(19年は5100名参加)を取りやめ、組合員の団結を鼓舞し資本に要求を突きつけるガンバローを唱和(たとえ形だけとはいえ)することさえ中止して(コロナ対策が表向き)、資本の軍門に下った。
新賃金制度導入の背景
2018年、豊田章男社長は自動車業界が「100年に一度の大変革期」にあり、「生きるか死ぬかの瀬戸際にある」と危機感を強調し、トヨタは自動車会社からモビリティカンパニーにチェンジすると宣言し、19年には東富士工場を閉鎖した跡地に水素エネルギーや自動運転、コネクティツド技術を実証する2000人が住み生活する「コネクティツド・シティ」を2021年末から建設すると発表し、CASE(コネクティツド、自動運転、シェアリング、電動化)関連の新会社を相次いで立ち上げ、新たな競合相手=GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)との戦いに乗り出している。
コロナ禍の中でも21年度の第1四半期に1588億円の黒字を生み出した。世界中の自動車会社が赤字を強いられる中で、売り上げを前年比マイナス41%まで落とす中でも1588億円もの利益を上げる事が出来た理由の一つが、労使一体化や運命共同体のトヨタイムズの徹底的な浸透(洗脳)を組合や社員に行ってきたことにある。
新賃金制度導入の背景は、「百年に一度の変革期」の危機とそれに対するトヨタイズムのトヨタ資本の回答である。
〝家族としての助け合い〟や〝産業報国会〟を持ち出す資本に、恭順の体で従うトヨタ労組
今回の新賃金制度を導入するに先駆けて19年には豊田社長は「雇用を続ける企業などへのインセンティブがもう少し出てこないと、なかなか終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と記者会見で発表。トヨタの春闘(トヨタ春交渉と彼らは呼ぶ)でも18年以降賃上げ額が非公表になり、19年はベア要求額も非公表、冬のボーナス回答が秋季交渉まで保留された、19年3月13日の労使交渉では「皆さんが『仕事のやり方を変える』事が出来なければ、トヨタは終焉を迎えることになると思う。『生きるか死ぬかの闘い』というものは、そういうことである」(豊田社長)
「トヨタ資本が100年に一度の変革期で生きるか死ぬかの瀬戸際にあると危機感を強調し、モビリティカンパニーにチェンジする必要がある。家族として助け合い結束しなければならない。」という会社側の要求に対して、「組合も自分たちの認識が甘かった。よそを向いている組合員も同じ方向を向くようにする。と約束した。」(トヨタ春交渉2019より)その結果19年6月にQC運動(「カイゼン」「創意くふう」)に参加した社員の参加率が60%だったのが9月には90%まで上昇したと報じられた。
今年の春闘では19年に会社が「『頑張った人がより報われる』『お天道様が見ている』会社を目指す」という要求にこたえて、新賃金制度で基本給を職能個人給に一本化することを組合側から要求し、資本の期待に応えた割合で賃金を決定するという分断と差別、恭順の姿勢を明らかにした。会社との運命共同体、労使一体を中心軸に据えるトヨタ労組にとっては、それに反発する社員や会社の利益に貢献しない社員は、組合にとっても排除すべき社員とみなしている。
トヨタでは最近、トヨタ自動車創業者の豊田佐吉が提唱した「豊田綱領」(1935年)や1962年に締結した「労使宣言3つの誓い」を取り上げ豊田社長による社員に向けた発信が繰り返されている。
「労使宣言3つの誓い」では第3項の「生産の向上を通じて企業の繁栄と、労働条件の維持改善を図る、の中にある『共通の基盤』に立つ意味は『会社は従業員の幸せを願い、従業員は会社の発展を願う。そのためにも、従業員の雇用を何よりも大切に考え、労使で守り抜いていく』と労資交渉の中でも繰り返した。
雇用を大切に考えることに異論はない、しかし労資で守り抜いていくことではない。労働者は自らの雇用を会社と一体化することによってではなく、労働者の団結した力で守り抜く、ストライキや実力行使によって資本に要求し貫徹するのだ。
「豊田綱領」からは最初に挙げられている「上下一致、至誠業務に服し、産業報国の実を挙(あ)ぐべし」を社長の豊田は「『産業報国』の精神はあるか、……『お国のため、社会のため』となれているか、この価値観を全員が共有できているか」「『至福』とはきわめて誠実であること、……誠実に業務に向き合い、最後の最後まで、業務を遂行しようと努めているか。やる気のある人や、努力を続けている人に、ぶら下がっている人はいないか」「この2つの認識について、会社も組合も、上司も部下も、トヨタで働くすべての人が一致していなければならない」。
社長の豊田はリーマンショックとリコールを乗り越えトヨタを強靭な競争力を持つ資本に作り替えたことで、絶対的権力者として、戦前の「大産業報国会」を思い起こすような発言を繰り返している。豊田綱領の最後には「神仏を尊崇し、報恩感謝の生活をなすべし」。トヨタ労組の西野委員長は答える「……労働組合としても、この豊田綱領をベースに原点に立ち返って取り組んでまいりたい」。
(愛知 古川)