韓国徴用工裁判原告者の講演会に参加して思う
最高裁勝利判決を勝ち取るも、韓日政府の政治決着糾弾
この5月の広島サミットでは、帝国主義国首脳が「核抑止論」を唱えて「戦争防止」を語りあう茶番劇が演じられた。78年前に米国はこの地に原爆を投下し、その圧倒的な破壊力で日本帝国主義を粉砕したが、原爆の惨禍は今なお被爆者やその子孫を苦しめている。
1910年、当時の大韓帝国は日本の軍事力で強引に併合され日本の植民地となった。朝鮮半島の人達は土地を奪われ、米など作物は日本への供出で多くの人民は飢餓に苦しめられ、職をもとめて日本への移住者も多く、民族差別も酷かった。併合13年後の1923年関東大震災での流言飛語による自警団等による彼らへの虐殺は、「恨みをかっている」と自覚していた政府役人や在郷軍人会の恐怖心が背景にあった。
日中戦争や太平洋での米英等との戦争で不足する労働力として日本に移住(企業の募集やしばしば威嚇・暴力をともなった徴用で)した人が多くいた。なかでも広島は軍事工業都市であり、工場労働者として多くの朝鮮半島出者が居住し被爆者も多い。
サミット終了から数日後、広島市から瀬戸内海を隔てた愛媛県松山市にて韓国徴用工裁判原告者パク(韓国京畿道原爆被害者協議会代表)さんの講演会があり参加した。彼の発言や会場でのやり取りは、通訳二人を介して以下のように行われ、一部私の補足説明も加えた。
パクさんの父親は広島で三菱重工徴用工として働き、1945年8月6日被爆。満足な補償もなく帰国し、後遺症に苦しみながら生計をたて家族を持ち生涯を終えた。パクさん自身も原爆症遺伝による症状があり、父親の意思を受け継いで、被爆と強制労働の補償を求めて運動してきた。
2019年には釜山やソウル支部の200人の原爆被害者会員で横断幕やピケット うちわ)を持って、「強制徴用問題について日本は謝罪し補償せよ」と米大使館と日本大使館前でデモや記者会見を行った。
2018年11月大韓民国大法院(日本での最高裁にあたる)で日本被告企業に損害賠償を認める確定勝利判決が出た。しかし、自民党政府は1965年の日韓条約で「賠償は解決済み」として日本企業への賠償金取り立てに反対、国際司法裁判所への提訴を主張、半導体製造材料の韓国への輸出規制を行い、韓国側も日本との軍事協力一部凍結策など、マスコミは「日韓関係は戦後最悪」と報じた。
なお、日韓条約での日本側からの資金援助(賠償の意味合いを主張し流布させている政府や追随するマスコミ報道は事実に反する。当時の椎名外相は国会で「賠償」を否定、「経済協力」と答弁)で韓国は資本主義的経済発展を遂げるも、元徴用工の人たちへの補償はほとんどなかった。
その後軍事独裁政権は打倒され、民主化された韓国では人権意識などが高まり、元徴用工の人たちは90年代から次々と日本の裁判所に損害賠償を求める訴訟を起こした。しかし、原告の訴えは退けられ、2000年以降、韓国で同様の訴訟が起こされた。
2023年2月、韓国外交部職員から「被害者は三菱重工業でなくても日本政府が謝罪すれば韓国企業が出した費用で補償を受ける案」が原告団に提案され、被害者および子孫全員が合意することにした。ところが、3月ユン大統領政府が「日本政府や企業が謝罪しなくても補償を行う」という解決策を発表した。
司法主権が政府によって損なわれることに最高裁は何の措置もとらないことを糾弾し、記者会見を行った。しかし、勝訴した被害者15人のうち10人は補償金を受け取った、残りの5人中3人は日本企業の謝罪があるまで受け取り拒否という意向である。(人数は講演会時点での人数)
なお、会場での通訳(在日2世の方)の補足説明では、韓国の平均賃金は今や日本を追い抜いていると報道されていますが、貧富の差は大きく、生活上受け取りたいとの原告者もおられるとのこと。
三菱重工での労働は自由な外出もできない監獄ともいえる宿舎生活で、約束の賃金は1割のみ支給、残り9割は強制預金として天引きされ日本の敗戦とともに支払われぬまま被爆した体で帰国した。賠償金額はこの時の未払9割分と賠償金という意味合いで、2013年釜山高等裁判決時で15人分5000万円だった。日本企業が支払いを拒否し続けたので利息がつき最終的には一億円以上となった。
なお、被爆者や徴用工に関連する団体は複数あり、今後は統一した形での運動を進めたいとも語られた。なお、韓国政府が認定した元徴用工は故人を含め22万6千人、損害賠償を求めて係争中の裁判は2015年末で13件、2016年に地裁判決で原告勝利は3件。被告企業はそれぞれ、新日鉄住金・、三菱重工、不二越(女子挺身隊)。原告は3件で100名未満。
会場には韓国から6名が同行しており、20代から30代の若者ばかり、これに対し参加者の日本人は私と同年配(60代以上)がほとんどであった。終了後、手元のメーデービラ残部を手渡し、拙い英語で、「日本の社会主義政党の者だ、ビラにはQRコードがあり是非アクセスしてくれ」と伝えた。スマホですぐアクセスしたようだったが、一人から握りこぶしで「連帯」のポーズがあった。
彼は主催の知り合いから「済州島で興武団という政治団体の団長だ」と聞かされた。後日交流で韓国に行ったことのある友人から「金日成派」(朝鮮民主主義人民共和国系)とは別の抗日パルチザンの系統だと聞いた。彼は「ユン政府は、韓国会社の半導体製造を世界のシェア10%までは認めてほしいと米国大統領に言った、主権国家たる韓国が自国の経済活動になぜ米国に許しを得るのか?」
「こんな卑屈な大統領なので支持率は2割から3割だ。次の選挙ではひっくり返したい、対米従属の彼らに未来はない」と語った。日本の共産党が「対米従属」を強調するのとは歴史的な事情が違うのであろうが、労働者の国際主義の立場からは民族主義的傾向を感じる。
日本の35年に及ぶ植民地支配を「合法」「正当」だったと開き直り、「賠償済み」として徴用工問題への謝罪や賠償を拒否し、韓国司法判断も同国政府を通じて捻じ曲げた日本政府は断固糾弾されるべきだ。組織的闘いを通じて「勝利判決」を勝ち取った原告団の人達に敬意を表した上で、日本で反動的な岸田政権と闘う労働者として連帯の挨拶をしたいと思う。
今回の日韓両国の政治決着には、両国を支配する資本家達の「当面」の利益が貫かれている。「当面」というのは、資本主義ではお互い競争(日韓では半導体、造船、自動車、鉄鋼生産など)して利潤獲得に励む存在だ。今回同行の若者達ではないが、賠償を韓国企業が肩代わりする方針を「売国的」と非難したグループも報道された。非難すべきは、自国の資本家やその代理人を務める政府である。民族主義や愛国主義では資本家を利することになる。日韓労働者は自国の資本家支配の打倒のため連帯して闘おう。(愛媛Y )